武弘・Takehiroの部屋

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文化大革命(1)

2024年03月09日 02時38分24秒 | 戯曲・『文化大革命』

《前書き》

 中国の現代史を彩る「文化大革命」とはなんだったのか。それは、政治における凄まじい権力闘争ではなかったのか。 1966年の夏、突如“紅衛兵”が出現した時の衝撃を、私は今でも忘れることができない。私なりに「文化大革命」を追究したくて筆を執った。 なお、これは“レーゼドラマ”(読むための戯曲)であり、あくまでもフィクションである。

 時代背景・・・1965年から1971年にかけての中国

 構成は「第一幕・・・苦境に立つ毛沢東。 第二幕・・・毛沢東、文化大革命を発動。 第三幕・・・紅衛兵旋風!! 劉少奇派の没落。 第四幕・・・毛沢東・林彪体制に亀裂。 第五幕・・・林彪死す」となっている。

 

《登場人物》

毛沢東(中国共産党主席) 劉少奇(中華人民共和国・国家主席) 林彪(国防部長・後の党副主席) 周恩来(国務院総理) 登(とう)小平(党総書記) 陳伯逹(党中央文革小組組長) 康生(党政治局常務委員) 彭真(北京市長) 羅瑞卿(人民解放軍総参謀長) 黄永勝(後の人民解放軍総参謀長) 劉仁(北京軍区政治委員) 陸定一(党宣伝部長) 楊尚昆(党中央書記処書記) 呉法憲(空軍司令) 李雪峰(北京軍区第二政治委員) 李作鵬(海軍第一政治委員) 李先念(党政治局委員) 汪東興(党中央軍事委保衛局長) 江青(毛沢東夫人・党中央文革小組第一副組長) 王光美(劉少奇夫人) 劉濤(劉少奇の娘) 葉群(林彪夫人) 林立果(林彪の息子・空軍作戦部副部長) 林豆豆(林彪の娘、「空軍報」記者) 登(とう)頴超(周恩来夫人) 張春橋(中央文革小組組員) 姚文元(中央文革小組組員) 王洪文(上海市革命委員会主任) 陸平(北京大学学長) 聶元梓(北京大学哲学科助手) 李文波(北京市の元大地主) 李文波夫人 宝石店主人 馬思聰(北京中央音学院院長) 馬瑞雪(馬思聰の娘) 陳東元(馬思聰の友人) 王力(「紅旗」第一副編集長) 他に党中央委員、紅衛兵、学生、北京市民、人民解放軍兵士ら多数 (注・登小平と登頴超の登(とう)の字は、正しい漢字がないため、慣習の当て字としている。

 

第一幕 苦境に立つ毛沢東

 第一場(1965年9月上旬。 北京・中南海にある毛沢東の居宅。 毛、部屋の中を行きつ戻りつしながら、モノローグ)

 毛沢東 「天に二つの日が輝かないように、この広大な中国大陸に、二人の指導者がいるわけがない。 わしが劉少奇を打ち倒すか、それとも劉少奇がわしを葬り去るか、道は二つに一つしかない。 あの“大躍進”“総路線”“人民公社”の三面紅旗がつまずいてから、わしの権威、わしの指導力にはますます影がさしてきた。

 その代りに、国家主席となった劉少奇が一段と力を強めてきて、党や政府の中に着々と影響力を増してきた。あのチビ猫の登小平も、豚のように脂ぎった彭真も、今では完全に劉一派になってしまった。 わしは劉少奇を後継者にしたというのに、あいつはわしの社会主義路線を踏みにじり、修正主義の泥沼の中に、この中国を引きずり込んでいっている。

 それだけではない。人民解放軍の中にも、わしに背こうとする奴らが、ミミズのようにウヨウヨとはい回っている。 あの裏切り者の彭徳懐は、六年前に首を切ってやったというのに、羅瑞卿らが、でかい面(つら)をしてのし歩いている。畜生、それに何だというんだ!

 彭真の子分に成り下がった呉含(ごがん。注・当て字)の奴が、『海瑞、官をやめる』という馬鹿馬鹿しい戯曲を書いてからというもの、人民の英雄・海瑞に彭徳海が見立てられて、このわしは、すっかり暴君ということになってしまったのだ!

 これ以上、放っていたらどうなるのか。わしは人民を抑圧する暴君ということで、名誉主席か何かに祭り上げられ、党や国家の権力は、全て劉少奇らに持っていかれてしまうのだ。 グズグズしているわけにはいかない。忍耐にも限度がある。(そこへ、江青、陳伯逹、康生が部屋に入ってくる。)

 おお、待ちかねたぞ。まあ、座れ。 よく聞いてくれ。わしは決心したんだ。陳伯逹同志、今月下旬に党中央委員会の拡大会議を開くよう、皆に通知を出してくれ。 いいか、これは党主席としてのわしの権限で開くものだ」

陳伯逹 「拡大会議を開いて、どうしようというのですか?」

毛沢東 「決まっているじゃないか。今度こそ、『海瑞、官をやめる』を批判する党の決議と、人民公社の回復決議を正式に決めてやるんだ」

康生 「しかし、そう性急に事を起こしても、はたして上手くいくでしょうか」

毛沢東 「なにを言うんだ! わしは、もうこれ以上黙ってはおれんのだ。わしが大人しくしていればいるほど、劉少奇らの連中は、ますます図に乗って修正主義の路線を押し進めていく。 だからいずれ、あいつらとは決着をつける大闘争をしなくてはいかんと覚悟している。 そこで、今度の拡大会議は、あいつらの勢力がどんなものか、測ってみる良い機会だと思っているのだ」

陳伯逹 「しかし、主席。党決議をしようとして、負けたらどうなるのですか。私の見る限り、中央委員会では今のところ、あの連中の方が多数を制しているように思えるのですが・・・」

毛沢東 「わしが負けるというのか! 中国革命を指導し、社会主義共和国を樹立して“赤い太陽”と言われるこのわしが、負けるとでもいうのか! いや、万一負けるとしても、わしはもうこれ以上、後に退くわけにはいかない」

康生 「しかし、もし決議を図って敗れたら、主席の権威と名誉に大きな傷がつくことになりますが・・・」

陳伯逹 「そうです。主席のお気持はよく分かりますが、ここは、がむしゃらに突き進むことだけが得策ではないと思います。 どうでしょうか、拡大会議では、急いで結論を出そうというのではなく、じっくりと討論するだけに止めたらいかがでしょうか?」

毛沢東 「いや、わしにはもう、そんなのんびりしたやり方では気が済まないのだ。 江青、お前はどう思う?」

江青 「私はあなたの考えに賛成です。劉少奇らの傍若無人な振舞いには、この数年間、耐えに耐えてきましたが、私の忍耐もあなたと同じように、もうこれ以上は持ちません。 今度こそ、こちらの固い決意をあの連中に思い知らせてやる絶好の機会だと思います」

陳伯逹 「しかし、決議を図って敗れたらどうなるのだ。 あとは、武力に訴えるしか方法がないじゃないか」

康生 「そうです。もしこちらが負けたら、あとは戦争しかない。そうした事態に突入するようになって、いいものだろうか。 ここはまず、“宝殿を修理したあとに山門に登る”ような策を取るのが賢明だと思うのですが・・・」

毛沢東 「康生、君の言うこともよく分かる。しかし、わしはいま自分で宝殿を修理し、自ら山門に登ろうとしているのだ。 わしは、拡大会議で必ず勝つと思っている。万一、わしが負けようとも、それで全てが終るわけではない。そのあとに、取るべき方法はいくらでもある。

 さっき、君達が言ったように戦争になるかもしれない。それでもいい。 六年前、彭徳懐の首を切ってやった時も、もし、わしの決議が通らなければ、わしはもう一度山に籠り、別の紅軍を創ってゲリラ活動をしてやると脅してやった。

 そうしたら、さすがに劉少奇達も、大人しくわしの言う通りに従ったではないか。 今度だって、呉含を血祭りに挙げることができなければ、わしには覚悟ができているのだ」

陳伯逹 「しかし、彭徳懐の時と今とでは、状況があまりに変っています。 あの頃より、劉少奇達の勢力はずっと強くなっています」

康生 「私もそう思います。ここは、無理に決議を図るのではなく、もっと党内の大勢を見極めた上で、思い切った手を打つべきだと思いますが・・・」

毛沢東 「ええい、もう何も言うな! 党内の大勢を見極めた上でなどと、日和見的なことを言っている場合なのか。 わしが一日黙っていれば、それだけ日一日と状況は不利になっていくだけではないか。

 わしは、もう六年間もじっと我慢してきたのだ。いま、こちらが攻勢に出なければ、ますます取り返しのつかないことになるのだ。 二人とも何も言うな!

 わしの執務室に盗聴器を仕掛けられたり、彭真の豚野郎に過去の身辺調査までされるほど、今のわしはあいつらに追い詰められ、馬鹿にされているのだ。これ以上、黙っていられるか! 勝つも負けるも、会議を開いてみなければ分からない。

 いいか、陳伯逹同志、これは党主席の命令だ。直ちに会議を開くように、通知を出せ。 幸いなことに、わしには、あの青白い顔をした病身の林彪をはじめ、周恩来総理など味方は大勢いるはずだ。 わしは絶対に勝つ! 今度こそ必ず勝つ! 分かったら二人とも早く、会議開催の手続きを取ってくれ」

(陳伯逹と康生、一礼して部屋を出ていく。 ここで陳伯逹が康生の横顔を見ながら、モノローグ。)

陳伯逹 「いやはや仕方がない。主席は逆上してしまって、目の前が真っ暗という感じだな・・・」

 

第二場(9月下旬の某日、北京。党中央委員会拡大会議の席。 毛沢東、劉少奇、周恩来、登小平、陳伯逹、彭真ら多数が出席)

毛沢東 「私は今まで、党内外の情勢について詳しく述べてきたつもりだが、ここで同志諸君に対し、二つの重要な提案をしたいと思う。 一つは、すでに失敗したかのように言われている、人民公社のことだ。 しかし、人民公社は、社会主義中国を建設していく上で、絶対に必要なものであり、多少の失敗はあったとはいえ、これを回復しなければ、将来の社会主義社会の実現は望めないと思う。

 もう一つは、呉含が書いた『海瑞、官をやめる』という劇を、党中央委員会の席で公式に批判して欲しいということだ。 この劇は、党内に修正主義をはびこらせる“毒草”となるものだ。 これはあたかも、裏切り者の彭徳懐を復権させて、党の毛沢東路線を否定するかのように一般に受け取られている。

 このように、修正主義路線を復活させるかのような呉含の歴史劇は、この中央委員会の場で公式に批判していただきたい。 以上、人民公社の回復と、『海瑞、官をやめる』の批判を、当委員会の決議として正式に認めて欲しい。

 諸君が、真に革命的な社会主義者であるなら、私の提案に賛同してくれると思うが、いかがだろうか」

劉少奇 「毛主席の言われることはおかしい。われわれは、なにも人民公社路線に反対しているのではない。 いろいろ行き過ぎた点があったので、それを今まで手直ししてきたまでだ。これ以上、人民公社の何を回復しようというのか。今のままで良いではないか。

 経済も生産も、1961年以来、順調に伸びてきている。 今さらわざわざ、人民公社の回復などを決議したら、せっかく順調に推移してきた我が国の経済活動を、再び混乱に陥れるようなものではないか。

 また、呉含の歴史劇を、党として批判するのも極めてふさわしくない。 あれは、悪逆非道な恩知らずの皇帝を、海瑞が勇気をもって諌めるが、逆に罷免される物語だ。 あの物語のどこが間違っているというのだろう。むしろ、海瑞のような立派な人物こそ、誉められて当然ではないのか。

 そのように書き上げられた呉含の歴史劇を、この中央委員会で批判する決議をしようという方が、間違っているのではないか」

登小平 「劉主席の言われるとおりだ。 大体、党は人民公社運動を無茶苦茶に押し進めようとして、失敗したのだ。 あれこそ、現実を無視したプチブル的熱狂と言えるものだった。“乞食の共産主義”と言われたが、それも無理のないことである。 だから今さら、人民公社の回復決議などというのは、時代錯誤もはなはだしい。

 呉含の歴史劇だって、立派なものである。 愚かで悪辣な皇帝に諌言する海瑞を、誉め称えるあの劇のどこが悪いというのだろうか。今こそ、海瑞のような勇気のある正直な人達が、もっと多く出てこなくてはならないのだ。『海瑞、官をやめる』の批判決議を、この場でやろうなどとは、もっての外だと思うが・・・」

毛沢東 「劉同志、登同志。 君達は、人民公社路線に反対しないと言いながら、この数年間何をやってきたというのだ! 労働者の物質的な欲求を刺激したり、賃金の引き上げやボーナスによって、利潤への甘い誘惑をテコにして、生産を伸ばしてきただけだろう。

 おかげで、誰もが個人主義的になり、利益の匂いがしてこないと働かなくなってしまったではないか。 まるで、資本主義社会に逆戻りするようなことばかりを、君達はしてきたのだ!

 どこに、社会主義へのビジョンや路線があるというのだ。君達は社会主義を修正して、この中国を資本主義に引き戻そうというのか!」

劉少奇 「とんでもない! あなたが強引に無理矢理に、現実の経済活動を無視して、人民公社や大躍進政策を皆に押しつけたから、我が国の経済は破滅寸前にまで追い込まれてしまったのだ。それを救ったのは、私や登同志らである。

 われわれが、柔軟で現実的な政策を取らなかったら、この中国は一体どうなっていただろう。 われわれが、この中国を資本主義に引きずり戻すだって? 毛主席、あなたは何をたわけたことを言うのだ!

 あなたは自分が失敗したから、政治の第一線から身を退いたではないか。もし、われわれが適切な政策を実行しなかったら、我が国はとっくの昔に破滅していたんだ!」

毛沢東 「劉同志。君はいつから、そんな横柄な口を利くようになったのだ。私が、君を後継者にしてやったからか! (少し、間を置いて)さあ、同志諸君。私が先ほど提案した二つの決議について、諸君の賛同を得たい」

彭真 「誰も賛同なんかするもんか」

毛沢東 (彭真をにらみつけて)「黙れ! さあ、諸君。私の提案した決議に賛同してくれる人は、手を挙げて欲しい」(数人の中央委員しか、挙手しない。)

登小平 「周恩来総理も手を挙げないじゃないですか」

毛沢東 「周総理、君も私の提案に賛成してくれないのか?」(周恩来、黙したまま何も語らない。)

劉少奇 「結果はこのとおりだ。 ほとんどの人が、あなたの提案には賛成していない。これで、よくお分かりでしょう」

毛沢東 (顔を真っ赤にして立ち上がる。)「黙れ! 黙れ!! 劉少奇、お前は今まで何をしてきたというのだ! 国家主席としてデカイ面ばかりして、この中国のために何をしてきたというのだ! 社会主義と反対のことばかりしながら、中国を資本主義の泥沼の中に放り込もうというのか。 中国のフルシチョフとは、お前のような奴のことを言うのだ!」

中央委員A (低い声で密かに)「毛主席は、どうかしてしまったのか」

中央委員B 「すっかり逆上したようだ。大丈夫だろうか・・・」

毛沢東 「劉少奇、お前が今日(こんにち)あるのは、わしのお陰なんだぞ。それが分かっているのか! お前は、いつからそんなに偉くなったのだ。どういうことなんだ! さあ、答えてみろ!」

陳伯逹 (あわてて毛沢東に近寄る。)「主席、もういい加減にして下さい。さあ、退席しましょう」

毛沢東 「ええい、うるさい! 黙れ! おい、劉少奇。お前はわしの言うことよりも、王光美の言うことの方が有難いと思っているのだろう。え? どうなんだ? お前の女房は確かによく出来た女だ。お前なんかより、ずっと出来がいいぞ。 だからお前は、王光美の尻に敷かれているのだ!

 女房にへつらい、女房の機嫌ばかりとっているこの馬鹿が・・・どうして、お前なんかが国家主席としてデカイ面をしているんだ! この野郎! どうして、お前なんかが・・・」(毛沢東、興奮の余り気を失って倒れる。江青が、必死の面持で駆け寄る。)

江青 「あなた! あなた! 大丈夫ですか! ああ、誰か・・・」(陳伯逹と康生が駆け寄り、江青と共に気絶した毛沢東を支えて退場)

登小平 「本日の会議は、これにて終了します」(中央委員ら全員、退場へ)

彭真 「いやあ、驚いたね。毛主席があんなに取り乱すなんて、今までに見たことがないよ」

劉少奇 「まったく信じられない。あれでは、全然話しにならん」

登小平 「ひどいものだ、主席を早く病院に入れた方がいいね。もう、先も長くないな・・・」

劉少奇 「私は公式の場で侮辱されたが、このことは箝口令をしいて、国民に知られないようにしよう。動揺が広がるといけないからね」

彭真 「そのとおりです。 それにしても、レーニンの“左翼小児病”ではないが、あれではまるで“左翼老衰病”だね」

劉少奇 「まったくだ。頭が完全に老化している。 下らない教条をくどくどしゃべるなんて、聞いていて嫌になるよ」

彭真 「本当にどうしようもない老人だ。気でも狂ったかと思ったよ。 われわれも、あんな老人にはなりたくないもんだ。ウワッハッハッハッ」(劉少奇、登小平、彭真が退場)


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