武弘・Takehiroの部屋

万物は流転する 日一日の命
“生涯一記者”は あらゆる分野で 真実を追求する

文化大革命(18・最終回)

2024年03月09日 02時54分13秒 | 戯曲・『文化大革命』

第十六場(同じく9月12日夜。北京・中南海にある毛沢東の執務室。 周恩来、汪東興、江青がいる所に、毛沢東が入ってくる)

江青 「あなた、よく御無事で!」

周恩来 「おお、主席、心配していました」

毛沢東 「九死に一生を得たぞ。 林彪を逮捕したか」

汪東興 「黄永勝や呉法憲達はすでに逮捕しましたが、林彪夫妻は北京を出て、北載河にいます。 従って今、公安部隊が北載河に急行しています」

毛沢東 「あの男を必ず逮捕しろ、いいか」

汪東興 「大丈夫です、必ず逮捕します」

毛沢東 「極悪非道の裏切り者め、わしを殺して共産党と中国を乗っ取ろうとしても、そうはいかんぞ!」

周恩来 「もう、われわれの勝ちです。 それにしても、危なかったですね」

毛沢東 「うむ、上海で張春橋と王洪文に助けられた。彼らがいなければ、わしは今頃、殺されているところだった」

江青 「林彪一派を徹底的に断罪してやりましょう。 これで、党内もすっきりしますわ」(その時、電話のベルが鳴る。汪東興が受話器を取る)

汪東興 「もしもし、うむ、私だ・・・なんだと、いない!・・・・・・山海関へ行ったらしい? よし、すぐ追跡しろ! (汪東興、受話器を置く) 林彪夫妻は北載河を離れて、山海関の飛行場に向ったようです。 どうも、トライデントで国外へ脱出するようです」

毛沢東 「くそっ、ソ連へ逃げるつもりだな。 山海関で取り逃がしたら大変だ。すぐ、北京の空軍部隊に指令を出して、ジェット戦闘機で追跡させろ!」

汪東興 「承知しました! 一個分隊で追跡させます」汪東興、受話器を取ってダイヤルを回し始める)

毛沢東 「あいつがソ連へ逃げ込んだら、うるさくなる。撃墜だ! 戦闘機で撃墜しろ!!」

汪東興 「はい」

毛沢東 「畜生、どこまであいつは、わしを手こずらせるんだ!」

 

第十七場(9月13日早朝。 山海関の飛行場。林彪、葉群、林立果、男性秘書、ボディガード)

林彪 「ようやく、山海関に着いたな。 いよいよ中国ともお別れだ」

葉群 「ソ連に行けば、又なんとかなるでしょう。 向うには、毛沢東を憎んでいる同朋も大勢いることだし、ソ連共産党が私達を手厚く保護し、“反毛宣伝”に大いに利用してくれると思います」

林彪 「うむ、北京のソ連大使館には内密にすでに連絡してある。 ソ連が、われわれを歓迎してくれることは間違いない。又、新しく第一歩から出直すしかないな」

葉群 「社会主義陣営を裏切った毛沢東と、それに追随する周恩来とは、所詮、私達は一緒にやっていくことは無理だったのです。 これで気持をすっきりとさせ、やり直すということですね」

林彪 「ただ残念なのは、豆豆がわれわれを裏切ったのと、黄永勝達を見殺しにしてしまったことだ。 これは一生、忘れたくても忘れられん」

葉群 「豆豆のことは、もう諦めましょう。あの子は親を見放したのですから、毛沢東にはきっと手厚く保護されるでしょう。 それも、あの子が選んだ道、あの子の運命なのです」

林彪 「豆豆・・・私が最も愛していた娘(こ)だ。 その娘に裏切られるとは・・・いいだろう、それも私の身から出た錆だ。 全て運命の悪戯と思えばいい」

林立果 「さあ早く。トライデントが飛び立つ準備ができましたよ。 敵の追跡も間近に迫っているはずです。急ぎましょう」

林彪 「うむ。 さらば中国よ、中国大陸よ。もう二度と、私はこの地に降り立つことはないだろう。 さあ、行こうか」(林彪、葉群ら一行を促して退場)《続く》

 

第十八場(同じく9月13日。北京・中南海にある毛沢東の執務室。 毛沢東、周恩来、康生、江青)

毛沢東 「汪東興からの連絡はまだか」

康生 「まだ入りません」

毛沢東 「上手くやってくれると良いが・・・」

江青 「きっと上手くいくでしょう。 トライデントよりはジェット戦闘機の方が、性能もスピードも上ですもの」

毛沢東 「あいつがソ連に亡命すると、事が面倒になる。ソ連は林彪を最大限に利用するからな。 副主席に裏切られるほど、毛沢東の指導力は落ちたなどと宣伝するに決まっている。 なんとしても、林彪を撃ち落とさなくてはならん」

康生 「運を天に任せるしかありませんな」

周恩来 「しかし、万が一にも、林彪がソ連に脱出できたとしても、恐れるには当たらない。 中国とわが党は、主席の下で完全に団結を取り戻すんだから」

江青 「そうです、総理のおっしゃる通りです。 林彪一派を除いた、新しい体制が出来上がるではありませんか」(その時、卓上の電話が鳴る。 康生が急いで受話器を取る)

康生 「うむ、汪東興同志か。私だ、康生だ・・・・・・よしっ、よくやってくれた! 間違いないな。 有難う、詳しいことは又、あとで報告してほしい。ご苦労さま。(康生、受話器を置く) やりましたぞ! 林彪が乗ったトライデント機を、外モンゴルのウントルハン付近で撃墜したそうです!」

江青 「まあ、上手くいきましたわね!」

周恩来 「これで何も言うことはない」

康生 「主席、総理、おめでとうございます」

毛沢東 「良かった、われわれは勝ったぞ!」

周恩来 「党の高級幹部だけには、すぐに連絡しましょう」

毛沢東 「うむ、そうしてほしい」

江青 「なんと危うい勝利だったこと・・・これで枕を高くして眠れますわ」

毛沢東 「林彪はついに死んだ。 これから二度と、このようなことがあってはならない。党の統一と団結を取り戻すのだ」

康生 「林彪の罪状を徹底的に洗いざらいにしてから、この事件を公表することにしましょう」

毛沢東 「うむ。林彪一派を全て粛清し、党の体制を立て直してから公表するのが一番だ」

周恩来 「当面は、来月の国慶節パレードは中止ということにしよう。 衆人環視の中で、林彪が天安門の上に現われないと、今度の“政変”がいっぺんに表ざたになってしまう恐れがある」

康生 「その通りです。 私から、公安当局を始め関係部局に対し、国慶節パレード中止の通達を出すことにします」

江青 「文化大革命に最も因縁深かった劉少奇も、陳伯達も、そして林彪も姿を消して、これで文革は終わりを告げることになりますね」

毛沢東 「うむ、そう言えるかもしれない。 しかし、わしは文化大革命はまだ終ったとは思えないのだ。 新しく偉大な、社会主義中国を建設しようという壮大な試みは、まだ始まったばかりだと思う。

 文化大革命、これは不断の永続的な革命を言うのではないか。 絶えず生まれ変わり、絶えず蘇る革命、それが本当の文化大革命というものではないだろうか・・・(一同、黙したまま静聴) 

 わしは五十年以上も革命を実践してきたが、まだ革命を完全に遂行したとは思っていない。 わしは生きている限り、中国革命に続く文化大革命を、実践していかねばならないと思っている。 文化大革命は、本当に勝利したのだろうか。

 勝利したとも言えるし、これからだとも言える。 いま、長年の盟友であり、戦友でもあった林彪が亡くなったことで、わしの気持を諸君になんと説明したらよいのか分からない。(舞台全体が暗くなり、毛沢東だけがスポットライトを浴びる) 

 わしは勝ったのだろうか・・・林彪の野望を挫くことによって、わしは何を得たのだろうか。 権力を保持しただけなのだろうか。もし、そうなら、それは余りにも空しい。 文化大革命、いまだ成らず・・・わしはさらに闘い、さらに革命を続けなければならないのだ」《完》 

 

【参考文献・・・「文化大革命」(竹内実編・ドキュメント現代史16・平凡社) 「毛沢東」(大森実著・人物現代史9・講談社) 「江青外伝」(ラウ・ルウン著 杉田茂訳・新国民社) 「中国の政治と林彪事件」(武内香里、森沢幸著・日中出版) 「毛沢東、文化大革命を語る」(竹内実編訳・現代評論社) 「夢と爆弾」(高木健夫著・番町書房) 「中国文化大革命」(ウイリアム・ヒントン著 藤村俊郎訳・平凡社) 「毛沢東を批判した紅衛兵」(エクトゥール・マンダレ他編 山下祐一訳・日中出版) 「文化大革命の内側で」(ジャック・チェン著 小島晋治、杉山市平訳・筑摩書房) 「登小平伝」(和田武司、田中信一著・徳間書店) 「毛沢東の悲劇」(柴田穂著・サンケイ新聞) 「毛沢東の私生活」(李志綏著 新庄哲夫訳・文春文庫)】


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文化大革命を見ると (指田文夫)
2022-04-28 11:21:14
文化大革命を見ると私は、1960年代に劇団俳優座でおきた小沢栄太郎の退団劇を思い出します。
俳優座では、1962年頃から小沢栄太郎が演出を千田是也から取って、娯楽劇でヒットします。
しかし、最後、小沢路線は、劇団総会で否定され、ついには小沢の退団に至ります。
ヒットすれば、皆着いて来ると思っていた小沢の間違いでした。
新劇では、理論が重大で、そこを小沢は軽視していたのです。

共産主義では当然に理論化が大事で、そこを劉少奇らは、怠っていたと思うのです。

「人はパン飲みにて生きるにあらず」

だと私は思うのです。
理論と実践 (矢嶋武弘)
2022-04-28 14:45:37
俳優座のことは分かりませんが、たしかによく似ていますね。
国民の生活が第一でしょうが、食えれば良いというものではないと思います。そこには何らかの思想、信条が必要になるでしょう。いわば理論と実践の両立です。
劉少奇は走資派、実権派として粛清されました。国民生活の向上には意を注いだものの、バックボーンの思想、信条がおろそかでしたね。
それと権力への執念の面で、毛沢東より完全に劣っていました。その辺はなにか哀れな感じがします。
中国はその後、鄧小平が劉少奇の路線を引き継いだ形になりましたが、鄧小平も思想面では「ブルジョア自由化」を否定しました。それが例の天安門事件によく現れています。
良い、悪いは別でしょうが。

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