武弘・Takehiroの部屋

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福田赳夫元首相の回顧録

2024年04月09日 02時20分26秒 | 政治・外交・防衛

 

(以下の文は2010年9月10日に書いたものですが、復刻します。)

2階の書棚を眺めていたら、まだ読んでいない福田赳夫氏(元首相)の『回顧九十年』という本が目に留まった。この本は15年ほど前、福田氏の卒寿(90歳)を記念して岩波書店から発行されたものだが、その記念パーティーでもらったまま中身はほとんど読んでいなかった。
 昔、福田さんの番記者を3年やったので記念に取って置いたのだが、少し興味を持ったので読み始めた。すると、旧大蔵省に入省してからの若い頃の福田氏の話が面白かった。戦後の福田氏の政治歴はだいたい分かっているが、戦前の彼の仕事のことなどはほとんど知らなかったからだ。
 興味を持ったのは、世界大恐慌(1929年)のあと彼がロンドンに赴任していた頃の話だ。ニューヨーク・ウォール街での株価の大暴落のあと世界経済は大混乱に陥ったが、各国が一斉に保護貿易主義に走ったため世界経済は年々縮小、パニック発生以来4年間で、世界貿易が40%、世界のGNP(国民総生産)が30%も縮減したというのだ。これには驚いた。信じられないような話だ。
 日本経済ももちろん最悪の事態になり、農村を支える「米価」は半値に下落、もう一つの目玉である「生糸価格」も6割減になったという。このため、日本の農家は深刻な打撃を受け、娘を売り飛ばしたり夜逃げをする者が続出したという。
 こういう話を読むと、一昨年のリーマン・ショックがいかに凄かったとはいえ、世界経済が30%~40%も縮小したわけではない。昭和初頭の大恐慌に比べれば“可愛い”ものである。そして、どうしようもない状態を脱却するため、1931年(昭和6年)に、軍部はついに「満州事変」を起こす。
 
もう一つ興味を持ったのは、福田氏が帰国後暫くして、陸軍省担当の主計官を7年もやったことだ。 当時の陸軍は“日本最強”の組織だったから、その対応は大変だったらしい(想像しただけでも嫌になる)。 軍刀で脅されたり、ある件で憲兵の取り調べを受けたりしているのだ。
 最も印象的だったのは、日本が軍国主義化していく中で、昭和11年度予算をめぐる陸軍省と大蔵省の攻防である。詳しいことを書くスペースはないが、この時は高橋是清大臣を筆頭にして大蔵省が大健闘、3日間・延べ36時間にわたる閣議での闘いを経て、強硬な予算要求をする陸軍に対し、大蔵省は6~7割がたの主張を通したという。
 いわば大蔵省の“判定勝ち”だったのだが、それからわずか3カ月後に2・26事件が勃発、高橋是清大臣は陸軍・皇道派によって惨殺された。それ以降、軍部に睨まれた大蔵省の幹部は次々に“左遷”されていく。福田氏はまだ若く地位が低かったので、陸軍省担当の主計官として残った。(ご苦労さま!)
 
こうした話の中で、私が最も驚いたのが当時の「国家予算」である。昭和11年度予算は大蔵省が善戦健闘したので、軍事予算をだいぶ抑え込んだという。しかし、総枠22億8200万円のうち、軍事費(陸海軍予算)は10億7800万円、実に全体の47,2%を占めているのだ。
 ところが、2・26事件を経て昭和12年度予算になると、軍事費は何と69,0%に跳ね上がった! 総枠47億4200万円のうち、軍事費が32億7100万円になったのである。この急激な軍事費の膨張は、ほとんどが公債で賄われた。大蔵省にとっては最悪のパターンであったろう。
 こうして、日本は来たるべき大戦争へ向けて着々と準備を進めていったが、一主計官に過ぎない“福田君”にとっては、いかんともしがたい事態だったと思う。
 戦後の福田氏の政治歴はだいたい知っているので興味はないが、彼が青雲の志を抱いて大蔵官僚になった若い頃の姿が微笑ましい。あの日本最強の陸軍を相手に、奮闘している「主計官」の姿が凛々しい。福田氏も言っているが、“男子の本懐”とはこういうことなのだろうか。 (2010年9月10日)


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4 コメント

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今晩は! (琵琶)
2012-03-24 19:49:45
この回想録の記事、興味深く読ませていただきました。今各国は、緊縮政策をとっていますが、その誤りを裏書きしていると思います。日本も、積極的な成長戦略に乗り出すべき時です。
別件ですが、毎回は無理ですが、時折通信を届けさせていただきます。

●新BNW通信No186.現在の政治情勢【2012-3-24】
★皆さん今日は!
震災より1周年余、野田内閣発足より、半年余がたちました。
震災復興は遅々として進まず、円高、デフレ、景気低迷は続いています。
★発足当初、野田内閣の支持利率は6割を超え、消費税増税は必至とみられていました。
所が、時事通信の3月の世論調査では、民主党の支持9.2%、自民党の支持11.7%。両党併せても20.9%。
国民の両党離れがひどくなり、増税すればさらに悪くなるでしょう。
★そこで、アメリカ言いなり、財界言いなりの日本の支配層と、それを代弁する大手マスコミは、急遽、大阪維新の会へ支持を切り替えました。
二大政党とその亜流政党への不満を追い風に、関西では7割の支持を集め、国政への進出も5割強が支持していると伝えられています。
★ところが、舞い上がった橋下氏の勇み足と、取り巻きの傲慢さが、下記のような、誤算をひきおこしています。
1.憲法違反の思想調査
身内のはずの日弁連の批判のみならず、府労委に待ったをかけられ、凍結せざるを得なくなりました。
2.維新の会の市議の傲慢さが、職員のメールで指摘され、謝罪に追い込まれました。
3.国歌斉唱の声量まで問題とするとあって、その異常さがますます。明らかになっています。
4.維新の会の府議の高校での卒業式の挨拶の非常識さに抗議のメールが殺到し、コメント欄を、閉鎖せざるをえなくなりました、
5.従来3人だった、市の顧問を一挙に16人に5倍増。給与は2倍増。参与を入れれば50人。市政は、これらのメンバに丸投げして、自分は、国政進出に現を抜かす。
6.橋下氏と、その取り巻きこそ、大阪を食いつぶすシロアリだとの見方が高まっています。府知事時代の庁舎買い取りなどによる赤字も、実態が暴かれつつあります。
マスコミ世論を、ネット世論が着実に追い詰めていることに確信を持ち、優れた記事の投稿と、転載で、米・日財界言いなり勢力を追い詰めてゆきましょう。
【転載希望記事】
1. 橋下市政三カ月でー顧問3人から16人へ5倍増、報酬倍増
http://blogs.yahoo.co.jp/biwalakesix/30356980.html
2. 消費税増税法案、23日閣議決定は絶望的 「4月以降」の声も
http://blogs.yahoo.co.jp/biwalakesix/30357367.html
3. 茶色の朝ーあらすじと、書評―ハシズム化を乗り越えるために!【転載希望】http://blogs.yahoo.co.jp/biwalakesix/30339870.html
4.
回顧録 (矢嶋武弘)
2012-03-24 21:07:31
福田氏の回顧録はなかなか面白かったですね。
とにかく、当時は軍部が圧倒的に強く、まして相手が陸軍では大変だったでしょう。
緊縮財政だけでなく、効果的な経済政策をぜひ取って欲しいと願っています。消費税の大増税は全く愚かですね。景気も経済ももっと悪くなるばかりです。まず、消費増税を止めることです。
今と国の仕事の範囲がまったく違うのです (さすらい日乗)
2022-09-29 14:02:34
戦前の日本は、完全な小さな政府で、現在の福祉などまったくありませんでした。国の仕事は、外交や軍事で、医療、保健、福祉などは制度自体がほとんどなかったのです。

でも、予算の半分以上が軍事費とは異常だったわけです。
その意味でも、戦後の民主主義社会は良くなったと思います。
そんなにひどかったのですか (矢嶋武弘)
2022-09-29 15:47:00
戦前はひどかったと聞いていましたが、医療や保健、福祉などの制度がほとんどなかったとは驚きですね。それに比べると、戦後は国民生活が豊かになり、社会福祉も充実して本当に良かったと思います。
ただ、こうした良好な状態がいつまで続くのか心配になります。平和ボケしている面もありますから・・・

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