MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1663 緊急事態宣言は本当に必要だったのか

2020年07月03日 | 社会・経済


 5月25日、4月7日から実施していた緊急事態が約7週間ぶりに全面解除され、約2カ月間にも及んだ「自粛生活」が(ひとまず)区切りを迎える形となりました。

 学校もようやく再開し、街角に新学期を迎えた子どもたちを目にする機会も増えました。気が付けば朝夕の通勤時間帯の公共交通機関も、(まるで何事もなかったかのように)以前と同じような混雑を見せ始めています。

 今回の新型コロナウイルスの感染拡大に対処するため、世界各国が強制力のあるロックダウンなどの対策を進める中、日本政府が採った「自粛政策」は内外の多くの識者から「手ぬるい」との批判を浴びてきました。

 しかし、こうして状況が落ち着いてみると、まずは死亡者数が他国よりも格段に低く抑えられていることなどから、(今さらながら)その対応を賞賛する声が相次いでいるのも皮肉と言えば皮肉な話です。

 その一方で、(「喉元過ぎれば」というわけではありませんが)政府のとった今回の「緊急事態宣言」+「自粛要請」という対応ですら、果たして本当に必要だったのか?と疑問を呈する声が(早速)各所から挙がり始めているのも事実です。

 例えば「実効再生産数」、つまり「1人の感染者が何人の感染者を増やしているか」という指標の推移をもとに感染拡大の状況を事後的に評価してみるとどうなのか。

 1を上回ると(1人が1人以上に染しているということになり)感染者が増えていることを表すこの指標ですが、実は(日本国内で見ると)政府が緊急事態宣言を行った4月7日より以前にピークアウトしているというデータがあるようです。

 その意味するところは、緊急事態宣言が出る前に、既に感染拡大の勢いは収まり始めていたということ。放っておいても感染者は減っていたのではないかという主張の根拠はここにあります。

 また、6月11日に大阪府が行った「新型コロナウイルス対策本部専門家会議」では、大阪大学核物理研究センターセンター長の中野貴志教授が、「感染拡大の収束に外出自粛や休業要請による効果はなかった」と明言したという報道もありました。

 政府が感染状況の傾向を測る指標として用いている「K値」の発案者である同教授は、その動きを根拠に「日本では第1波を非常に効率よく収束させ3月初旬に収束させていた。しかし、間髪を入れずに欧米から感染者が流入し第2波の感染拡大が始まった。その拡大がピークになり、そこから減少になった時期(ピークアウト)は3月28日頃。原因は3連休の気のゆるみなどではない」と話しているということです。

 ここで言う「K値」とは、累計感染者数あたりの直近1週間の感染者数を比率で表した数値で、これを日々追えば毎日の感染者数の増減に惑わされずに(大きな)感染傾向を捉えることができるとされています。

 同会議における「ピークアウトに外出や営業自粛の効果はあったのか?」との吉村洋文大阪府知事の質問に対し、中野氏は「データを見る限りは相関が少ない。欧米などは、何か政策の効果が見えた場合にK値の傾きに変化が出ている。大阪の推移を見る限り、それとは関係なく収束したというと考える方が自然だ」と回答したと伝えられています。

 さらに、吉村知事による「(北海道大学の)西浦博教授は4月15日の時点で、(このまま何もしなければ)国内死亡者が40万人に上がると示された。どう思うか?」と質問に対し、中野氏は「(西浦教授の想定値は)あり得ないと思った。」と答えています。

 今回の新型コロナウイルスは、国内において自然に収束する方向に向かっていた。K値の推移については、まるで金太郎飴のごとく全国一律で、大都会でも地方都市でも同じ傾向を示している。混んだ通勤電車などの大都会の特殊事情の影響も見られないということです。

 しかし、その一方で、中野氏は「今回、全国で取られた政策が間違っていたとは思わない。後から考えると過剰だったりするが、そのことをことさら責めたり、完全に間違っているとあげつらったりするのは間違っている。」と話しています。

 氏がそこで言いたかったのは、今大切なのは、あくまで「冷静な目でデータ蓄積を見返すこと」だということでしょう。

 いずれにしても、(勿論)重症化の恐れのある高齢者や基礎疾患のある人には、外出の自粛や感染防止対策を強く求める必要があるのは事実です。クラスターを防止するために感染者を丁寧に追うことも、具体的な感染の連鎖を避けるためには有効な手段であることは(恐らく)間違いないでしょう。

 同会議において、中野氏の指摘に「うーん」と天を仰いだ吉村知事に対し、座長である大阪大学の朝野和典教授は、「もう少し深くいろんな人の意見も聞いて、意見を戦わせる必要がある。今日の議論だけで、自粛・休業が無意味だったという結論にはしていただきたくない」と釘を差したと伝えられています。

 大切なのは、これまでの対策が正しかったかどうかの「責任問題」ではなくて、これまでの対策を十分に検証し、第2波、第3波の到来に活かしていくこと。様々な知見を集めてより効果的な次の一手を打っていくことだと、(こうしたやり取りから)私も改めて感じたところです。


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