異世界こぼれ話 その十三 「ハイズヴィル事件(後編)」 | Siyohです

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音楽とスピリチュアルに生きる、冨山詩曜という人間のブログです

当時、レアたちは自分の家で怪異が起きていることをひた隠しにしていて、それを知っているのは家族、親類と、後に家族になるキャルヴィン、そして隣人のヴィック夫人だけでした。しかしある日、友人のポスト夫妻が訪ねてきて、現象が確かなのを確認すると、彼らはブッシュ夫妻を呼び、だんだんと事情を知る人が増えてきます。

(ポスト夫妻は奴隷解放と女性の人権擁護のために、生涯を捧げました。また、アイザック・ポストはレアたちとの交流の中で霊媒となり、自動筆記による本を残しています)

 

それから少しして、ヴィック夫人が突然亡くなりました。ヴィック一家はすぐに引っ越してしまい、その家には他の人が住むことになったのですが、この新しく住み始めた、小柄で病弱そうに見える男は、レア家の騒音に耐えられなかったようです。実は彼の妻が、彼の不在時に家にいると怖くてしょうがないと言い出し始めたのです。そしてある日、家族で夕食を食べている時に、テーブルでラップ音が鳴り出した時、彼は怒り狂ってイラつきながらレアのところに来てこう言いました。

 

「この腹話術師め。絶対やめさせてやる。今度自宅でまた騒音を聞いたら、あんたを逮捕させるぞ!」

 

レアはこの出来事をブッシュ夫人に相談しました。すると彼女は、「毎朝レアを悩ませている騒音があなたの家で鳴ったというのなら、逮捕されるのはむしろ、あなたではなくて」と彼に言ってくれたそうです。

 

その後も怪異はひどくなるばかりでした。レアは時折、視えない相手に向かって話しかけ、それに対して肯定、あるいは否定と思えるラップ音を受け取っていました。そう。彼女はハイズヴィルで行われたように、文章を得ようとはしていなかったのです。それを提案してくれたのはアイザック・ポストです。彼はあるときレアにこう言いました。

 

「レア、なぜデイヴィッドがハイズヴィルでしたように、アルファベットで会話しないんだ? もしかしたら彼らは、君がアルファベットを使ったら、何が望みなのか言ってくれるかもしれない。」

 

ここで彼が言っているデイヴィッドとは、フォックス家の主であるジョンの兄弟です。レアは早速この、アルファベット方式を使ってみました。そして得られたのが、次の文章です。

 

「友人たちよ、この真実を世界に広げるのだ。新しい時代の夜明けだ。もうこれ以上隠そうとはしないでほしい。務めを果たしてくれれば、あなた方は神によって守られ、良い霊たちが見守ってくれるようになる。」

 

この後、霊の方から告げたいことがある場合は、ラップ音を5回素早く鳴らすので、それを聞いたらアルファベット方式を使うという取り決めがされました。この頃には、ラップ音の鳴らし方の違いで、今ラップ音を送っているのがどの霊かわかるようになっていました。このように霊との親交を若干深めたレアでしたが、彼女にとってこれらの出来事を公表するというのは、受け入れられない提案でした。少しして、レアに各地の透視能力者、霊媒、予言者たちから手紙が舞い込みます。彼らは皆、すべての霊媒にこうしたサインが送られていると書いていました。

 

それでもレアは、自宅で起きている出来事を公表したくありません。霊たちは業を煮やしたのか、ある日、近所の家でとてつもない騒音が鳴り、枕が飛び、母親は気を失い、子供が叫びだすといった騒動が起こりました。その家の主は、夜中にも関わらず、教会の信者仲間を集めて連れてきて、彼らにその惨状を見せました。その結果、みんなで地主のところに行き、レアを追い出してくれと訴えることになったのです。当時、レアの家で鳴るラップ音は、ときによって1km以上先でも聞こえていたので、この騒動は当然レアのせいだと思われたわけです。

 

しかしレアは、友人たちを頼ってすぐに新しい家を見つけます。新しい家に落ち着いたのは1849年、9月の初めでした。めげないレアに対して、霊たちは次に、彼女の亡くなった親類を呼び始めました。あるとき食事中に、視えない女の子が現れました。彼女はみんなの上に手を置き、キスを繰り返します。白昼の中、目をつぶると、そうした動作は、生きている人間にされているのと変わりないものだったとレアは書いています。その時彼女たちは、この女の子はすでに亡くなった、一番下の妹だと悟りました。

 

この経験で、レアが、自分たちにもできることがあるのではないかと思い始めたとき、アルファベットの要求が来ました。そして得られた文章は下記のものでした。

 

「愛する子どもたちーお前たちはいずれ、この偉大な機会を理解し、感謝することになるでしょう。周りの人が、お前たちを介して、すでに天国にいる友人たちと会話するのを、認めてあげなさい。

お前たちの祖父

ヤコブ・スミス」

 

これらの出来事にレアたちは心を変え、訪問者を迎えて霊たちと交流させるようになりました。しかし、この試みはすぐに収拾がつかなくなります。そして訪問者をコントロールするために、アイザック・ポスト他の、5人の男性による委員会が組まれ、彼らの許可なしにはレアの家を訪問できないというシステムができあがりました。

 

とは言え、訪問者たちはみな時間を忘れて質問をしまくります。それが深遠な質問なら良いのですが、他人の秘密やロッタリーの番号を聞いてくる人もいるのです。レアたち、特に母親は、やはりそうした生活は続けられないと感じていました。そして母親はある日、ケイトを他の人に預けます。

 

オーバーンから仕事でロチェスターに来ていたE・W・キャプロン氏は、長年の友人から紹介された人でした。最初は疑り深かったのですが、霊たちの回答にすっかり感動し、スピリチュアリズムの真実に目覚め、その後は熱心に普及する側に回ります。母親は、霊たちの勢力が少しでも弱まることを祈って、この夫妻にケイトを預けることにしました。実際、少しの間霊たちは今までより静かになったのですが、その後は更に勢いを増して、家中のあらゆるところでラップ音や足音などを鳴らし始めました。

(E・W・キャプロンの著書。この人はこの先、とても重要な役割を果たします)

 

1849年の冬は、ほとんど毎日が交霊会でした。それでも霊たちは、彼女たちにはやり遂げなければならない使命があり、それができるように準備をしろと言ってくるのです。それに対して母親は「そんな指図には二度と乗らない」と、あるとき宣言しましが、霊たちは「あなた方は、生命が永遠だという真実を、世界中の疑り深い人に納得させるために選ばれたのです」と答えます。

 

そんな日が続き、やる気が無くなって来たレアたちに、霊たちはひどい脅しをかけてきました。ある朝起きたら、キッチンに4つの棺が描かれていたのです。そのサイズは、レア、母親、マーガレット、ケイトそれぞれにぴったりでした。その絵を洗い流しても次は居間に描かれ、棺は都合4回描かれました。棺の蓋には各自の名前と年齢があり、その脇には「あなた方が前に進まず、勤めを果たさないというのなら、すぐに棺の中に入ることになるでしょう」と書かれているのです!

 

レアたちは友人たちを呼んで、その悲惨な光景を見せました。迷信深い人たちはそれを見て、もう従うしかないだろうと言っていましたが、彼女たちは従うことによって、何か未知の悪い影響を受けるのではないかと恐れ始めました。母親は断固として、霊たちの言葉に従おうとはしません。レアは、この出来事が彼女たちに与えたショックを、これ以上うまく文章にできないと書いています。その日は夕方まで、様子を知ろうとする人たちが家に押し寄せていました。

 

そんな風に脅されながら、霊たちに渋々従っていた彼女たちに、もはや家事をする時間はなく、レアの生徒たちも皆止めてしまっていました。委員会に助けられながらも、なんとか交霊会を続けていきましたが、「これからどうすれば。どうやって生計を立てたら」と思うようになっていたのです。そんなとき父親から、新しい家が出来上がったので、是非全員で来てほしいという言葉がありました。それに対して霊は最初「行ってはいけません。ここに居て務めを果たすのです」と言いましたが、少しのやり取りの後で、とても印象的で、荘厳な言葉遣いになり、別れを告げてきました。そして、一切の怪異が止まったのです。

 

その後、母親は実家に戻り、残ったレア、キャルヴィン、マーガレット、そして使用人のアルフィーは、今までにない静けさの中で暮らしていました。ところが、あれほど待ち望んでいた平穏な生活なのに、数日経つとレアたちは良心の呵責を感じ始めました。そして、世間の無理解と敵意に向き合わずに、霊たちを喜ばせることはできないのかとまで思い始めたのです。

 

霊たちが現れなくなって12日間が過ぎた頃、ケイトを預かっているキャプロン氏と、ジョージ・ウィレット氏が訪ねてきました。レアはドア口で、「もう霊たちは、ラップ音を鳴らしてくれなくなったの」と伝えたのですが、彼らは入ってきて「もしかしたら私たちのためなら鳴らしてくれるかもしれませんよ」と言いました。実際ラップ音は鳴り出し、レアは友人が帰ってきたように感じたと言います。そして改めて、霊たちの価値を再認識したのです。

 

そこから始まった長い会話の中で、霊たちから、すべてを公にしていくための計画が語られました。そして彼らは、ロチェスターで一番大きいコリンシアンホールを借りて、レアとマーガレットの二人でラップ音の実演をするように言ってきたのです。このデモンストレーションは、キャプロン氏のレクチャーと一緒に、1849年11月14日に行われました。

(コリンシアンホールは1949年に完成したばかりの、とても良いレクチャーホールでした)

 

この際に新たな調査委員会が組まれ、ラップ音はホールの正面入口の外でも聞こえたなどの肯定的な調査報告とともに、デモンストレーションと講演はもう2日続き、聴衆の数は日毎に増していきました。しかし4日目、霊たちから調査委員会へこんな言葉が送られました。

 

「今夜はホールに行ってはいけない。もしあなた方が好意的なレポートを報告したら、この女性たちは皆に襲われてしまいます」

 

調査委員会は数々の肯定的な結果を出しましたが、新聞はその掲載を拒み、敵対する人が増えてきたのです。とは言え、もちろん好意的に受け入れた人たちもたくさんいます。ホールでのデモンストレーションの後で、母親がケイトを連れて「こんなことするなんて聞いてないわよ。私がいたら絶対止めたのに!」と怒りに来ますが、結局はレアがマーガレットとケイトを連れて、ツアーに出ることになったのです。そして彼女たちは、交霊会によってお金を受け取るようになりました。初めて受け取ったのは、1849年11月28日だったとレアは書いています。これによって彼女たちに、どうやって生計を立てたら良いのかという悩みはなくなったわけです。


そして、フォックス姉妹は史上初の職業霊媒となり、それなりにしっかりした収入を得出したのですが、それから約40年後、マーガレットとケイトが、すべてはトリックだったと発言することになります。次回は完結編として、この先の、それぞれの姉妹の人生を追っていきます。