*科学するほど人間理解から遠ざかる第16回
最初に「過去体験記憶」のほうから見ます。俺の身体と俺の「過去体験記憶」の間柄に特にご注目いただくことにしましょうか。
みなさん、俺が並木道を大木に向かって歩いている場面を先ほどご想像なさっていたときのことを思い返してごらんください。途中、俺が怪訝な動きをしたのをみなさん覚えておいでではないでしょうか。そのまままっすぐ大木に向かっていけばよいものを、途中、なぜかあるところで縦に半円を書くような進みかた*1を急に俺はしました。
あ、やっぱり覚えておいででしたか。
実は俺、そのあたりに犬か何かのウンコちゃんが落ちているのを、大木に歩みより出すまえにたまたま目撃していました。で、大木に向かって歩みはじめたあと、そのあたりにさしかかったところで不意に、目撃したそのときのことを思い出すと同時に、ボクサーのような機敏なステップをとっさに踏んで 踏んだのがステップのほうだったことに自分でもびっくりしました 進路を変えたという次第です。
俺の身体(「身体の感覚部分」と「身体の物部分」とを合わせたもののこと)が、「他のものと共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに答えているのをみなさんにはご確認いただいてきましたが、その「他のもの」のなかには、これまで数えあげてきた、大木、太陽、雲、道、他人の身体、音らのみならず、俺のそのときの「過去体験記憶」も含まれているということ、さらに言えば、俺の身体、大木、太陽、雲、道、他人の身体、音等が、「応答し合いながら共に在る」、その応答し合いのなかに、俺の「過去体験記憶」も含まれているということをいまご確認いただきました。
つぎはおなじようにして「未来体験予想」についても確認します。今度は俺の身体と俺の「未来体験予想」のあいだに特にご注目いただきましょう。
俺が並木道を大木に向かって歩いていた理由をみなさんは何とお考えになりますか。
俺はその大木の下にいらっしゃるのがみなさんであると思えばこそ、そうです、みなさんとじかにお話するという恩恵に浴することができると思えばこそ、そうしてわさわざ大木のもとに歩みよっていたわけです(キモいとお感じのかたにはお詫び申し上げます)。
ところがどうです、大木の下に立っているそのひとがこちらに向けていた背をひるがえすと、なんとみなさんじゃなかった!
キラキラと輝いていた未来が消滅したその瞬間、急にチカラがぬけ、俺はその場(大木まであと20メートルほどのところ)にへたり込んでしまいました。数分後ようやく立ち上がって歩き出した俺の、肩を落とした背中が、大木に向けられていたのは言うまでもありません。
先ほども申しましたように、俺の身体が、「他のものと共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに答えているのをみなさんにご確認いただいてきましたが、その「他のもの」のなかには、俺のそのときの「未来体験予想」も含まれるということ、さらに言えば、俺の身体、大木、太陽、雲、道、他人の身体、音、俺の「過去体験記憶」等が、「応答し合いながら共に在る」、その応答し合いのなかに、俺の「未来体験予想」も含まれるということを確認しました。
後日、配信時刻を以下のとおり変更しました。
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