武弘・Takehiroの部屋

万物は流転する 日一日の命
“生涯一記者”は あらゆる分野で 真実を追求する

血にまみれたハンガリー(3)

2024年02月25日 03時10分03秒 | 戯曲・『血にまみれたハンガリー』
第二幕

 第一場(10月下旬。 ブダペストの勤労者党本部。ゲレー・エルネ第一書記の部屋。 ゲレー、アプロ、ヘゲデューシュ、カダル、ピロシュ)

ゲレー 「けさベオグラードから帰ってみると、ブダペストの情勢は一変してしまったようだ。 内務大臣、一体どうなっているのか、説明してほしい」

ピロシュ 「昨日、工科大学で学生の決起集会が開かれ、16項目にわたる“とてつも無い”要求が打ち出されたのです」

ヘゲデューシュ 「どんな要求なのか?」

ピロシュ(コピーを出席者に配ってから)「そこに書いてあるように、ハンガリーに駐留するソ連軍の即時撤退、ナジの復帰、ラコシ達の人民裁判、複数の政党が参加する総選挙の実施、労働ノルマの抜本的な改善、政治犯の釈放、言論の自由、それにスターリンの銅像の撤去など、唖然とするようなものばかりです」

ゲレー 「とんでもない要求ばかりじゃないか・・・それで、この学生の要求に対して、一般大衆はどう反応しているのかね」

ピロシュ 「ポーランドでゴムルカの政変が起きたこともあって、一般大衆は学生達の要求に同調する気配を示しています。 知識人達も、ペテフィ・サークルの連中を始めとして、学生ほどではありませんが、ナジの復帰やラコシの正式な追放、党中央委員会の早期招集、労働者による工場の自主管理などを強く求めています。

 そこで、政府としては、ペテフィ・サークルの要求項目は放送する許可を与えましたが、学生達の要求については、放送の申し出を却下しています」

ゲレー 「それはいい。学生達の要求までブダペスト放送で流したら、大変なことになる。 それにしても、ナジ同志は今どうしているのか」

ピロシュ 「ナジ同志は事態のあまりの急変を警戒してか、この数日、バラトン湖へ行ってブドウ狩りをしながら、ブダペストの様子を見守っているようです。 しかし、勤労者党の要請を受けて、今日午後にはこちらに帰ってくることになっています」

ゲレー 「うむ、気は進まんが、ナジ同志も交えて早急に対応策を協議しないと駄目だ。後で彼に電話をしよう。 ポーランドの政変にはびっくりしたが、ハンガリーでも情勢がここまでひっ迫してくるとは、正直言って予想もしていなかった。 この時期に、われわれがベオグラードへ行っていたのは間違いだったかな・・・」

アプロ 「そうは言っても、ユーゴとの関係改善は焦眉の課題だったではないか。 われわれが間違っていたのではない。ポーランドの政変といい、内外の情勢の変化が急激すぎるのだ」

ヘゲデューシュ 「それで、学生達は今日デモをやるというのか」

ピロシュ 「その16項目の最後に書いてあるように、今日午後2時半から集会を開いて、そのあとベムの銅像までデモ行進をするということです。 どのような処置を取りましょうか」

アプロ 「いかん! そんなデモを許したら、一般大衆まで巻き込んだデモ行進にふくれ上がってしまうぞ。すぐに禁止の措置を取るべきだ!」

ゲレー 「私も同じ意見だ。 今、学生達にデモ行進を許したら、反政府運動を“野放し”にするようなことになる」

カダル 「しかし、政府が高圧的な態度を取ったら、学生達の反発はますます強くなるでしょう。 それに、一般大衆は整然としたデモ行進を望んでいるはずですよ」

ヘゲデューシュ 「いや、時の勢いというものがあるぞ。 始めは整然としたデモでも、群集心理に駆られていつ暴動化するとも限らない。学生達のデモはやはり禁止すべきだ」

カダル 「そうは言っても、政府に対する学生や労働者の不満は、今や沸騰点に達しています。 彼らの動きを無理に押さえ込もうとしたら、逆に爆発しかねません」

ゲレー 「君はそんなにまで、あの連中の立場を擁護しようというのかね。そうした生温い態度では、かえって火に油を注ぐようなものだ。 今こそ政府は、断固たる姿勢で学生達のデモに対処しなくてはならん」

カダル 「私はなにも、学生達の立場を擁護しているのではありません。それは誤解というものです。 大体、ラコシ前第一書記やあなた方が、今まで民衆の気持を十分に汲み取って公正な政治をしていたら、このような事態にはならなかったはずです。

 何もかも権力で押さえ付けるような、高圧的なやり方を続けてきたからこそ、民衆の不満や憤激が爆発するようになるのです。 正直言って、私はあなた方の政治手法には賛成できません。 これは何年も前から思ってきたことで、投獄されている間にその思いは一層強くなってきたのです」

ゲレー 「君はこの重大な時になって、われわれの政治責任を追及しようというのか! 党と政府の団結が一番必要な時に、分裂を促すような発言は許せない!」

ヘゲデューシュ 「まあまあ、今われわれの間で口論している場合ではないでしょう。 カダル同志、ともかくどうだろうか。第一書記もアプロ同志も私も、学生達のデモを許すことには反対なのだ。 だから、ひとまずデモ禁止の措置を取っておいて、その後の対応は、情勢の推移を見極めながら考えていこうじゃないか。 とにかく、事は緊急を要するのです。了解してくれますね、カダル同志」

カダル 「皆さんの意見がそうなら、仕方ありませんね。そのようにして下さい」

ヘゲデューシュ 「よし、それでは内務大臣、すぐに学生達の集会やデモは許可しないと放送してほしい。 この措置がもし手遅れになるようだったら、その時はその時で、また考えればいいのだ」

ピロシュ 「分かりました。早速、放送の手続きを取りましょう」(ピロシュ、退場)

 

第二場(ブダペスト市内のナジ・イムレの自宅。 夫人のマーリアがいる所へ、ナジが入ってくる)

マーリア 「あなた、お帰りなさい。 バラトン湖の方はどうでしたか」

ナジ 「うん、今がブドウ狩りの一番良い季節だな。大勢の人がブドウの房を手にして、秋の一日を楽しんでいたよ」

マーリア 「でも、こちらの情勢があまりに急激に動いているので、あなたもゆっくり出来ませんでしたわね」

ナジ 「うむ、党から直接電話が入った。至急帰ってきてくれと言われたので、仕方がないが戻ってきた。 こちらの学生達の動きは、目に余るものがあるようだな。ゲレー達もどうしてよいのか困っているだろう」

マーリア 「工科大学の学生達を先頭にして、労働者や一般市民までが今、デモをしようとしているのですよ。 彼らはあなたの政権復帰を大声を上げて要求しています」

ナジ 「弱ったな・・・私は10日ほど前に復党したばかりだというのに。 学生達は、ポーランドでゴムルカの政変が成功したのに勢いづいて、熱狂的になっているようだ。しかし、ハンガリーはポーランドとは事情が違う。 ゲレー達党幹部は、私の政権復帰を望んでいないのだよ。

 ここで私が首相にでも返り咲いたら、党が分裂寸前の混乱状態に陥るかもしれないのだ。モスクワだって黙って見ているわけがない。必ず干渉してくるだろう。 ポーランドの場合だって、ソ連軍がワルシャワを包囲して、一触即発の状態になってしまったじゃないか。 私の政権復帰なんて早すぎる。 もっと着実に冷静に、道を進んでいかなければならないのだ」

マーリア 「でも先程も、ペテフィ・サークルや労働組合の代表が相次いでやって来て、あなたの政権復帰を求める決議文を置いていきましたよ。 これがその文書です」(マーリアが数枚の決議文をナジに手渡す。 ナジが暫くそれに目を通す)

ナジ 「困ったものだ・・・しかし、民衆がそれほど私の“カムバック”を望んでいるのなら、いずれ応じなければならないのだろうか。 お前はどう思う?」

マーリア 「遅かれ早かれ、あなたの出番があると私は思います。 だってラコシはモスクワへ亡命するし、ゲレー第一書記が実権を握っていたのでは、国民は納得しないでしょう」

ナジ 「うむ、それはそうだ。国民は自由化政策を望んでいる。 それを実現するのは、私をおいて他に適切な人物はいないというのか・・・」

マーリア 「あなたはハンガリーのゴムルカだと、国民は期待しているのですよ。国民の要望に応えるのが、政治家の任務ではないでしょうか。 いくら事態が急変しているからと言っても、またソ連が干渉の“魔の手”を伸ばしてくるからと言っても、ハンガリー国民の本当の声に耳を傾けるのが、あなたの使命ではないでしょうか」

ナジ 「うむ、お前の言うことはよく分かる。私もそう思うのだが・・・しかし、こんなに事態が急激に変わってくると、なにか私は“不安”を感じざるをえないのだ」(その時、卓上の電話のベルが鳴る。 マーリアが受話器を取る)

マーリア 「もしもし・・・はい、帰ってきました・・・・・・少々お待ち下さい。 あなた、ゲレー第一書記からお電話です」

ナジ 「うむ。(受話器をマーリアから受け取る) もしもし、ああ、いま戻ってきたところですよ・・・えっ、今すぐにですか?・・・・・・分かりました。それでは急いでそちらに行きます・・・では、後ほど。(受話器を置く) マーリア、重大な事態になってきたので、すぐ党本部に来てくれということだ。緊急の党首脳会議を開くらしい。 とにかく、のんびりとはしておれんな。私はすぐに行くぞ」

マーリア 「ええ、それではどうぞ」

 

第三場(ブダペストのペスト地区にある“ペテフィ像”の前。 学生達や一般市民が集会を開いており、学生代表の演説が始まる)

学生の代表 「自由と独立を求める学友諸君、市民の皆さん! われわれは、愛する祖国・ハンガリーの自由と独立のために立ち上がった。 われわれは戦後十年以上にわたって、忌まわしいスターリニストどもによって支配され、圧迫を受けてきた。

 しかし、諸君、今やわれわれは、英雄的なポーランド人民と同じように、スターリニストの弾圧の“くびき”を取り除くために立ち上がったのだ! われわれの前には、自由と独立のための広い道が開かれている。 われわれは今こそ勇気と誇りを持って、ハンガリーの自由と独立を勝ち取ろうではないか!」

学生達 「そうだ!」「異議なーしっ!」「ハンガリーの自由を勝ち取れ!」「ハンガリーの独立と主権を取り戻せ!」「ソ連軍はハンガリーから出て行け!」

学生の代表 「諸君、今の学友の声を聞いたか。 われわれは昨日、ブダペスト工科大学で開いた決起集会で、要求項目の第一にソ連軍の撤退を決議したのだ! ハンガリーの平和と独立を守るために、まず第一に、ソ連軍がわれわれの祖国から出て行かなければならない。

 次いで、ナジ・イムレ同志の政権復帰、多くの政党が参加する総選挙の実施、労働ノルマの是正、政治犯の釈放、言論の自由なども決議したのだ!」

学生達 「われわれの要求は正しいぞ!」「同志ナジ・イムレを復帰させよ!」「政治犯を釈放しろ!」「言論の自由を保証せよ!」

学生の代表 「われわれの正当な要求を勝ち取るために、学友諸君や市民の皆さんはここに集まった。 かつてハンガリーの自由と独立のために戦い、雄々しく死んでいった愛国詩人・ペテフィの像の前に、われわれは結集したのだ! 偉大な詩人・ペテフィの精神を忘れてはならない!

 ところが諸君、われわれは正当な要求を掲げて集会を開き、デモ行進をすると党本部に申し出たのに対し、勤労者党のスターリニスト幹部どもは何と答えたか。 集会もデモも“あいならん”と言ったのだ!」

学生達 「ナンセンス!」「われわれを弾圧しようというのか!」「スターリニストの言うことなど聞けるか!」「ゲレー達を許すな!」「われわれは弾圧に屈しないぞ!」

学生の代表 「そうだ、われわれは屈しない、弾圧に屈してたまるか! ハンガリーの自由と独立を勝ち取るまでは、断固として戦うぞ!」

学生達 「異議なーしっ!」「断固として戦え!」「マジャール民族の独立万歳!」「スターリニストはモスクワへ行ってしまえ!」

学生の代表 「諸君、ここで喜んでほしい。 ハンガリーの“希望の星”ナジ・イムレ同志が先ほど、バラトン湖からこのブダペストに帰って来た。 われわれは、ナジ同志をハンガリーの真の指導者と仰ぎ、ポーランドの英雄的な人民と同じように、勝利の戦いを開始しようではないか!」

学生達 「そうだ!」「やるぞーっ!」「ナジ・イムレ同志万歳!」「ポーランドの英雄的な同志と共に戦うぞ!」「ベム将軍の銅像までデモ行進しよう!」(その時、学生一が集会場に駆け込んでくる)

学生一 「いま入ったニュースによると、われわれの集会とデモ行進は正式に認められたぞ!」(「やったーっ!」「よーしっ!」といった喚声と拍手が、どっとわき上がる)

学生の代表 「諸君、聞いたか。 勤労者党のスターリニストの“古狸”どもも、ついにわれわれの正当な集会、デモ行進を認めざるをえなくなったのだ! 彼らがわれわれを不当に弾圧しようと思っても、そうはいかない。 ハンガリー人民の声を圧殺しようと思っても、そうはいかないことが証明されたのだ。

 諸君、今こそわれわれは堂々と胸を張って、正義と愛国のデモ行進を始めようではないか! かつてハンガリーの独立のために、われわれを支援してくれた、ポーランドの英雄的なベム将軍の銅像までデモ行進しよう! これこそ、ハンガリーとポーランドの友好と連帯のためには、最もふさわしいデモ行進ではないか!」

学生達 「賛成!」「異議なーしっ!」「われわれはポーランド人民と共に戦うぞ!」「ハンガリーとポーランドの友好、連帯万歳!」「ベム将軍とコシュートの友愛万歳!」「さあ、ベム将軍の銅像のもとへ行こう!」「ハンガリーに自由と独立を!」「マジャール民族に勝利と栄光を!」(学生達、喚声を上げながらデモ行進に移る。 一般市民もその後に続いて、全員退場)

 

第四場(勤労者党本部の会議室。 緊急の党首脳会議が開かれている。 ゲレー、ヘゲデユーシュ、アプロ、カダル、ピロシュの他に、ナジも出席している)

ゲレー 「学生達のデモを許可したのは、やむを得ない措置だ。こんなに人民集会が盛り上がってしまっては、禁止しようにもどうすることも出来ない」

ヘゲデユーシュ 「仕方ありませんな。 後はデモが平穏に終ることを期待するしかない」

ピロシュ 「士官学校の生徒も、800人ほどデモに参加しています。一般の市民も続々とデモ行進に加わっており、議会の前にも群集が集まっています。 その数は10万人以上と見られ、ますますふくれ上がっていくようです」

ゲレー 「困ったものだ。われわれは、一体どうすればいいのだ。 皆さんの意見を聞かせてほしい」

アプロ 「第一書記が、このデモは一部の“反動分子”が煽っているもので、暴徒の仕業だと非難する声明を出すしかないでしょう」

カダル 「しかし、学生達の大多数は“れっきとした”共産主義者でしょう。民主化を求める彼らの行動を、押しつぶすようなやり方はまずいと思います」

アプロ 「いや、彼らの中には、明らかに共産主義に反対する反動分子が数多く混じっている。 その連中の動きを、野放しにしておくわけにはいかないではないか」

ナジ 「私にも意見を言わせてほしい。 カダル同志が言われたように、学生達のデモは自由化や民主化を求める正当なものでしょう。これまでの圧政に対する当然の反発と言えるものです。 彼らの要求を認めるものは認めて、事態の収拾に当たらなければ、とてもこの民衆の蜂起を鎮めることは出来ない。 第一書記は、学生達の代表と会って話しを聞き、速やかに事態の収拾に乗り出すべきだと思います」

ヘゲデユーシュ 「しかし、学生達の要求は法外なものばかりではないか。 話し合っても“らち”が明くとは思えない」

カダル 「そんなことを言っていては、彼らとの接点を見い出すことは出来なくなる。 ここはナジ同志も言われるように、彼らの代表と直接会って、局面の打開を図るべきだと思います」

アプロ 「いや、まず断固とした党と政府の意思表示をしてから、彼らの反応を見ても遅くはない。彼らの代表と会って話しを聞けば、いたずらに連中を増長させるだけだ。 ここは、デモや集会が一部の反動分子の仕業であると発表し、良識ある一般市民はそれに参加しないよう強く呼びかけるべきだ。 そうした上で、次の対応策を練った方がいいと思うが・・・」

ゲレー 「私もアプロ同志の考えに賛成だ。ここは、私の権限と責任においてやらせてほしい。 私は今夜、ハンガリーの全国民に対して、一部の暴徒が仕組んだデモや集会に、参加しないよう呼びかける声明を出すつもりだ。 その結果、事態がどう動き局面がどう変わろうとも、全ての結果に私が責任を持つ。 これは一つの賭けだ。党第一書記として、やるべきことをやる決意だ」(全員が暫く沈黙)

カダル 「そうですか。あなたがそれ程までに言われるのなら、仕方がないでしょう」

ナジ 「第一書記が決断したのなら仕方がない。私も事態が平静になるよう協力しましょう」

ゲレー 「うむ、そうしてほしい。そこで私は、この重大な局面を打開するために、ソ連の首脳とも話し合うつもりだ。 さっきモスクワから連絡があって、明日、ミコヤンとスースロフが急きょブダペストにやって来ることになっている」

カダル 「ソ連はどういうつもりなのだろうか」

ゲレー 「それは分からん。 ただ一つ言えることは、ソ連は軍隊をブダペストに出動させようとしている」

カダル 「なにっ、そんなことがあっていいのか!」

ナジ 「それじゃ、最も忌まわしい軍事介入ではないか」

ゲレー 「そうだ。 反動分子によるデモや騒乱状態を鎮めるためには、わが国の軍隊や警察力ではもはや限界にきている。私もソ連軍の出動しかないと思っている」

カダル 「そんなことになったら、騒乱を一層大きくするだけではないか。 あくまでも、われわれの力で事態を解決しない限り、国民は納得しないはずだ」

ナジ 「私もソ連軍の出動には反対だ。そんなことになったら、学生や民衆をますます刺激して、収拾不能な状況になってしまう」

ゲレー 「しかし、他にどんな方法があると言うのだ。 それにたとえ、われわれがソ連軍の介入に反対しても、向うが勝手に出動してくるというのなら、防ぐ手立てがないではないか」

カダル 「あなたはソ連軍の力で騒乱を抑えようというのか」

ゲレー 「仕方がない、同じ社会主義国同士だ。 一方が騒乱状態に陥れば、他方が秩序回復のために軍事力で介入してきても、認めざるをえない。ワルシャワ条約の精神から言ってもそうなる」

カダル 「それはひどい! そんなやり方を安易に認めるなら、ハンガリーを内乱の“るつぼ”に突き落とすようなものだ。私は絶対に反対だ!」

ナジ 「私も反対だ。 そういう考えは撤回してほしい。騒乱の火に油を注ぐようなものではないか」

ゲレー 「何を言うか! いま一番重要なことは、秩序と平静を回復することじゃないか。そのためには、ソ連軍の力でもなんでも必要なんだ!」 

カダル 「しかし・・・」

ゲレー 「しかしも何もない! 私は党第一書記の権限と責任においてそうする。このことは、ヘゲデユーシュ同志もアプロ同志も認めてくれた。 君達がなんと言おうとも、私はソ連軍の出動を要請する!」

カダル 「そうか、そんなに言うのならそうしなさい。ただし、事態がさらに悪化したら、その責任は全てあなたが取るんですぞ」

ゲレー 「勿論だとも。 私はなんとしても秩序を回復してみせる。そのためには、どんな手でも打つのだ。カダル同志もナジ同志も、協力してもらわなければならない。 さて、私はこれから、ハンガリーの全国民に告げる声明文を用意する。諸君はそれぞれ、自分の持ち場で事態収拾のために努力してほしい。 それでは」(ゲレー、立ち上がって奥に退場)


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