リノール酸と癌はどんな関係があるのか

リノール酸に大腸発癌増強作用があるという論文を読んで、にわかに信じられず、脚注がついていた論文を探して読みました。シロウトらしく、リノール酸が直接大腸癌を発生させるのかと早とちりしましたが、そうではありません。

大腸癌を発癌させる条件をつくり、その条件下でラットがリノール酸を摂っていると、飽和脂肪酸のステアリン酸を摂っているラットに比べ発生率が高くなるそうです。

サラダオイル

リノール酸が大腸発癌を増強するという2つの参考文献がある

以前、脂肪のとりすぎとガンという記事を書きました。

脂肪のとりすぎとガン
脂肪をとり過ぎると、ガンにかかりやすくなり、脂肪酸の中ではリノール酸に発ガン、増殖、転移を促進する働きがあるそうです。はっきり書かれていて驚きました。油をとり過ぎるとガンになるという話、何となく聞いたことがあるような気がしますが、都...

このときに読んだのが癌と脂質栄養という論文でした。この中にこんなことが書かれています。

我々は高純度のリノール酸と飽和脂肪酸であるステアリン酸を用いて、大腸発癌への影響について詳細に検討を行い、リノール酸の大腸発癌増強作用とその機序の一端を明らかにした 11,12)

その後の研究によってリノール酸は癌の発生を促進するのみならず、癌の増殖や転移までも促進することが明らかとなっている 13,14)

私は、子供の頃から油やマーガリンのCMを見ていたので、リノール酸は体によいものだとずっと思っていました。

そのため、これはインパクトがあり過ぎました。リノール酸が発癌に関係があるという話、ちょっと信じられません。なぜなんだろう?もっと深く知りたいと思いました。

それで、この脚注がついている論文を探しました。この記事では、参考文献11と12の2つの論文について書きます。

発癌物質を投与して大腸癌を誘発させる条件下でリノール酸が大腸発癌を増強する

まず参考文献11に出ていたもの。

Sakaguchi M, Hiramatsu Y, Takada H, Yamamura M, Hioki K and Yamamoto M. Cancer Res 44: 1472-1477, 1984

これを検索してみると、下の論文が出て来ました。

Effect of Dietary Unsaturated and Saturated Fats on Azoxymethane-induced Colon Carcinogenesis in Rats

日本語にすると「ラットのアゾキシメタン誘発結腸発癌に対する食餌性不飽和および飽和脂肪の影響」というタイトルです。PDFで全文を読むことができます。

Abstract(要約)をグーグル翻訳を使って読む

Abstract(要約)をグーグル翻訳を頼りに訳しました。

化学的に誘発された結腸発癌に対する食餌性不飽和および飽和脂肪の影響を、雄のDonryuラットで調べました。

ラットには、5%リノール酸または4.7%ステアリン酸に加えて、0.3%必須脂肪酸を食事脂肪として含む2種類の半精製食を与えました。

ラットにアゾキシメタン(7.4 mg / kg体重)を投与しました。週に1回11週間、発がん性物質の最後の注射から15週間後に殺処分されました。

不飽和脂肪食を与えられたラットは、結腸腫瘍の発生率が有意に高く[100%]、ラットあたりの腫瘍数が多い[2.68±1.60(SD 標準偏差)]、飽和脂肪食を与えられたラットでは、[76%、1.79± 1.59、それぞれ同じ]。

結腸腫瘍および結腸粘膜の脂質分析は、不飽和脂肪食が結腸粘膜のホスファチドのアシル組成を著しく変化させ、結腸腫瘍の中性脂質中のアラキドン酸の含有量を増加させることを示した。

粘膜の脂質組成の変化は、発癌物質に対する結腸の感受性を高める可能性があり、過剰なアラキドン酸またはその代謝産物は、結腸腫瘍の発癌性を強める主な原因となる可能性があります。

これらの発見は、食事性不飽和脂肪が結腸の発癌に対して強力な発癌性増強効果を持っていることを示唆しています。

まず、水色のラインマーカーを引いた意味のわからないことばについて調べました。

Donryuラット

Donryuラットは、“ Donryu-rat” 吉田肉腫高感受性の「1コロニー」についてを読むと、腫瘍を移植しやすいラットのことだとわかりました。

アゾキシメタン

アゾキシメタンは、富士フイルム和光純薬のサイトのアゾキシメタンを読むと、「マウスやラットにおける大腸がんを強力に誘発させる物質で、大腸がんモデル作製物質」として使用されることがわかりました。発癌物質です。

ホスファチド

ホスファチドはリン脂質のことです。細胞膜を構成するもので、脂肪酸が2本ついているのが特徴です。

さて、改めて要約を読んでみてどんなことがわかるでしょう。

リノール酸を与えると発癌が増え、結腸粘膜のリン脂質にアラキドン酸が増える

まず、この実験は、毎週、発癌物質を投与して結腸腫瘍を発生しやすい条件をつくっています。発癌物質を投与されないという意味で「自然状態」で行われた実験ではないことを確認しておきます。

その上で、5%リノール酸と4.7%ステアリン酸+0.3%必須脂肪酸を食事脂肪として与えたグループで比較しました。結果、5%リノール酸を与えた方が、発癌率が高いことがわかりました。

ただし、発癌物質が投与されていない自然状態で、リノール酸を与えた方が発癌率が高いかどうかはわかりません。

また、リン脂質の脂肪酸や結腸にできた腫瘍細胞に含まれる中性脂肪には、アラキドン酸が多いことがわかりました。

リノール酸はアラキドン酸に変換します。炭素数20のアラキドン酸は、炎症に関係があるプロスタグランジンなどに変化するので、結腸腫瘍の発癌性を強める主な原因となる可能性があると結ばれています。

次の論文は、この実験と似ていますがさらに深くした内容になります。

リノール酸が胆汁酸を増やし、胆汁酸が結腸の細胞膜から脂肪酸を遊離させやすくする

参考文献12に出ていた「 Sakaguchi M, Minoura T, Hiramatsu Y, Takada H, Yamamura M, Hioki K and Yamamoto M. Cancer Res 46:61-65, 1986.」を検索して出て来た論文を紹介します。

タイトルにリンク先も貼っておきました。

Effects of Dietary Saturated and Unsaturated Fatty Acids on Fecal Bile Acids and Colon Carcinogenesis Induced by Azoxymethane in Rats

タイトルを訳すと「ラットのアゾキシメタンによって誘発される糞便の胆汁酸および結腸発癌に対する食餌の飽和および不飽和脂肪酸の影響」となります。

Abstract(要約)をグーグル翻訳を使って読む

こちらもAbstract(要旨)があったので、グーグル翻訳の力を借りながら読みました。

食餌に含まれる脂肪の種類が結腸発癌に影響するかどうかを判断するために、オスのDonryuラットに、半精製無脂肪食に不飽和脂肪であるリノール酸か、または飽和脂肪であるステアリン酸を5%含む脂肪食が与えられました。

ラットはアゾキシメタン(7.4 mg / kg体重)を週に1回、11週にわたり皮下注射され、最後に注射した後15週で殺処分された。

不飽和脂肪食のラットでは、結腸腫瘍の発生率が著しく高かった。

肝臓中のコレステロールエステルの脂肪酸分析および糞便中の胆汁酸の量の検査により、不飽和脂肪食は肝臓中のコレステロール、リノール酸およびアラキドン酸のレベルを増加させ、胆汁酸、特にリトコール酸の糞便への排泄を増加させることが示された。

不飽和脂肪食のラットの結腸腫瘍は、飽和脂肪食のラットの結腸腫瘍と比較して、リゾホスファチジルコリンのレベルが高かった。

これらの結果は、肝臓の多価不飽和コレステロールエステルの増加による胆汁酸の糞便排泄の増加が、結腸のイニシエートされた細胞のホスホリパーゼA2活性を刺激し、不飽和脂肪食を摂取したラットの結腸発癌を促進することを示唆しています。

最初の実験ととても似ています。ただ、飽和脂肪酸食は、完全にステアリン酸になっているところが違いです。条件を厳しく、飽和脂肪酸食は完全に飽和脂肪酸だけになりました。

まず、同じように、水色のラインマーカーを引いた意味のわからないことばについて調べました。

リトコール酸

リトコール酸は、コトバンクのリトコール酸にこのように説明されていました。発がん性があります。

《lithocholic acid》胆汁酸の一。胆汁酸(ケノデオキシコール酸)が腸内細菌により変換されたもの。発癌(はつがん)性がある。

構造式を調べるとコレステロールとそっくりで、コレステロールにはある二重結合が無いことが違いです。

リトコール酸

リゾホスファチジルコリン

リゾホスファチジルコリンは、リン脂質であるホスファチジルコリン(レシチン)が2本脂肪酸を持つのに対して、脂肪酸が1本しかない、リゾリン脂質のことです。(出典:さまざまなリゾリン脂質メディエーター

リゾは lyso- と綴る「溶解」を意味する接頭語です。溶解して脂肪酸を1本取り除いたという意味なのでしょう。

文字だけで説明してもわかりにくいです。構造式を見比べましょう。

リン脂質は細胞膜をつくる脂質です。脂肪酸が2本ついています。ホスファチジルコリンに、R1とR2がありますが、この部分は炭化水素鎖であり、つまり脂肪酸です。特にR2は、不飽和脂肪酸が結合する位置です。

一方、リゾホスファチジルコリンでは、R2部分が外れてR1だけが残っています。

リゾホスファチジルコリン

つまり、リノール酸を食べさせていたラットの腫瘍細胞の細胞膜を調べてみると、リン脂質から脂肪酸が1本外れているものが多かったということです。

イニシエートされた

イニシエートされたの意味は、がん細胞の成り立ちを読むと、「発がん物質がDNAを傷害すること、あるいはDNA複製時のエラーとして核酸に異常が生じること」だと書かれています。癌化の一番最初の段階です。

ホスホリパーゼA2

ホスホリパーゼA2は、ウイキペディアにホスホリパーゼA2がありました。なかなかわかりやすい説明です。

ホスホリパーゼA2はグリセロリン脂質のsn-2位のエステル結合を加水分解する酵素の総称である。脂肪酸とリゾリン脂質を遊離する。

アラキドン酸を遊離することで、炎症性のメディエーターであるプロスタグランジンやロイコトリエン合成の起点となる。

KEGGの REACTION: R01313 を見ると、その反応式もわかりました。

ホスファチジルコリンを加水分解して、リゾホスファチジルコリンにする反応です。

ホスホリパーゼA2

さあ、ここまで書いて来ると、この論文でいいたいことがわかってきます。

腸内細菌で分解された胆汁酸が発がん性を持ち、細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が遊離する

この実験も、毎週、発癌物質を投与して、ラットが結腸腫瘍を発生しやすい条件をつくっています。

不飽和脂肪であるリノール酸を与えると、胆汁酸が増えます。胆汁酸が増えると、糞便中に排泄される量が増えます。胆汁酸は、腸内細菌で分解され、リトコール酸になります。

リトコール酸には発癌性があります。癌が発生しやすい条件の一つになるでしょう。

多くなった胆汁酸の刺激が、結腸のイニシエートされた細胞の、リン脂質から脂肪酸を1本切り離す酵素、ホスホリパーゼA2を活性化します。

細胞膜のリン脂質から1本脂肪酸が切り離されます。これは1つ前の最初の論文で、アラキドン酸であることが報告されています。リノール酸から変換されたのです。

遊離したアラキドン酸は、炎症の原因となるプロスタグランジンやロイコトリエンに変化するきっかけになります。

炎症とがんは関係があります。

要約ではなく、この論文のDiscussion(考察)を読むと、このようなことが書かれていました。

プロスタグランジン合成の阻害剤であるインドメタシンが、ラットの化学的に誘発された結腸腫瘍の発生を減少させるというNarisawaらの発見は、この推測を裏付けることを示しています。

インドメタシンはCMでよく聞く薬の名前ですが、炎症の原因となるプロスタグランジンの合成を阻害します。すると、ラットの化学的に誘発された結腸腫瘍の発生が減少すると書いてあります。

発癌物質を与えて癌が発生しやすい条件の中でも、インドメタシンが結腸腫瘍の発生数を減少させるということは、発癌物質のない自然状態では、ひょっとするとインドメタシンが発癌を抑制させるのではないか思います。

すると、逆に、プロスタグランジンが、発癌に強く関係しているのではないかと思われます。論文に明示されているわけではありませんので、「かもしれない」程度にしか書けませんが。

NOTE

初めて癌と脂質栄養を読んだ時、「リノール酸の大腸発癌増強作用とその機序の一端を明らかにした」と書かれていてかなり驚きました。

なぜ、必須脂肪酸であるリノール酸が、大腸発癌増強作用なんかあるんだろう?

あちこちで書いていますが、私はもともと文系なので、このような病気に関係することばへの感度ができていないのか、「大腸発癌増強作用」をていねいに読んでいなくて、大腸癌の(直接的な)原因になるのだと思い込んだのです。

実際は、大腸発癌を促す発癌物質が投与された条件下で、リノール酸が、それを増強するのです。それは2つの論文からわかりました。

ただ、炎症に関係があるプロスタグランジンが発癌に関係しているかもしれないことから、発癌物質が投与されない条件で、リノール酸が発癌に関係があるのか知りたいと思いました。

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