MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1323 政治家の多選を考える

2019年03月14日 | 国際・政治


 世界の主要国の首脳の世代交代が進む中、4期14年間にわたりドイツの国家元首を務めているメルケル首相が今任期限りで政界を引退する意向を示したことで、(このままいけば)主要国首脳会議(G7)の顔ぶれの中でどうやら日本の安倍首相が最も古株のリーダーとなりそうです。

 もっとも、周囲を見渡せば21世紀初頭から大国ロシアを率いているプーチン大統領や、2期10年とされていた任期制限を撤廃した中国の習近平国家主席など、(社会制度の異なる国々の中には)ある意味「独裁」ともいえる長期の政治体制を築いている政権も見受けられます。

 しかし、多くの自由主義主要国の間では、権力の腐敗や極端な集中を避ける意味からも、政権には(一定の)時間的な制限を置くことがもはや当たり前のことと考えられていると言ってもいいでしょう。

 一方、日本においては、現在でも総理大臣という職自体に任期の制限はありません。(それを補う意味もあって)自民党の総裁任期は連続2期6年までとされていましたが、長期政権を目指す安倍総裁のもと、2017年3月に連続3期9年まで延長されました。

 これにより、日本の首相は実質的に連続9年を超えてその座に留まることはできないこととなりましたが、この経緯を見て、首相の任期制限が割と簡単に伸ばせることに驚いた国民も多かったかもしれません。

 また、総理大臣ばかりでなく、地方自治体の中にも「多選禁止条例」を定め、(あくまで努力規定としてですが)首長の任期を制限しているところも散見されます。しかし、条例で首長や地方議員の任期を制限することには「憲法上の疑義」があるというのが総務省の見解であり、法制度上は認められていないのが現状です。

 さて、大統領の任期を2期8年までと定めている米国をはじめ大統領制を採る国々のほとんどが、大統領が権力を持ちすぎないよう憲法などの基本法で多選禁止を課しています。

 さらに米国の36州の州知事と15州の州議会議員では、州法によりそれぞれ任期に関する制限を設けているということです。

 しかし、どんなに有能でどんなに信頼されている政治家であっても、その職に長く就いているという理由だけでその被選挙権を奪ってしまうというのは、(民主主義の立場から考えると)なんとも乱暴で、かつ合理的でもないような気がします。

 果たして、民主主義国家や地方政府において、政権の担い手となる首長や議員の多選は制限した方がよいのか(若しくは)その必要はないのか。

 そうした疑問に関し、「週刊東洋経済」では1月19日号の誌面に、早稲田大学政治経済学術院准教授の浅古泰史氏による「多選禁止は思わぬ弊害をもたらす」と題する興味深い論考を掲載しています。

 浅古氏によれば、そもそも多選を否定する人々は、その理由として(1)多選した政治家は利益団体等との関係が強くなるため利益誘導政策を行う傾向が強いこと、(2)キャリアの長い政治家は自分自身の偉業を残すために(必要以上に)大きな事業を進めようとする傾向が強いこと、などを挙げているということです。

 多選を許せば「利権」にまみれ、「しがらみ」も増えて余計なことまでしなくてはならなくなる。反対に、多選を禁止して若くてクリーンな政治家を増やせば改革が進み、無駄な支出も減らすことができるのではないかという発想はイメージとして何となくわからないわけではありません。

 しかし、米国で多選禁止の効果に関するデータ分析を行ったところ、その結果は推進派の予想を大きく裏切るものだった。多選禁止制度の導入は、州政府などに「税率の上昇と財政支出の増大」をもたらしていることが判ったと浅古氏はこの論考で説明しています。

 多選禁止を制度化した米国の各州では、特に鉄道建設などの社会資本整備に対する支出が増加し、政府発行地方債の信用が低下する傾向がみられた。同じ議会制民主主義を採用している国であっても(同様に)、首相に対する多選禁止制を採用している国の方が(そうでない国よりも)財政支出が大きくなっているという研究結果もあるということです。

 さて、12年に一度回って来る今年「亥年」は選挙イヤーとされ、4月には統一地方選挙があるほか、5月の改元を挟んで7月には参議院議員選挙が予定され、10月の消費税増税に向け(一部には)衆参ダブル選挙を想定する向きもあると聞きます。

 国政から身近な地方議員の選挙まで数々の選択の機会があるわけですが、とうやら政治家も(単純に)長ければ悪い、若くてフレッシュならば良いというものでもないようです。




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