いよいよ師走に入ってしまいました. ぼく個人の事情としては, これから年末にかけて繁忙期になりますので, 昨年までは12月には (初年度を除いて) ほとんど更新しなかったような気がしますが, 今年はいろいろありますので頑張って更新したいと思います.
 そんな12月の予定でございますが, 先日 MathPower 2018 にて初めてお目にかかった tsujimotter @tsujimotter さんが企画されたアドベントカレンダーに参加します.

日曜数学アドベントカレンダー

 参加予定日は12月14日です. 本業の都合上週末ほど数学をしにくいという, 看板に偽りたっぷりの日曜数学者ですので, 平日をたっぷり使ってできるだけ時間を取れそうな金曜日に予定を入れさせて頂きました (始まって分かったのですが, 皆さん日付が変わると同時に更新なさっているので, 土曜日を取っておくと良かったのかもと思いました). 可換環論bot 名義で参加しているので可換環論の話をします. 鋭意準備中です.

 そして, 大晦日にはコミックマーケットが開催予定です.


 いよいよ前回の夏コミケでは執筆者が淡中☆圏 @tannakaken さん一人になってしまった同人誌『The Dark Side of Forcing』の状況を見て, 全く微力ながら短文のひとつも寄せたいと思っています.
 ちなみにこの同人誌, ぼくも投稿して初めて知ったのですが, 印刷前に同人が相互に執筆記事に対してレビューをしています. 自分の書いたものに対等な立場でコメントが付くというのはなかなかできない経験ですので, 興味がある方は一度 淡中☆圏 さんまでどうぞ.
 そうこう言っているうちに原稿募集の連絡が届きましたので, 早速「書きます」と言っておきました.

 というわけで, 今月の予定でした.

巡回群と巡回群のテンソル積

 何回かを使ってテンソル積の右完全性を証明してきたわけなのですが, 計算ができるかはなかなか問題です. 手始めに最も簡単な場合を計算してみます.

例 1. $m$, $n \in \mathbb{Z}$ を整数とするとき, $$ \left( \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \right) \otimes_\mathbb{Z} \left( \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \right) \simeq \mathbb{Z}/(m,n)\mathbb{Z}. $$ 特に $m$ と $n$ が互いに素ならば $\left( \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \right) \otimes_\mathbb{Z} \left( \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \right) = 0$.

[証明] 折角証明したのですから, テンソル積の右完全性を使いましょう. $\mathbb{Z}$ 加群の完全列 $$ \mathbb{Z} \overset{m}{\longrightarrow} \mathbb{Z} \longrightarrow \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \to 0$$ に $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ をテンソルして, 自然な同型 $\mathbb{Z} \otimes_\mathbb{Z} \left(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \right) \simeq \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ を用いて整理すると, $$ \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \overset{m}{\longrightarrow} \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \longrightarrow \left( \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \right) \otimes_\mathbb{Z} \left( \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \right) \to 0$$ が完全となります.

 一方, $\mathbb{Z}$ 加群の $m$ 倍写像 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \overset{m}{\longrightarrow} \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の像を自然な全射 $\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ により引き戻すと $(m,n)\mathbb{Z}$ に等しく, ここから次の完全列が存在します : $$ \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \overset{m}{\longrightarrow} \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \longrightarrow \mathbb{Z}/(m,n)\mathbb{Z} \to 0.$$この2つの完全列を可換図で結び付け, Five Lemma!! と唱えれば出来上がりです :
WS000016


巡回群から巡回群への $\mathrm{Hom}$ 加群

 テンソル積を計算したのですから, $\mathrm{Hom}$ 加群も計算しておきましょう. 次が成り立ちます :

例 3. $m$, $n \in \mathbb{Z}$ を整数とするとき, $$ \mathrm{Hom}_\mathbb{Z}(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}) \simeq \frac{(n\mathbb{Z} :_\mathbb{Z} m)}{n\mathbb{Z}}.$$ 特に $m$ と $n$ が互いに素ならば $\mathrm{Hom}_\mathbb{Z}(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}) = 0$.

[証明] こちらも $\mathrm{Hom}$ 加群の完全性を用いましょう. $$ \mathbb{Z} \overset{m}{\longrightarrow} \mathbb{Z} \longrightarrow \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \to 0$$ に $\mathrm{Hom}_\mathbb{Z}(?,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$ を施して次の完全列が得られます : $$ 0 \to \mathrm{Hom}_\mathbb{Z}(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}) \longrightarrow \mathrm{Hom}_\mathbb{Z}(\mathbb{Z},\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}) \overset{m}{\longrightarrow} \mathrm{Hom}_\mathbb{Z}(\mathbb{Z}, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$$ ところで $\mathrm{Hom}_\mathbb{Z}(\mathbb{Z}, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}) \simeq \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ でしたから, この完全列は $$ 0 \to \mathrm{Hom}_\mathbb{Z}(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}) \longrightarrow \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \overset{m}{\longrightarrow} \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$$ と整理され, $$ \mathrm{Hom}_\mathbb{Z}(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}) \simeq \mathrm{ann}_{\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}}~(m) = \frac{(n\mathbb{Z} :_\mathbb{Z} m)}{n\mathbb{Z}}$$ と解ります.

 ほとんど要素に触らずに話が終わってしまいました. 圏論の言葉を使うと, 関手の完全性を用いて比較的容易な射の核ないし余核として捉えなおすという手続きを踏んだわけですが, これによってぐっと話が簡単になったのがお解りになるかと思います. 有理整数環だから素手でも頑張れますが, より複雑な例を手計算でやるのは大変です. この「関手の完全性を利用して捉えなおす」という見方の発見がホモロジー代数を飛躍的に発展させるに至ったのです.

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