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東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)

2023年03月01日 18時47分46秒 | 東京オリンピック
小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)





小池都知事VS森会長の対立激化に危機感 バッハIOC会長 小池都知事との会談に
 小池百合子東京都知事と森喜朗大会組織委会長との対立激化で混迷が深刻化している中で、2020東京五輪大会の準備態勢に危機感を抱いた国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、急遽、来日して両者の仲介の乗り出すことになった。
 2016年10月18日、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は東京都庁を訪れ、小池百合子都知事との会談に臨んだ。。
 小池氏は「五輪会場の見直しは今月中に結論を出し、さまざまな準備を進めていきたい」と述べ、バッハIOC会長が提案した、国、東京都、大会組織委員、IOCで構成する「四者協議」を11月に開催することに合意した。
 東京都庁で行われた会談は、当初は、冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。
東京五輪開催の“舞台”で繰り広げられたまさに“小池劇場”の最大の見せ場となった。


バッハIOC会長と小池都知事 2016年10月18日 出典 東京都 知事の部屋

小池知事がコスト削減説明 バッハIOC会長は理解示す 四者会合開催で合意
 バッハ会長との会談の冒頭に、小池都知事は「3兆円」に膨れ上がったとされる開催費用のコスト削減について、「(競技場)の見直しについては80%以上の人たちが賛成をしているという状況にある。都政の調査チームが分析し、3つの競技会場を比較検討した。そのリポートを受け取ったところで、今月中には都としての結論を出したい。オリンピックの会場についてはレガシー(未来への遺産)が十分なのか、コストイフェクティブ(費用対効果)なのかどうか、ワイズスペンディングになっているのか、そして招致する際に掲げた『復興五輪』に資しているかがポイントになる」と述べた。
 これに対し、バッハ会長は、小池都知事が五輪開催に際して掲げているコンセプト、「もったいない」を受けて、「“もったいない”ことはしたくない。IOCとしてはオリンピックを実現可能な大会にしたい。それが17億ドル(約1770億円)をIOCが(組織委員会に)拠出する理由だ」と語った。これに対して小池都知事は親指を挙げて笑顔で答えた。
 そして、バッハ会長は、コスト削減を検討する新たな提案として、「東京都、組織委員会、日本政府、IOCの四者で作業部会を立ち上げ、一緒にコスト削減の見直しを行うということだ。こうした分析によってまとめられる結果は必ず“もったいない”ということにはならないと確信している」と「四者協議」の開催を提案した。 これに対して小池都知事は、「来月(11月)にも開けないか」と応じ、東京都、大会組織委員会、国、IOCによる四者協議の開催が事実上決まった。森喜朗組織委会長も国もいない場で五輪見直しの競技の枠組みが決まったのである

 また抜本的な見直しの検討が進められている焦点の海の森水上競技場については、会談に中では、長沼ボート場や彩湖の具体的な候補地は出されなかった。
 バッハ会長は、「東京が勝ったのは非常に説得力のある持続可能で実行可能な案を提示したからです。東京が開催都市として選ばれた後に競争のルールを変えないことこそ日本にとっても東京にとってもIOCにとっても利益にかなっていると思う」と暗に海の森水上競技場の見直しを牽制した。


都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書 Ver.0.9 “1964 again”を越えて 2016年9月29日

主導権争いの前哨戦 「IOC、ボート・カヌー競技など韓国開催も検討」報道
 2016年10月18日、国際オリンピック委員会(IOC)は、海の森水上競技場が建設されない場合には、代替開催地として韓国を検討していると、国内の大会関係者が明らかにした。関係者によると、IOCは海の森水上競技場の整備費が高額であることを憂慮して、2年前にも韓国案を選択肢として組織委員会に示しており、再度持ち出す可能性があるという。
 関係者によると、IOC側が想定するのは、2013年世界選手権や2014年仁川アジア大会で使われた韓国中部、忠州(チュウンジ)の弾琴湖国際ボート競技場で、ソウルから約100km離れた場所にある湖のボート場で、国際規格の2千メートルコース8レーンを備える。
 IOCは14年12月に承認した中長期改革「五輪アジェンダ2020」で、コスト削減などの観点から例外的に五輪の一部競技を国外で実施することを容認している。交通アクセスなどに課題があるものの、ボート関係者によると「数カ月あれば、五輪を開催できるような能力をもったコース」という。これに対してバッハ会長は、「憶測はうわさにはコメントしない」と述べた。
 「韓国開催」の報道は、小池都知事とバッハIOC会長が会談する直前というタイミングで各メディア一斉に行われた。
IOC関係者が小池都知事とバッハ会長の会談の直前を狙ってリークしたとされている。このリークは、小池都知事の海の森水上競技場対応の“独走”に不満を持ち、牽制したと考えるのが自然だろう。小池都知事と組織委員会とのぎくしゃくした関係に不快感を示した国際オリンピック委員会(IOC)が仕掛けたしたという観測もされているが真偽のほどは分からない。ボート・カヌー競技場を検討する経緯の中で、国際オリンピック委員会(IOC)内部で議論の一つになっていたことがあると思える。しかし、今のタイミングでこの議論が再浮上としたとは考えにくい。やはり、国内の五輪関係者がバッハIOC会長来日のタイミングを狙ってリークしたと考えるのが自然だろう。
いずれにしてもバッハIOC会長訪日にからんだ一連の主導権争いの序章だったことには間違いない。

「復興五輪」を仕掛けて“主導権”を取り戻した森組織委会長
 10月19日、バッハIOC会長は、総理官邸で安倍総理と会談し、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を突然、提案した。
 会談後、バッハIOC会長は、記者団の質問に答え、「イベントの中のいくつかを被災地でやるアイデアを持っているという話をした」と語り、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を安倍総理に提案したことを明らかにした。これに対し安倍総理は、「そのアイデアを歓迎する」と応じたという。
 またバッハ会長は 「復興に貢献したい。世界の人たちに、復興はこれだけ進捗していることを示すことができる」とし、大会組織委員会が福島市での開催を検討している追加種目の野球・ソフトボールについては、選択肢の1つとした上で、 「日本のチームが試合をすれば、非常にパワフルなメッセージの発信につながる」と述べた。
 野球・ソフトボールの開催地を巡っては、福島県の福島、郡山、いわきの3市が招致している。
 前日の小池百合子との会談では、バッハIOC会長は、この話を一切出さなかった。
 関係者の話を総合すると、バッハIOC会長は、小池都知事と会談したあと、組織委員会を訪れ、森喜朗組織委会長と会談をしている。この会談の中で、森喜朗組織委会長から、野球・ソフトボールの被災地開催を安倍首相の提案するように進言したとされている。バッハIOC会長は、小池都知事を通り越して、安倍首相との会談で、「復興五輪」の推進を高らかに宣言した。

“おやじさん”、“兄弟” 森組織委会長 バッハIOC会長との親密さを演出
 2016年10月月26日、都内で開催されたスポーツ・文化・ワールド・フォーラム(World Forum on Sports and Culture) 基調講演で、バッハIOC会長は、「IOCは被災地でいくつかの競技を行うことを検討している。野球とソフトボールを開催するのも一つの選択肢だ」と異例の演説をした。
IOC会長の発言力は極めて影響力があり、通常はここまで踏み込んだ発言はしない。
 「復興五輪」にふさわしいのは、日本で人気のある野球・ソフトボールを被災地でおこなうことだろう。バッハIOC会長発言は、この点をしっかり踏まえたものであった。あまり日本では馴染みのないボート・カヌー競技よりはるかにインパクトがある。小池都知事が力を入れていると思われる長沼ボート場でのボート・カヌー競技開催を“牽制”したと思える。
 バッハIOC会長は野球・ソフトボールと具体名を出したが、その一方で、ボート・カヌー競技については何もコメントせず、質問されても何も言及しなかった。
そして、「これは被災地の人々を応援する重要なメッセージになる。この点について昨日森組織委会長の計らいで安倍首相と話をする機会を得た」と述べ、森組織委会長の根回しがあったことを明らかにした。
 バッハIOC会長と安倍首相との会談は、もともとの予定にはなく、急遽セッティングされたものだとされている。森組織委会長の“根回し”で実現したのであろう。安倍首相もこの問題に登場させた森組織委会長の政治家として手腕は健在だ。
 この会談で、小池都知事が強調した「復興五輪」を、逆手にとって、野球・ソフトボールの開催をバッハIOC会長に発言させることで、小池都知事の動きを封じ込め、2020年東京オリンピック・パラリンピックの主導権を奪い返そうとする森組織委会長のしたたかな戦略だと思う。海の森水上競技場での開催を守ろうとする反撃といえるだろう。
 カヌー・ボート競技会場を長沼ボート場にした場合、選手村からの距離が遠いので、分村を設置しなければならないという問題が生まれる。
 この点についても、森組織委会長は、「選手村は非常に大事だ。世界中の人がそこに集まって一緒に話し合って語り合って未来を考えることができる。そういう意味では、原則的に分村はできるだけ避けてひとつの選手村に選手たちは行動をともにしていただければということだ」と述べた。
 これに対しバッハIOC会長は、「もっとも重要なことは選手村がオリンピックの魂であり中心であることだ」と森組織委会長に同調した。
こうした一連の発言で、小池都知事が経費削減と「復興五輪」のシンボルとしていた海の森水上競技場の長沼ボート場移転は、勢いを失ったようである。
 また森組織委会長はバッハIOC会長との“親密”な関係をアピールする戦略にも乗り出した。 

 森組織委会長は「バッハIOC会長は私どもの『おやじさん』、本当に心から崇拝している。2020年東京大会を主導してくれる「船長』さん。2020年東京大会とバッハIOC会長とは『兄弟』であるわけだ」と述べ、これに対しバッハIOC会長は「森さんとは先ほど『兄弟』という暖かい言葉を頂いたので、私は『弟』と呼ぶべきかな」と語った。
 「経費削減」、「復興五輪」、小池都知事に東京五輪の主導権を奪われかけた森組織委会長は、バッハIOC会長来日を機会に、一気に攻勢に出て巻き返しを図ったといえる。バッハIOC会長もこれに呼応して、野球・ソフトボールの被災地開催に言及した。
 海の森水上競技場を維持しようとする国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会の連携作戦も強烈だ。バッハIOC会長に同行したコーツIOC副会長は、元オリンピックのボート選手、「(コーツ氏の地元)シドニーの私のボートコースは海で、海水がダメというのはおかしい」とした上で、「選手村は一つ」、「レガシーとして残す」と強調した。明らかに海の森水上競技場擁護の姿勢である。
森組織委会長との親密さをアピールし、組織委員会との連携を強め、小池都知事の“封じ込め”を図ろうとしている。
 それにしても総理大臣経験者の老練な政治家、森組織委会長のしたたかな手腕がいかんなく発揮され始めている。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックを巡る小池都知事、森組織委会長、コーツIOC会長、三つ巴の主導権争いは更に激化した、2020東京オリンピック・パラリンピックはどこへ向かうのだろうか?

小池都知事VSバッハIOC会長 “軍配”は? 
 10月18日に開催された会談は、当初は冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。まさに“小池劇場”の上演で、主人公は小池百合子都知事、この舞台には森喜朗大会組織委会長はいない。
 11月に開催される四者協議も、小池都知事はオープンにしたいと要請し、バッハ会長もこれを承諾したとされている。

 翌朝の朝刊各紙は、「同床異夢」(朝日新聞)、「四者協議 都にクギ」(読売新聞)、「IOC会長 先制パンチ」(毎日新聞)、スポーツ紙では「小池知事タジタジ、IOC会長にクギ刺されまくる」(日刊スポーツ)などの見出しが並んだ。
 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、その後、組織委員会やIOCと協議を行うという作戦だったと思える。ところがコーツIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案し、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。「四者協議」の設置は合意され、来月に開催されることになった。国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が出席する。

 小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。
小池都知事と組織委員会の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして仲介に乗り出し、小池都知事にクギを刺して、組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたコーツIOC会長の巧みな対応は、さすがということだ。

 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、東京都が主導権を握ってIOCや競技団体と協議を行うという作戦だったと思える。
 ところがバッハIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案して、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。
 「四者協議」には、国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が出席し、IOCの代表を一任される。コーツ副会長は、元オリンピック選手で国際ボート連盟の“ドン”と言われ、五輪開催地の競技場整備の指導・監督をするIOCの調整委員会の委員長で、大きな権限を握る実力者だ。
 コーツ副会長は、「シドニー(コーツ氏の地元)では海水でボート・レースをやっているから問題はない。日本人は気にすべきでないしIOCとしても問題ない」とし、海の森水上競技場を暗に支持する発言を繰り返している。
 小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。小池都知事と森組織委会長の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして混乱の収拾に乗り出して、小池都知事にクギを刺して、大会組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
 これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたバッハIOC会長の巧みな対応は、さすがということであろう。

 しかし、小池都知事は決して「敗北」はしていない。
 「四者協議」で、都政改革本部が提案した3つ競技場の見直しがたとえうまくいかなくても、“失点”にならないと思える。
 海の森水上競技場の見直しでいえば、小池都知事が仕掛けている長沼ボート場への変更についても、仮に現状のまま海の森水上競技場の開催で決着しても、それは、組織委員会や競技団体、IOCが反対したからだと説明すれば、責任回避ができる。
 また、海の森水上競技場は、埋め立て地という地盤条件や自然条件を無視して建設計画が進められていて、極めて難しい整備工事になるのは間違いない。海面を堰き止めて湖のような静かな水面を保つのも至難の業で、難題、風と波対策がうまくいくかどうがわからないし、施設の塩害対応も必要だろう。つまり、海の森水上競技場は計画通り建設しても、実際に競技を開催しようとすると不具合が次々と露見して、追加工事や見直しは必須だろう。まだ誰もボート・カヌーを実際に漕いだ選手はいないのである。競技運営も天気まかせで、開催日程通り進められるかどうか、極めてリスクも多い。
 その責任は、海の森水上競技場を推進した組織委員会や競技団体がとるべきだろうと筆者は考える。整備費、約491億円の中に、なんと約90億円の巨額の予備費が計上されている。つまりかなりの追加工事が必要となる難工事になると想定しているからである。経費削減で予備費も無くそうとしているが、追加工事が必要となったらどうするのか? 風や波対策の追加工事の必要になったらその請求書を東京都は組織委員会や競技団体送り付けたら如何だろうか?
 ボート・カヌー競技の長沼ボート場への誘致に力を入れて取り組んだ宮城県にとっても、たとえ誘致がうまくいかなくても、いつのまにか忘れさられていた「復興五輪」という東京五輪のスローガンを国民に蘇らせることができたのは大いにプラスだろう。これまでほとんど誰も知らなかった長沼ボート場は一躍に全国に名前が知られるようになった。

 さらにバッハIOC会長は安倍総理との会談で、追加種目の野球・ソフトボールの被災地開催を検討したいと述べ、結果として「復興五輪」は更に前進することになりそうである。小池都知事が強調した「復興五輪」は、野球・ソフトボールの被災地開催が実現する方向で検討されることになり、形は変わるが小池都知事の功績に間違いない。

 開催経費削減についても、海の森水上競技場でいえば、小池都知事と都政改革本部が「長沼ボート場」移転案を掲げたことで、あっという間に、整備費用が約491億円から約300億円に、なんと約190億円削減されることになりそうだ。小池都知事が動かなかったら、東京都民は約190億円ムダにしていたところだ。さらに東京都が再試算すると、オリンピック アクアティクスセンターで約170億円、有明アリーナで約30億円、3施設を合わせて最大で約390億円削減できる見通しとなったとされている。
 約390億円は巨額だ。これも小池都知事の大きな“功績”、東京都民は“感謝”しなければならないだろう。

 小池都知事は「四者協議」の設置で、IOCと同じテーブルにつき、2020東京五輪大会の開催計画について直接、議論をする場を確保した。
 2020東京五輪大会の誘致が決まってからは、開催準備体制は、事実上、国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委員会との間で進められていて、開催都市の東京都の主導権はほとんどなくなっていた。小池都知事の登場で、東京都は一気に存在感を増すことに成功したのである。
 「四者協議」で具体的な見直し案を提出するのは東京都で、組織委員会ではない。また組織委員会や競技者団体は、経費削減の具体的な対案を提出する能力はないだろう。結局、“受け身”の姿勢をとらざるを得ない。やはり小池都知事や都政改革本部が見直しの主導権を握っていると思われる。
 しかし、IOCも絡んできたことで、“混迷”は更に深刻化したことは間違いない。一体、誰がどのように収束させるのだろうか?、まったく見通せない状況になった。

問われる国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢
四者協議は“オープンな形”で“リーダーはいない” バッハ会長の約束はどうなる?

 小池都知事との会談の翌日、10月19日に組織委員会を訪れたバッハIOC会長は、記者会見で、経費削減に向けて提案した国・東京都・組織委員会・IOCとの四者協議について、緊密に連携していきたいという考えを示した。
 バッハIOC会長は、「四者協議については組織委員会とも合意した。四者協議は技術的な作業部会であり、さまざまな数字や異なる予算を提示して協議していく」と述べた上で、記者団から四者協議の進め方について問われたのに対し、「作業グループは誰が仕切るとか役割分担を考えるグループではない。政治的なグループではない」と四者協議にリーダーはいなく、四者は対等だと強調した。
 同じ10月19日、バッハIOC会長は、総理官邸で安倍首相と会談し、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を突然、提案した。「復興五輪」については、小池都知事を抜きにしてバ森喜朗組織委会長がバッハ会長と画策を進めていたと思われる。安倍首相との会談を調整したとされている。小池百合子都知事との顔は立てながら、森喜朗組織委会長との密接な関係は維持する、バッハIOC会長のしたたかな対応が引き立った。

 また、2016年11月1日から3日まで開かれた第一回「四者協議」の作業部会は、国際オリンピック委員会(IOC)の意向で、一転して完全非公開とし、「会合の内容については一切公にしない」という密室の場の会議となった。しかも、完全非公開を決めたのは、国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会と相談して決めたとしている。その理由について、協議は事務レベルによるもので、11月末まで継続される見込みで、「最終的な結論となる予定はないため」としている。
一方、小池都知事は、「基本的に公開すべきだ」と苦言を呈した。四者協議はオープンにするとバッハIOC会長の了解を取り付けた小池都知事の立場は丸つぶれである。
 丸川五輪担当者相は「今回は中身が最終結論に直結しないので公開しないと聞いており、IOCと組織委員会で決めたことで、私どもは尊重したい」と述べた。四者協議における国の存在感の薄さを象徴する発言だろう。

 「四者協議」は10月18日、バッハ会長が小池都知事と会談した際に申し入れた。小池知事はその際、「ご提案があった四者の会議は、ぜひ国民や都民に見える形で情報公開を徹底できるのであれば、よろしい提案なのではないかと思う」と、議論の透明性を要請した。
 これに対し、バッハIOC会長は、「この会談のようなオープンな形で進めていきたい。われわれとしては、どこでとか、何をとかいうことを決めているのではなく、あくまで先ほど申し上げたフェアの精神でないといけないと考えている」と答えた。
 四者協議は、基本的に公開するという条件で、バッハIOC会長と小池都知事は開催に合意をしたのではないか。バッハIOC会長も了解をしたはずである。
 その2週間後に開かれた作業部会は、早くも非公開、会議の内容も公表しないという方針に変換した。国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会の「密室体質」は、従来からも強く批判をされてきた。政策決定の議論は、結論もさることながら議論の経緯が重要なのはいうまでもない。やっぱりと、国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会への信頼感を失った。
 また会議を非公開にすることは、「IOCと組織委員会で決めたこと」(丸川五輪担当相)としていることも問題だろう。バッハIOC会長は、四者協議は、「誰が仕切るとか役割分担を考えるグループではない」とリーダーのいない四者が平等な会議としていたが、実態は早くも違う。非公開を決めるなら、せめて四者で協議して決めるべきだろう。はやくも会議の進めかたで国際オリンピック委員会(IOC)の“力ずく”の姿勢が見え隠れしている。
 11月下旬に予定されている四者協議トップ級会合は、当然、公開すべきだろう。四者協議は公開するという約束で始まったのである。
 オリンピックの肥大化批判が高まる中で、 「アジェンダ2020」で、五輪改革を実現する最初の大会に2020年東京オリンピック・パラリンピックにするという国際オリンピック委員会(IOC)の意気込みはどうなるのか、問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)である。

“肥大化批判” IOC存続の危機
 国際オリンピック委員会(IOC)もその存在を揺るがす深刻な問題を抱えている。オリンピックの“肥大化”批判である。巨額な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催地がなくなるのではという懸念だ。
 2024年夏季五輪では、立候補地は、当初は、パリ、ボストン、ローマ、ブタペスト、ハンブルだった。この内、ボストンは、米国内での候補地競争を勝ち取ったが、市長が財政難を理由に大会運営で赤字が生じた場合、市が全額を補償することに難色を表明、立候補を辞退した。その後、ロサンジェルスが急遽、ピンチヒッターで立候補することになった。ローマは新しく当選した市長が、財政難を理由に立候補撤退を表明、「オリンピックを招致すればローマの債務はさらに増える。招致を進めるのは無責任だ」とした。しかし、組織委員会は活動継続を表明し混乱が続いている。ハンブルグでは招致の是非を問う住民投票が行われ、巨額の開催費用への懸念から反対多数で断念した。
 結局、立候補地は4つになった。2008年(北京五輪)の立候補地は10、2012年(ロンドン)は9、2016年(リオデジャネイロ五輪)は7、2020年(東京)は6で、2008年の半分以下に激減した。さらに悲惨なのは、冬季五輪で、2018年(平昌五輪)は3、2022年(北京)は、最終的には北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで、実質的に競争にならなかった。しかし、このほかに、ストックホルム(スウェーデン)、クラクフ(ポーランド)、リヴィウ(ウクライナ)、オスロ(ノルウェー)の4か所が立候補を申請したが、いずれも辞退した。
 ストックホルムは、1912年夏季五輪を開催し、冬季五輪が開催されれば史上初の夏冬両大会開催地となるはずだった。2014年1月にスウェーデンの与党・穏健党は招致から撤退する方針を発表した。ボブスレーやリュージュの競技施設の建設に多大な費用がかかる上、大会後の用途が少ないことなどを理由に挙げている。
クラクフ は、ポーランド南部に位置する旧首都、開催地に選ばれれば同国初の五輪開催となる。2014年5月に行われた住民投票で、反対票が全体の7割近くを占めたため、招致から撤退した。
 リヴィウは、ウクライナ西部の歴史的な文化遺産が数多く残る都市である。開催地に選ばれれば、同国で初の五輪開催となる。しかし、2014年6月に緊迫化すウクライナ情勢で立候補を取りやめると発表した。
ノルウェーは、1952年にオスロオリンピック、1994年にリレハンメルオリンピック開催している。2013年9月に住民投票を行い、支持を得られたことで立候補を表明した。しかしIOCの第1次選考を通過していたにもかかわらず2014年10月、招致から撤退する方針を明らかにした。ノルウェー政府が巨額の開催費などを理由に財政保証を承認しなかったとされている。
 開催費用の巨額化で、相次ぐ立候補撤退、このままでは、やがてオリンピック開催を立候補する都市はなくなるとまで言われ始めている、国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックの存在をかけて改革に取り組む必要に迫られているのである。

「アジェンダ2020」を策定したバッハIOC会長
 2013年、リオデジャネイロの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ロゲ前会長と交代したバッハ会長は、オリンピックの肥大化の歯止めや開催費用の削減に取り組み、翌年の2014年の「アジェンダ2020」を策定する。
 「アジェンダ2020」は、合計40の提案を掲げた中長期改革である。
 そのポイントは以下の通りだ。
* 開催費用を削減して運営の柔軟性を高める
* 既存の施設を最大限活用する
* 一時的(仮設)会場活用を促進する
* 開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める
* 開催都市に複数の追加種目を認める 

 2016年10月20日、都内でバッハIOC会長の来日記念式典が開かれ、東洋の文化、書道を体験してもらうイベントが行われ、バッハIOC会長は、一筆入れて下さいという要請に答え、「五輪精神」の「神」の字に筆を入れて、「五輪精神」の四文字の書を完成させ喝采を浴びた。
 その後にスピーチで「オリンピックの運営という観点での『アジェンダ2020』の目標は、経費削減と競技運営の柔軟性を再強化することだ。これは大きな転換点だ」と強調した。
 今回バッハIOC会長と共に来日したコーツ副会長も、2000年シドニー五輪で大会運営に加わり、経費削減に辣腕をふるって、大会を成功に結び付けた立役者とされている。
 国際オリンピック委員会(IOC)にとっても、肥大化の歯止めや開催費用の削減は、オリンピックの存亡を賭けた至上命題なのだ。持続可能なオリンピック改革ができるかどうか、瀬戸際に追い込まれているのである。

都政改革本部調査チーム オリンピック・アクアティクスセンターの大幅な見直しを提言
 2016年11月、都政改革本部調査チームは、国際水泳連盟や国際オリンピック委員会(IOC)の要求水準から見ると五輪開催時の観客席2万席という整備計画は過剰ではないかとし、大会開催後は減築するにしても、レガシーが十分に検討されているとは言えず、「国際大会ができる大規模な施設が必要」以上の意義が見出しづらいとした。
 「5000席」に減築するにしても、水泳競技の大規模な国際大会は、年に1回、開催されるかどうかで、国内大会では、観客数は2700人程度(平均)とされている。(都政改革本部調査チーム)
 また「2万席」から「5000席」に減築する工事費も問題視されている。現状の整備計画では総額683億円の内、74億円が減築費としている。
 施設の維持費の想定は、減築前は7億9100円、減築後は5億9700万円と、減築による削減額はわずか年間2億円程度としている。(都政改革本部調査チーム) 減築費を償却するためにはなんと37年も必要ということになる。批判が起きるのも当然だろう。
 施設維持費の後年度負担は、深刻な問題で、辰巳水泳場だけでも年5億円弱が必要で、新設されるオリンピックアクアティクスセンターの年6億円弱を加えると約11億円程度が毎年必要となる。国際水泳競技場は赤字経営が必至で、巨額の維持費が、毎年税金で補てんされることになるのだろう。
 大会開催後のレガシーについては、「辰巳国際水泳場を引き継ぐ施設」とするだけで検討が十分ではなく、何をレガシーにしたいのか示すことができていない。大会後の利用計画が示されず、まだ検討中であること点も問題した。
 辰巳国際水泳場の観客席を増築する選択肢は「北側に運河があるから」との理由だけで最初から排除されており、検討が十分とは言えないとし、オリンピックアクアティクスセンターは、恒久席で見ると一席あたりの建設費が1000万円近くも上りコストが高すぎると批判を浴びた。
 結論として、代替地も含めてすべての可能性を検証すべきで、オリンピックアクアティクスセンターの現行計画で整備する場合でも、さらなる大幅コスト削減のプランを再考することが必要だと指摘した。

「3兆円」は「モッタイナイ」!
 「3兆円」、都政改革本部が試算した2020東京オリンピック・パラリンピックの開催費用だ。オリンピックを取り巻く最大の問題、“肥大化批判”にまったく答えていない。
 東京でオリンピックを開催するなら、次の世代を視野にいれた持続可能な“コンパクト”なオリンピックを実現することではないか。「アジェンダ2020」はどこへいったのか。国際オリンピック委員会(IOC)は、2020東京大会を「アジェンダ2020」の下で開催する最初のオリンピックとするとしていたのではないか。「世界一コンパクな大会」はどこへいったのか。開催費用を徹底的削減して、次世代の遺産になるレガシーだけを整備する、今の日本に世界が目を見張る壮大な施設は不要だし、“見栄”もいらない。真の意味で“コンパクト”な大会を目指し、今後のオリンピックの“手本”を率先して示すべきだ。
 日本は確実に少子高齢化社会が急速に進展する。その備えを、今、最優先で考えなければならい。
 小池東知事は、リオデジャネイロ五輪に参加して帰国後、日本記者クラブで会見して、2020東京五輪大会の開催にあたって、「もったいない Mottainai」というコンセプトを国際的に発信していきたいと宣言した。
 絶対に「3兆円」は「モッタイナイ」! 
 ともかく五輪改革の舞台は、「四者協議」に場に移った。


オリンピックアクアティクスセンターの内部(完成予想図)  出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


杜撰な整備計画に大なたをふるった舛添前都知事 招致段階の3倍、「4584億円」に膨張した整備経費
 競技場の整備計画の問題は、小池都知事の見直しが最初ではない。公費流用問題の責任をとって辞職した舛添要一前知事の時代に大規模な見直しが行われ、整備計画に大なたがふるわれ、整備経費は2000億円も削減され、半減した。
 競技場の整備経費については、新国立競技場は国、恒久施設は東京都、仮設施設は大会組織委員会が責任を持つことが決められていた。
 東京都が担当する恒久施設は、招致計画では整備経費は約1538億円としたが、招致決定後に改めて試算すると当初予定の約3倍となる約4584億円まで膨らむことが判明した。
 海の森水上競技場(ボート、カヌー)は、招致計画では約69億円としていたが、五輪開催決定後、改めて試算すると、約1038億円と10倍以上に膨れ上がった。若洲オリンピックマリーナ(ヨット・セーリング)は92億円から約4倍弱の322億円、葛西臨海公園(カヌー・スラローム)は約24億円から約3倍の73億円、有明アリーナは176億円から倍以上の404億円、東京アクアティクスセンターは321億円から倍以上の683億円に膨張した。招致計画時の余りにも杜撰な予算の作成にあきれる他はない。
 問題は新国立競技場にとどまっていなかったのである。

 舛添要一東京都知事は、「『目の子勘定』で(予算を作り)、『まさか来る』とは思わなかったが『本当に来てしまった』という感じ」とテレビ番組に出演して話している。
 招致計画を策定した担当者は、ほとんど誰も五輪大会の東京招致が実現するとは思わず、作業を進めていた光景が浮かび上がる。

東京五輪大会の招致に名乗りを上げた石原慎太郎元知事
 2020東京五輪大会の招致に名乗りを上げたのは、石原慎太郎元知事である。
 2007年、東京都知事として三期目を迎えた石原氏は、2016夏季五輪大会の開催都市として名乗りを上げ、招致活動を開始した。
 石原元知事は五輪開催で臨海副都心の再開発の起爆剤にしようと目論んだ。
 臨海副都心の開発が本格的に始まったのは、1980年代後半、当初は鈴木俊一都知事(当時)による東京テレポート構想によって始まり、1996年に国際博覧会である「世界都市博覧会」の開催が予定されていた。
 1993年にはレインボーブリッジが開通、1995年にゆりかもめが新橋-有明間に開通、着々とインフラは整備されていった。
 しかし、都市博中止を掲げた青島幸男都知事が当選し、公約どおり1995年、「世界都市博覧会」中止され、臨海副都心は挫折寸前に陥った。それ以後も、1996年臨海高速鉄道が開通したり、臨海部は徐々に「街」として様子を整えていったが、依然として広大な草ぼうぼうの埋め立て地が広がっていた。
こうした中で、メインの会場となる五輪スタジアムを、常設8万人、仮設2万人、10万人収容する巨大スタジアムとして、晴海埠頭に東京都が新設するという計画を立案した。
 その後、五輪スタジアムは国立霞ヶ丘競技場を改修することになり、晴海埠頭の五輪スタジアム新設計画は消え、代わりに晴海埠頭には18,500人収容の選手村が建設されることになる。
 その他、代々木アリーナ(バレーボール)、海の森水上競技場(ボート/カヌー)、 葛西臨海公園(カヌー[スラローム])、若洲オリンピックマリーナ(セーリング)などが新設される。水泳会場は、東京辰巳国際水泳場を改修して使用する計画である
 開催経費は、大会組織委員会予算が3093億円、設備投資予算(非大会経費予算 競技場施設の整備費)が3317億円、計6410億円、五輪スタジアムは898億円とした。
 しかし、2009年のIOC総会で南米初の大会開催を掲げたリオデジャネイロに敗れた。
 2011年4月、東京都知事選で4選を果たした石原氏は、再び、2020夏季五輪開催都市への立候補を宣言して招致員会を立ち上げ招致活動を開始する。招致委員会の理事長は竹田恆和JOC会長である。2012年2月には、招致申請ファイルを国際オリンピック委員会(IOC)に提出した。

五輪開催に冷ややかだった東京都民
 石原氏の五輪開催にかける執念はともかく、都民に五輪大会招致に対する思いは冷めていた。1964東京五輪の感動は忘れてはいなかったが、なぜ再び東京が開催地に名乗りをあげなけれならいのか納得していなかのである。
 国際オリンピック委員会(IOC)が2012年5月に調査した東京五輪大会開催への東京都民支持率調査によれば、賛成が半分を下回る47%、反対が23%、どちらでもないが30%と支持率は低迷していた。同年10月に招致委員会が独自に調査した結果によれは、賛成は67%、反対21%、どちらでもない13%と賛成が大幅に増えたが、競争相手のマドリードの80%、イスタンブールの73%に比べて、大差をつけられていた。
 東京がライバルのマドリードやイスタンブールに勝つには、都民の支持率を上げ、国際世論の支持を得ることが必須の条件だった。
 東京五輪開催に対する拒否反応の主な理由は、巨額の開催経費負担への懸念である。招致計画を立案する東京都は、五輪開催経費を極力縮減し、都民に負担ならない大会開催を掲げた。東京都が整備する競技場の建設予算額は低く抑える必要があった。そして掲げたスローガンが「世界一コンパクトな大会」で、招致申請ファイルの経費総額は7,340億円(大会組織委員会3,013億円、非大会組織委員会4,327億円)とした。
 実現可能性を真剣に検証して算出された経費ではなく、明らかに経費総額を抑える「見せかけ」の数字であった。とにかく開催経費を低く見せればよいという発想だったと思われる。
 こうした意識が蔓延した背景には、「まさか本当に東京に五輪がくるわけはない」といった無責任とも言える意識があったことが窺われる。「旗振れども踊らず」は、国民だけでなく関係者にも浸透していたのである。
 2020東京五輪大会の開催計画は、2016大会の臨海部を中心に競技場を整備して開催するという計画をほぼそのまま踏襲していた。変更したのは、新国立競技場の建設地を臨海部から旧国立競技場の跡地に変えたことや、IBCの設置を晴海地区に新設する計画を東京ビックサイトに変更し、晴海地区に選手村を整備することだけで、大半の競技施設の整備は、新たに検証することなく、2016大会の計画をそのまま引き継いだ。
 ところが「晴天の霹靂」、東京大会招致が決まって、2020開催計画を策定した担当者は大慌てで整備予算を「真面目」に見直しのである。その結果が、「1538億円」の約3倍となる「4584億円」という数字になって現れたのである。
 まさに無責任体制の象徴だった。
 
経費削減に動いた舛添都知事 「削減効果」は2000億円


出典 TOKYO MX NEWS 2014年6月10日 所信表演説

 2013年12月、猪瀬直樹東京都知事は、医療法人「徳洲会」グループから5000万円の資金提供を受けていた問題で、「都政を停滞させ、国の栄誉がかかったオリンピック・パラリンピックを滞らせることはできない」として辞職を表明した。猪瀬氏は、国政転出のため任期半ばで辞任した石原氏から後継指名を受け2012年12月に行われた都知事選に立候補、過去最高の433万票を獲得して初当選した。2020東京五輪大会の招致活動に力を入れ、2013年9月には東京五輪大会の招致を実現する。
 2014年2月、猪瀬氏の辞任を受けて、都知事選が行われ、自民党・公明党の推薦を受けた舛添要一が、共産党・社民党など推薦の宇都宮健児氏や民社党など推薦の細川護熙氏を大差で破って初当選した。
 2014年6月、舛添要一都知事は所信表明演説で、競技場整備計画の大幅な見直しを表明した。
 そして11月には、新設する5競技場の建設中止を含む大幅な見直し案を明らかにした。見直しに伴う整備費の削減効果は2千億円規模に及ぶ。
 舛添氏は「施設が大会後の東京にどのようなレガシー(遺産)を残せるのか、現実妥当性を持って見定めていく必要がある」と述べた。
 舛添氏は、記者会見で、都内で開かれた国際オリンピック委員会(IOC)との調整員委員会でおおむねの合意を得たとし、会議でコーツ調整委員長はコスト削減のため、サッカーやバスケットボールの予選を地方都市の既存施設で開くことを推奨し、候補として大阪を提案したことを明らかにした。

5つの競技場を建設中止
 建設が中止される競技場(恒久施設)は、夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)、ウォーターポロアリーナ(水球)(新木場・夢の島エリア)、若洲オリンピックマリーナ(セーリング)、有明ベロドローム(自転車・トラック)の5施設である。
 バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)、 水球は東京アクアティクスセンターに隣接する東京辰巳国際水泳場、セーリングは江の島ヨットハーバー(藤沢市)、自転車(トラック)は日本サイクルスポーツセンター(伊豆市)内の伊豆ベロドロームで開催することになった。
 東京ビッグサイト・ホールA (レスリング)と東京ビッグサイト・ホールB (フェンシング・テコンドー)は、幕張メッセ(千葉市)となり、レスリングとフェンシング、テコンドーの3つの競技会場となった。
 自転車競技のマウンテンバイク(MTB)ては、有明地区にマウンテンバイク(MTB)コースを仮設で整備する計画だったが、日本サイクルスポーツセンター(伊豆市)のMTBコースに変更することが決まった。しかし、自転車(BMX)は、若者に人気のある競技で都心部に隣接するエリアで開催したいという競技団体の強い意向で、当初予定通り、有明地区に仮設施設を建設して開催するとした。
 また、夢の島地区に仮設施設を建設する予定だった馬術(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)の会場は整備を取りやめ、馬事公苑(世田谷)に変更した。
 馬術(クロスカントリー)は海の森クロスカントリーコースを海の森公園内に仮設施設として整備して予定通り行われる。


夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット) 完成予想図 出典 以下2020招致ファイル


若洲オリンピックマリーナ(セーリング) 完成予想図


有明ベロドローム(自転車・トラック) 完成予想図

2000億円削減して2241億円に
 カヌー・スラローム・コースは、葛西臨海公園内に建設する計画だったが、隣接地の都有地(下水道処理施設用地)に建設地を変更した。葛西臨海公園の貴重な自然環境を後世に残すという設置目的などに配慮して、公園内でなく隣接地に移し、大会後は、公園と一体となったレジャー・レクリエーション施設とするとする整備計画に練り直した。
 一方、トライアスロンに予定されているお台場海浜公園は、羽田空港の管制空域で取材用ヘリコプターの飛行に支障が生じることや水質汚染に懸念があることなどで横浜などへの会場変更が検討されたが、結局、変更せず、お台場海浜公園で計画通り行うこととなった。
 また7人制ラグビーは新国立競技場から味の素スタジアム(東京都調布市)に変更となった
 こうした計画見直しで、競技場整備経費を約2000億円削減し、約4584億円まで膨らんだ経費を約2469億円までに圧縮するとした。

 その後、IBC/MPCが設営される東京ビックサイトに建設する「拡張棟」は当初はIBC/MCPとして使用する計画だったが、レスリング・フェンシング・テコンドーが幕張メッセに会場変更となり、その建設費約228億円を五輪施設整備費枠から除外するなどさらに削減し、約2241億円となった。もっとも「拡張棟」は五輪大会準備を目的で建設されたものであり、計画が変更したとしても経費を負担することには変わりはないのだから、「見せかけ」の操作と思われてもしかたがない。
 2241億円のうち、新規施設の整備費が約1846億円、既存施設の改修費などが約395億円とした。

杜撰な開催経過の象徴 海の森水上競技場 若狭若洲オリンピックマリーナ
 海の森水上競技場は、カヌー・ボート競技の会場として東京湾の埋め立て地の突端にある中央防波堤内側と外側の埋立地間の水路に整備する計画である。
 全長2300mで、2000m×8レーンのコースが設置され、コース内の波を抑えるために、コースの両端に水門と揚水機を配置し水位のコントロールする。
 カヌー・ボートのコースとしては珍しい海水コースである。
 海の森水上競技場の整備経費は、招致段階では69億円としていたが、五輪開催決定後、改めて試算すると、約1038億円と10倍以上に膨れ上がった。
 海とコース水面との締め切り堤や水門、護岸工事を始め、コースの途中にかかる中潮橋の撤去、ごみの揚陸施設の移設などの工事が必要となったのがその理由である。
 若狭若洲オリンピックマリーナは、江東区若洲の埋め立て地の南端部分に恒久マリーナとして整備して五輪大会のヨット会場とし、大会後は東京都が所有して、首都圏だけでなく国際的なセーリング競技やマリンスポーツの拠点として活用していく計画だった。総観客席数は5000(うち立ち見3000)も整備して本格的なセーリング会場を目指した。
 若洲地区は東京ゲートブリッジで海の森水上競技場とも結ばれる予定で、大会後は水辺の森、水と緑に囲まれたエリアとして市民に親しまれる空間となるとした。
 しかし、埋立地のために地盤が悪く、護岸の大規模な改良工事が必要となり、整備経費は、当初の92億円から約4倍弱の322億円に膨れ上がった。
 ふたつの競技場の見直しの理由を見ても、当初から建設予定地の調査を適切にしていれば簡単に分かった懸案だろう。東京湾の海に面していて波の影響が心配しない建設計画がどうしてまかり通ったのか唖然とするほかない。
 こうした杜撰な整備計画の積み重ねで、「1538億円」から約3倍の「4584億円」に膨れ上がったののである。

 東京都は、開催都市として、2006から2009年度に「開催準備基金」を毎年約1000億円、合計約3870億円をすでに積み立てている。この「基金」で、競技施設の整備だけでなく、周辺整備やインフラの整備経費などをまかなわなければならない。東京都が負担する五輪施設整備費は、4000億円の枠内で収まらないのではという懸念が生まれている。競技場の建設だけで2241億円を使って大丈夫なのだろうか?

「コンパクト五輪」の破産
 東京オリンピック・パラリンピックの開催計画では、33競技を43会場で開催し、その内、新設施設18か所(恒久施設8/仮設施設10)、既設施設24か所を整備するとしている。既設施設の利用率は約58%となり、大会組織委員会では最大限既存施設を利用したと胸を張る。
 しかし競技場の変更は9か所にも及び、予定通り建設される競技場についても上記のように“迷走”と“混乱”を繰り返した。
  2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致計画のキャッチフレーズは、「世界一コンパクトな大会」、選手村を中心に半径8キロメートルの圏内に85%の競技場を配置すると「公約」した。1964年大会のレガシーが現存する“ヘリテッジゾーン”と東京を象徴する“東京ベイゾーン”、そして2つのゾーンの交差点に選手村を整備するという開催計画である。しかし、相次ぐ変更で「世界一コンパクトな大会」の「公約」は完全に吹き飛んだ。



2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)


五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)


“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
大会経費総額1兆6440億円  V5公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)


東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (7)




国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)




2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR


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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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