MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1272 人口減少、何か問題でも?

2019年01月14日 | 社会・経済


 今年3月に国立社会保障・人口問題研究所が発表した推計結果によると、2030年には(東京を含む)全国の全ての都道府県で人口が減少し、2045年の日本の総人口は1億0642万人に減少するということです。

 2015年の国勢調査で1億2709万人とされた日本の総人口が、今後30年で2000万人以上減少することになります。

 勿論、現在の低出生率が劇的に回復しない限り2045年以降も人口減少は続くとされ、今から47年後の2065年には日本の人口は8808万人まで落ち込み、65歳以上の老年人口比率は38.4%と全人口のほぼ4割が高齢者という社会が現実のものとなるようです。

 この時代、生産年齢人口比率は51.4%となり、(現在の水準で見て)「現役世代」として働ける人が、実に2人に1人(残り半分のほとんどがお年寄り)という寂しい時代が訪れるということです。

 こうした推計値を目の当たりにして、日本の社会や経済の弱体化を懸念する声が日増しに大きくなっているように感じられます。

 例えば、昨年5月9日の東洋経済ONLINEに掲載されていた特集「日本人は人口減少の深刻さをわかってない」では、これからの人口減社会で懸念されることとして、国の衰退を肌で感じ生活防衛のために消費を抑える「デフレマインド」の蔓延を挙げています。

 記事によれば、労働人口が減少すれば消費の中心となる人口が確実に減少していくため、実際に経済規模が縮小していくのは当然のことだということです。

 さらに人口減少の過程で(社会における)若者の比率が減少することで社会の仕組みが年寄り中心のものになり、チャレンジよりも安定志向が強い現状維持社会になっていくとの指摘もあります。

 政府としても、内閣府が2015年に設置した有識者会議「選択する未来委員会」の報告書において、今後の人口減少のマイナスの影響として(1)人口オーナスと縮小スパイラルが経済規模を縮小させ経済成長のブレーキなること、(2)急速な人口減少が、投資先(市場)としての日本の魅力を低下させ、更に人々の集積や交流を通じたイノベーションを生じにくくさせること、さらには(3)国民負担の増大が経済の成長を上回ることで実質消費水準が低下し、国民一人一人の豊かさが低下するような事態を招きかねないことなどを挙げています。

 しかし、よく考えれば日本よりもずっと人口規模の少ない国々でも、経済や国民生活に関係する様々な指標においても、国民の幸福感においても大きな成功を収めている例が沢山あることが見て取れます。

 スウェーデンやフィンランド、デンマークなどの北欧諸国は福祉国家として国民生活への満足度が高いばかりでなく、経済成長率や国民一人当たりの所得でも世界の上位に着けています。

 スイスもシンガポールも狭い国土に国民も少数ながら確固たる世界戦略によって経済を発展させ、国際的に独自の位置を保っていると言ってよいでしょう。

 そう考えれば、果たして(リスクや危機感ばかりが強調される)人口減少の一体何が悪いというのか?

 11月6日の「週刊SPA!」に、(そうした視点から)「危機をあおるウソを高橋洋一氏が『未来年表』でバッサリ」と題する大変興味深い記事が掲載されています。

 記事によれば、「未来年表 人口減少危機論のウソ」を上梓した数量政策学者で嘉悦大学教授の高橋洋一氏は取材に対し、「人口の減少は予想通りのこと。大した問題じゃない。労働人口が減る? 別にいいじゃないですか。社会保障制度の破綻?ないない…」と明るく語ったということです。

 「そもそも、なんで人口減少を危機と捉える風潮があるのか、私にはまったく理解できない。正直、人口が減ると困る人たちが意図的に扇動しているとしか思えない」というのが、同誌に寄せた高橋氏の見解です。

 例えば経済規模の縮小に関しては、「人口が減少すれば、GDPも減るのは当たり前。大事なのは1人当たりのGDP(平均給与)だから『人口が減ったところで、どうなの?』という話に過ぎない。」としたうえで、先進国に関しては人口増減率と1人当たりGDP成長率との相関関係を調べてみても、そこに関係性は見当たらないと高橋氏は説明しています。

 また、人口が減少すれば税金を払う労働者人口が減り、年金や健康保険といった社会保障制度が成り立たなくなってしまうという予測についても、保険料を支払う人が減ればその分だけ給付額も減るように制度的に調整されるため、(給付額が減ることはあっても)人口減少は社会保障制度の崩壊にはつながらないというのが高橋氏の認識です。

 少子化対策を育児環境などからあれこれ考えたところで、結局(子供を産む産まないは)個人の価値感の問題。そうなれば、最終的には「量を増やすか質を上げるか」の話になる。であればまず、(人口を増やすよりも)経済成長をして1人当たりのGDPを増やすことの方がよほど現実的で手っ取り早いと氏はこのインタビューに答えています。

 経済成長さえ遂げられれば人口減少もさほど問題ではないというのが、この記事における高橋氏の主張です。しかし、それでは世間はなぜこれほどまでに人口減少に危機を感じ、人々の不安を煽ろうとするのか?

 高橋氏は、『人口減少危機論=人口増加幸福論』を支持する「世間」とは、人口が減り続けることで最も困る人たち、つまり(主に)地方公共団体の関係者たちと見ています。

 その地域の人口が減れば、当然いずれは行政規模の適正化のため市町村を合併しなければならない。民間企業なら支店を減らせば済むことだが地方公共団体はそうはいかないため、それを拒みたいステークホルダーたちが自己保身的な立場から人口減少危機論を支持しているのではないかというのが氏の見解です。

 さらに、氏は、人口減少危機論を煽るのは「彼らだけではない」とこの記事において指摘しています。

 いわゆる学者やコメンテーターといった人たちにも、こういった風潮を煽る人は多い。ちょっと前まで「デフレは人口減少が理由だ」と煽る本が売れていたが、(デフレに限らず)何でも人口減少が原因と言っておけば済み、誰も傷つかないので方便として使われているのではないかということです。

 人口減少は実際に起こっていることだから、それと因果関係はなくとも、同時進行している社会の諸問題と関連付けて説明されると一般の人は簡単に騙されてしまうと高橋氏はこの記事で述べています。

 人口減少危機論とはつまり、そうした危機感を煽ることが好都合な人たちによってまつり上げられたもの。これまで経験したことのない現実に便乗した「根拠のない通説」だと主張する記事の指摘を、私も改めて興味深く読みました。




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