異世界こぼれ話 その十二 「ハイズヴィル事件(中編)」 | Siyohです

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音楽とスピリチュアルに生きる、冨山詩曜という人間のブログです

ハイズヴィル事件の起きた数日後、そこを訪れたジャーナリストがいます。E. E. ルイスは弁護士件ジャーナリストで、一般にはなかなかニュースとして伝わってこない事柄を集めて記事にしていた人でした。彼は早速関係者に聞き込みを始め、彼らの話をそれぞれの署名入りでまとめた小冊子「A Report of the Mysterious Noises Heard in the House of Mr. John D. Fox(ジョン・D・フォックス氏の家で起きた不思議な騒音についての報告)」を出版しました。

 

1851年、この事件とその後のフォックス家の姉妹の活動を受けて「ニューヨーク・サークル」ができました。これは、スピリチュアリストたちの記念すべき最初の団体です。霊界が存在すること、そこと交信することは可能であること、この二点を信じる人たちは「スピリチュアリスト」という新しい言葉で呼ばれ始め、そうした主義はスピリチュアリズムと呼ばれ始めました。当時の雑誌『スピリット・ワールド』によれば、4年後の1855年には、全米に約200万人のスピリチュアリストがいたと言われています。

 

この初期の広報役として活躍したのが、イギリス出身のエマ・ハーディング・ブリテンです。この人の生涯も面白いのですが、ここでは割愛させていただきます。フォックス姉妹と直接交流があったエマは、1870年に「Modern American Spiritualism(近代のアメリカスピリチュアリズム)」という本を書き、そこで、ハイズヴィル事件について詳しく書いています。

(エマはミュージシャンとして働くためにブロードウェイに呼ばれたのですが、その後霊媒になりました)

 

また彼女は晩年にトーマス・オールマン・トッドという人に会った際、この中のハイズヴィルの章だけでも、安価で簡単に手に入る本として出版してほしい、と言って、手持ちの最後の一冊を彼に手渡しました。その後、トーマスは若干の新情報も含めて、1905年に「Hydesville: The Story of the Rochester Knockings, Which Proclaimed the Advent of Modern Spiritualism」を出版しました。これらの資料によると、フォックス一家が引っ越してくる前に、次のようなことがあったようです。

 

フォックス一家が1847年に移り住んだ家には、1843年から翌年にかけてベル夫妻が住んでいました。この夫妻が住んでいた最後の三ヶ月ほどの間、お手伝いとして働いていたのがルクレツィア・パルヴァー(Lucretia Pulver)です。ルクレツィアは下記の証言をしています。

 

ある日、ベル夫妻の家に行商人が訪ねてきました。ベル夫人はこの人を知っているように見えます。その時夫人は突然ルクレツィアに、「もうあなたを雇い続ける余裕はないの。今日の午後隣町に行くけど、一緒に行ってくれる?」と言い出しました。ルクレツィアは言うとおりにしましたが、行く前に行商人の荷物から気に入ったモスリンを選び、それを父の家に届けてほしいと頼み、行商人は明日届けると言いました。しかし行商人は翌日訪ねて来なく、それ以来姿が見えなくなってしまったのです。

 

3日後、ベル夫人は驚いたことに、ルクレツィアにまた戻ってきてほしいと言い出しました。そして戻ってみると、寝室で何か物音が聞こえるようになっていました。あるとき夫妻がロックベルリンにでかけた際、ルクレツィアは怖くて弟と友人を呼びました。その結果彼らも、足音のような音が、寝室から地下室へと移動していくのを聞いたのです。

 

行商人が来てから一週間ほどして、ルクレツィアは地下室に行く機会があったのですが、柔らかい土で埋まっている穴に落ち、恐怖のあまり叫んでしまいました。早速助けに来たベル夫人に対してこの穴はいったい何だったのかと尋ねたところ、夫人は「単にネズミの穴があっただけよ」と言います。その2,3日後、ルクレツィアはベル氏が、自分の持ってきた土でその「ネズミの穴」を塞いでいるのを見ました。

 

その後も物音は続いていました。ルクレツィアの母親は頻繁にベル家に行っていたのですが、ある日訪ねた際、ベル夫人が眠れなくて疲れているのを知りました。その原因を尋ねるとベル夫人は、一晩中家の中を歩き回っている足音のせいで眠れない、と答えたのです。その2,3ヶ月後、ベル夫妻は引っ越しました。そして数年後、ウィークマン夫妻がこの家に住み始めます。

 

ウィークマン一家が住み始めても物音は相変わらず続きました。ウィークマン氏は最初の頃こそ、一体誰(何)が来ているのかと、足音が来ると扉を開けていました。しかし何も見ることはなく、物音はだんだんと激しくなり、あるときは夜中に子どもが叫びだしました。夫妻が8歳の娘になんで叫んだのかを聞いたところ、冷たい手のようなものが、彼女の顔から頭にかけてなでていったというのです。一家は結局、18ヶ月住んだ後、1787年に引っ越します。

 

さて、前回からここまで読んでいると、ハイズヴィル事件がトリックであったとは到底思えないことでしょう。しかし未だにそういう人はいます。その理由は、フォックス一家の娘たちが、すべてはトリックだったと発言してしまったからなのです。そうなった事情を探るために、ここで、ハイズヴィル事件後の状況を追ってみましょう。

 

フォックス家の子供たちは7人兄弟で、長女はレアという名前です。レアは、マーガレットとケイトとは23歳、歳が離れていて、事件当時はすでに結婚して家を出て、ロチェスター市に住んでいました。ただ、結婚したとは言っても、レアの夫はある日、仕事に行くと言って出ていったまま帰らず、その後はある裕福な未亡人と結婚してしまったようです。夫に捨てられたレアは音楽を教え始めますが、友人が多かったため、生徒を集めるのに苦労せず、自立した女性として娘と一緒に暮らしていたようです。

 

(左からマーガレット、ケイト、レア)

 

ロチェスター市はハイズヴィルからそれほどは遠くないのですが、電話のない時代なので、彼女は実家で起きたことを知らずに毎日を過ごしていました。5月の初旬に、友人であるリトル家にいた時、リトル夫人がE. E. ルイスの小冊子を持って来て、この冊子に出てきているフォックス家は彼女の実家なのでは、と聞いてきました。そこで初めて事件を知ったレアは、家族ぐるみの付き合いであるグランジャー夫人、グルーヴァー夫人に事情を説明し、一緒に船に乗って実家を目指すことになりました。

 

ハイズヴィルの実家に着いてみるとそこには誰もいません。フォックス一家は、フォックス氏の兄弟の家に身を寄せ、新しい家が建つまでそこで過ごすことになっていました。そこでレアが見た母親は、もう完全に憔悴しきっていて、決して笑顔を見せず、ため息を付いては涙を流していました。母親を慰めるのは無理だと悟ったレアは、一緒に来た婦人たちを母親と一緒に残し、ケイトと娘を連れてロチェスターに帰ることにしました。その頃すでに、怪異はマーガレットとケイトがいるときに激しくなるのが分かっていて、もしかして二人を引き離したら止まるのではないかという考えがあり、ケイトだけを連れ帰ることになったのです。

 

しかし、帰りの船の中で、レアはラップ音が自分たちに付いてきているのを知りました。他の乗客たちと食事をしているときは、テーブルの片側が浮き上がって、危うくコップの水が溢れるところでした。とは言え、騒音と揺れの多い船の上でのことなので、それほどの騒ぎにはなりませんでした。

 

彼らが自宅に戻ると、ひどいラップ音がまた鳴り始めました。レアは恐怖に震えながらも、娘とケイトを早めに寝かせたのですが、明かりを消すとすぐ子どもたちが叫び始めました。娘のリジーが、冷たい手に顔を触れられたと言うのです。レアは聖書を取り出してそれを読み上げ、なんとか子どもたちをなだめてまた明かりを消しました。すると今度は、枕の下に入れた聖書が飛んだのです。次は目の前でマッチの箱がブルブルと震え、三人はすっかり恐怖に打ちのめされました。そして、皆が生きていることを確認するためにお互いの名前を何度も呼び合っていると、夜が明ける頃に怪異が収まり、やっと眠ることができたのです。

 

次の日、レアは友人たちを呼んで音楽に興じ、10時頃就寝しました。しかし2時間ほどしてまた怪異が始まったのです。テーブルその他が動き出し、ドアが開閉して騒音を鳴らし、たくさんの人の足音が聞こえます。拍手が聞こえたと思うと、まるで踊っているような足音が何分も続き、終わるとまた拍手、次は大勢の足音が寝室から階下に降りて行き、ドアを開閉する音。そんな日が何日も続き、レアは自分の家が取り憑かれたのだと考え、引っ越しを決意しました。

 

一度も事件が起きたことのない家を見つけ、そこに引っ越したレアたちは、最初の晩を何もなく過ごすことができました。引っ越しの前にレアは、たくさんの怪異があったので引っ越すことに決めたと書き送っていたのですが、それを読んだ母親は、なにかできるかもしれないと思い、マーガレットを連れて引っ越しの翌日にやってきました。レアは母親たちと、昨晩は何もなくてぐっすり眠れたと言いながら夕食を食べ、皆ベッドに向かいました。

 

しかし真夜中になるとまた怪異が起き始めました。足音が階下からやってくると、その何者かは、カーテンで仕切った小部屋に行き、そこでクスクス笑い、つぶやきながら歩き回っていました。時折彼らはレアたちの方にやって来て、ベッドを揺らし、持ち上げます。時には天井近くまで持ち上げ、それを乱暴に下ろすと、視えない手で軽く叩いてくるのです。彼らはやがて小部屋に戻って落ち着き、その後は静かに眠ることができました。

 

翌朝、レアと母親は相談の上、知人の、軍の学校に通っているキャルヴィン(Calvin)に来てもらうことにしました。余談ですが、この男性はこの後も何度も泊まりに来て家族同様となり、やがてレアと結婚します。さて、キャルヴィンが来ても当然異変は収まらず、キャルヴィンが来た翌日、彼らは夕食後に一体どうしたら良いのかと話し合っていました。そのとき、屋根の方からものすごいラップ音が聞こえました。その後、何者かが彼らのいる部屋にやってきて、視えない平手打ちをそれぞれにしてきました。そしてケイトの番になったとき、彼女が「誰か大きな人みたいなものがベッドの下に横たわっている(シートがかぶさって見えていた)」と言い出しました。

 

その出現が何を意味するのかを考えている時、もう一度視えない平手打ちがケイトを叩くと、彼女は死んだようになってしまいました。キャルヴィンが手鏡をケイトの口に近づけましたが、生きている印は見えません。手をとっても脈が全く感じられません。それで誰かを呼んでこようとした時、ケイトがうめき出しました。その後彼女の手が上がり(後に聞いたところ、彼女が見ているものを指差したそうです)、レアたちに、彼女たちの手を押しながら、ハイズヴィル事件に関してたくさんの質問に答えたそうです。しかしその内容は伝わっていません。

 

その後、ケイトからその影響が去ると、彼女は、ひどく落胆したようにしばらく泣いていました。次に、今度は何か聖なるものに憑かれたようで、ケイトはたくさんの詩を語り始めました。しかしレアが思い出せるのは、それぞれの節の最後が下記で終わっていたことだけです。

 

「キリストと共にいるのははるかに良いことです(To be with Christ is better far)」

 

その翌日から、何かが変わりました。ラップ音は相変わらず家中で聞こえるものの、今までよりは静かになったのです。

 

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さて、当時の資料が手に入って読んでみるまで、後日談がこんなにすごいとは正直思っていませんでした。これらは、以前はどんなに調べても手に入らなかった情報です。実は今回、後編を書いてスルッと終わらせるつもりだったのですが、そんな事情で中編となりました。はたして、次回はすんなり後編一回だけで終わらせられるのか。。。