変な奴がいる | 技術的特異点前夜(シンギュラリティ) periscope

 

 

 

学生の頃から
「変な子」なんて言われていた奴がいる

学生の三年間は
一日も学校を休んだ事がなくて皆勤賞
そんなクソ真面目な彼のカバンの中には
タバコとライターしか入っていなかった

大人になった彼は人嫌いに拍車がかかった
人前に出るのが嫌いで
自己紹介やら挨拶やらも苦手で
とにかく沢山の人の集まりが嫌い

飲み会も参加しないし
団体旅行にも行かない

自分の葬式にも来て欲しくないと言う
式の最中にどこかの河原で自分の事を想ってくれたなら
自分の葬式を抜け出して河原に向かう
墓参りなら誰もいない時に来て欲しい

彼は柳の女の目を見ながら語った
お前は判断能力に優れている
先日の転落事故での救護活動は素晴らしかった
だから
もしも俺に何かあったなら全てをまかせる
いつ事故や事件があるかなんて分からない
その代わり
お前に何かあった時は俺に全てをまかせてくれればいい

俺が自分の意思で体を動かせないほどの
大きな怪我を負っていたのなら
一つだけ頼みたい事がある
救急車が来るまでの待っている間
俺のポケットからタバコを取り出して火を点けて欲しい
俺にとっては深呼吸のような気分転換になるから

俺の指に挟んで火を点けてくれたら
ありがとうって言うから

もしも
万が一
もう一度
ありがとうって言ったなら
抱きしめて欲しい