2019年3月1日、クリスティアン・ティーレマン氏の写真集が発売された。表紙が奇抜なショットである為、買おうか買うまいか悩み購入したのは今月のこと。オンラインで注文した商品を手に取り、まず感動したのは洋書としては珍しい機械でシュリンクパックされた綺麗な梱包。そして中身は、日本製の写真集を思わせる立派な装丁。写真以外の文章のページも又、上質紙で印刷されており高級感が漂う。紙フェチとしては堪らない、香りの演出も見事で賞。

 

中身については、更なるサプライズ。何故ハンサムな写真を集めず、あえて表情豊かな写真ばかりなのか?実際に見るまで疑問だったが、最初から最後まで読了し成程。1枚の写真につき、演奏者やオペラ歌手へ送る合図の説明(ドイツ語&英語)がある。テーマは、大きく分けて9つ。還暦祝いの美男ポートレート集に仕立てるより、遥かに価値のある内容。指揮者の表情やジェスチャーから読み解く、ポディウム席愛好家なら目にしたくなる1人の指揮者の記録。

 

ただし、写真と解説だけで簡単に理解出来るかと言うと、そうではないと思う。これまでに接した公演を思い出したり、リハーサル映像を含むドキュメンタリー番組を視聴したり、鑑賞する側の想像力が必要となる。しかし、幸運にも彼は現役の指揮者。これから実演に接する機会は幾らでもあり、今は分からなくても何れ謎は解けるでしょう。

 

誰のアイデアを元に、出版されたのだろうか。もしティーレマン氏が考えたことであれば、彼は本当に心が豊かな芸術家だ。ユーモア溢れるインタビューに、笑いを誘う自叙伝。素晴らしい人だと改めて感じた今月のインタビューと共に、彼の人となりが垣間見れる。私は非の打ち所がない優等生に惹かれず、彼のように芸術に全身全霊を捧げつつ、時には悩み苦しみながら生き抜く男性に魅了される。完璧ではない、そこに人間味を感じる。

 

何もかも手に入れた男に思える彼のインタビューより、一部抜粋。

「自分自身を苦しめ、美を見出すと言うのは奇妙なこと。私は全ての青春と、本当に全ての人生を芸術に捧げています」 

 

 

 

 

↓還暦祝いの写真集📚 勢いのある写真で御座います。