*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.18
さあ、いま、ふたり目の女性について、俺、こう推測しましたよね。その女性は、自分が錯覚していることに気づいていなかったのではないか、って。
では、この女性がもし反対に、自分が錯覚していることにそのとき気づいていたら、事態はどうなっていたか、最後にちょっと想像してみましょうか。
みなさん、どう想像します?
俺はこう想像しますよ。
この女性は、ミュージシャンが自分だけに向けて意味深な言葉や熱い視線を送ってきていると「感じる」のを、錯覚であるとわかったうえで、楽しんでいたのではないか、って。
要するに、疑似恋愛体験を楽しんでいたのではないか、って。
他の多くのファンが現にしているように、ですよ。
実際、ミュージシャン(一部の音楽に限る)やアイドルというのは、そんなふうな疑似恋愛体験をファンのみなさんにしてもらえるよう努めることを仕事としているのではありませんか。
以上、みなさん、このふたり目の女性のほうはどうでした? ほんとうに、(精神)医学が言うように、「理解不可能」だと思いました? 「永久に解くことのできぬ謎」だと感じました?
いや、「理解不可能」だなんて、滅相もありませんでしたよね?
もちろん、このふたり目の女性のことをいま完璧に理解し得たと言うつもりも、やっぱり俺にはありませんよ。むしろ、多々誤ったふうにこの女性のことも決めつけてしまったのではないかと自責する自分を、どうしても止められないというのが、正直なところですよ。
ただ、いくらそうは言ってもさすがに、この女性がほんとうは「理解可能」であるということは、いまの考察からでも十分明らかになりましたよね?
みなさんのように、申し分のない人間理解力をもったひとたちになら、このふたり目の女性のことも完璧に理解できるにちがいないということは、いま十分に示せましたね?
このふたり目の女性のことが(精神)医学に理解できないのは、単に、この女性のことを理解するだけの力が(精神)医学にはないということにすぎないと、いま極めてハッキリしましたね?
今回は、「世界的なスーパースターに愛されている」「スーパースターが意味深な言葉や熱い視線をブラウン管ごしに送ってくる」等と語るふたりの女性に登場してもらいました。そして、統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたそのふたりが、ほんとうは「理解可能」であることを実地に確認しました。(精神)医学が、「統合失調症」と診断するひとたちにたいし、深い「偏見」をもっていることが明らかになりましたね。(精神)医学は世間を啓蒙しようとするまえにまず、みずからを根本的に正すところからやり直さなければならないとつくづく思い知らされましたね。
2021年9月13日に文章を一部修正しました。
次回は7月20日(月)21:00頃にお目にかかります。つぎの方についてのお話を、その相方がお書きになった著書からお伺いする予定です。
*今回の最初の記事(1/7)はこちら。
*前回の短編(短編NO.17)はこちら。
*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。