Arnold Schönberg&Mr. Christian Thielemann♥5泊7日ドレスデン遠征「第6弾」

 

2020年1月と2月、Kapellmeister Christian Thielemannクリスティアン・ティーレマン氏(指揮)&シュターツカペレ・ドレスデンによるRichard Wagner『Die Meistersinger von Nürnberg』公演が5回行われたザクセン州立歌劇場。3月に御目見えしたのは、Arnold Schönberg『Gurre-Lieder グレの歌』3公演。精密な対位法的書法が駆使され、後期ロマン派の中でも特に巨大な編成を要求する作品。5人の粒揃い独唱者にナレーター、そして合唱団と来ればティーレマン氏の深淵なる世界に惹き込まれるであろう千載一遇の好機。全3公演、満員御礼!

»Gurre-Lieder« Arnold Schönberg

Musikalische Leitung  Christian Thielemann

Sächsische Staatskapelle Dresden / Semperoper Dresden

Stephen Gould Waldemar
Camilla Nylund Tove
Christa Mayer Waldtaube

Markus Marquardt Bauer
Wolfgang Ablinger-Sperrhacke Klaus-Narr
Franz Grundheber Sprecher
Sächsischer Staatsopernchor Dresden

Unter Mitwirkung von Musikern der MDR Rundfunkchor

Unter Mitwirkung von Musikern der Gustav Mahler Jugendorchesters

 

第一線で活躍するトップ・ランナーの華麗なるスケジュールより、今回のプログラムは示唆に富む特別な公演。客席数はステージ拡張により2列目が最前列、実質1252席と言うハイエンドなスペシャル空間は数よりクオリティを思い起こさせる。そして上質な非日常感が、心を豊かに満たしてくれる。ティーレマン氏の繊細な美意識、そして芸術を尊ぶ精神性に魅了される愛好家は世界中にいらっしゃるだろう。今月の内容は芸術家である彼の第二の天性を至るところで聴き取れる貴重な機会。類稀なる感性と卓越した技術、オペラ歌手のコンディションに応じ柔軟なイントネーションが絶品なシュターツカペレ・ドレスデンとの共演は珠玉の名演に。

 

シェーンベルクの総譜には木管楽器25本の金管楽器25本とあり、ベートーヴェン『運命』16型78人の2倍を連想させる。指定通り第1ヴァイオリン20人と第2ヴァイオリン20人に、ティーレマン氏はヴィオラ1人とコントラバス2人を増員し弦楽器は85人。トランペットは1人が持ち替えなのか?トロンボーンは1人多く、オーケストラは148人。150人の合唱団に粒揃いのソリスト6人、そして指揮者を含め総勢305人。

 

指揮者の真後ろ席で3日間、集中して鑑賞すると発見がある。何故ステレオ効果抜群に聴こえたのか、復習して謎が解けた。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが同じ音形を奏でるところがあるのだが、左右の音量が驚異的に揃い、対抗配置のなせる究極の一糸乱れぬアンサンブルが出現。弱音の繊細な響きから強奏時の分厚い音圧まで、均質の音色でダイナミックレンジが広い。綺麗な和声は豪華絢爛なオペラハウスを優雅に駆け抜け、立ち上がった瞬間から眩しい音はマエストロの合図と共にピタリと息を潜める。各セクションの糸が撚られては1本の太い音になり、音と音が密度を増したところで見事に撓る。ドイツの豊かな風土が育んだザクセンの至宝、技術と感性の融合芸術に息を呑む。過去に経験した公演鑑賞の中でも、3日間は別格だ。そしてワーグナー、マーラー、R・シュトラウスを彷彿とさせる瑞々しい音響芸術ながら、聴こえてくる音楽は誰の物でもないシェーンベルク独自の世界。

 

オペラ歌手陣は先ず、ウィーン国立歌劇場やバイロイト音楽祭など、定期的にティーレマン氏と共演するステファン・グールド氏(ヴァルデマール)とカミラ・ニュルンド氏(ト―ヴェ)について。交互に歌われる第1部の2人とティーレマン氏の3人は、10年間もマエストロの解釈を知り尽くしたオーケストラと一心同体。得も言われぬ美しさに、心が震える。縦が揃い過ぎない伝統文化の至芸を含め、人生最高の時間を経験。クリスタ・マイヤー氏(山鳩)の歌唱はスター誕生!と叫びたくなる名唱。Kwangchul Youn氏は恐らく韓国からドイツ入りが難しく、代役を務めたのは2000年からゼンパーオーパーのメンバーでもあり2004年Christel-Goltz-Preis受賞者のMarkus Marquardt氏(農夫)。初日こそ緊張の為か若干早取りに感じられたが、2日目と3日目は見事な安定感。世界最高のキャラクター・テノールと呼ばれるWolfgang Ablinger-Sperrhacke氏(道化師クラウス)は3日間(唯一)暗譜で歌われ、3人(ヴァルデマール、トーヴェ、山鳩)に比肩する歌唱。6人のソリストのうち、最後に登場するFranz Grundheber氏(語り手)は凄い!驚いたのは、初日の朝11時から独唱者全員が絶好調だったこと。何時に起きて、声帯を温めたのだろう。ゲネラルプローベを含め4日連続と厳しい中、オペラ歌手陣はアスリート並みのコントロールで全日程オーケストラと対等の声量を!

 

合唱団はザクセン州立歌劇場の合唱団、ゲストにはMDR Rundfunkchorが招かれると言う贅沢な共演。彼の愛するシュターツカペレ・ドレスデンに、Gustav Mahler Jugendorchestersと数人のゲスト。入念に仕上げられた演奏を聴くと、力のこもったリハーサルが行われたのだろう。全公演にはマイクが入り、もしかしたらCD商品になるかもしれない。

 

素晴らしい経験を通じ心打たれると涙さえ乾き、開かれた目に火が灯る。マエストロの瞳には炎が揺らめき、聴く者は恍惚の時を共にする。音の満ち引き、拘りのフレージング、昔も今も変わらぬ魅惑のアーティキュレーション。病める時も健やかなる時も、ひとたび彼の音響芸術を耳にすると生きる喜びを得る。今も尚、演奏が蘇る。頭の中で、繰り返し再生されるのだ。至福の時よ永遠に。Christianありがとう🌹