MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯1696 「GoToキャンペーン」の無理筋さ

2020年08月08日 | 社会・経済


 新型コロナで苦境に陥っている旅行業界を救うためとして、政府が国民一人当たり1万円以上の予算をかけて実施する「GoToトラベルキャンペーン」。

 夏休みから年末年始までの期間中旅行をすればその費用の半分近くを政府が面倒を見てくれるというのですから、安倍政権にとっては(ひとり一律10万円の特別定額給付金とならぶ)大盤振る舞いの目玉商品といえるでしょう。

 しかし、大都市圏を中心に新型コロナウイルスの感染者の拡大が続く中、(東京都民がその多少から外されたこともあり)国民の評判はいまひとつ…というよりも、正直あまり芳しいものではないようです。

 朝日新聞が7月に実施した全国世論調査では、政府が「GoToトラベル」始めることに「反対」と答えた人は半数を大きく超える74%に及び、「賛成」は19%にとどまったとされています。開始時期や対象地域を決めるまでの安倍政権の一連の対応も「評価しない」が7割を超えたということです。

 また、民間の調査会社ブランド総合研究所が7月下旬に行った調査では、GoToトラベルを使って旅行に行きたいと答えた人は、10000人を超える回答者の18%に過ぎず、過半の51%が「旅行に行きたいとは思わない」と回答したと報じられています。

 また、旅行したいと回答した人でも、「既に予約している」人はわずかには3%、「具体的に検討している」人でも5%に過ぎないということですから、感染拡大への懸念が収まるまで旅行を控えようと考えている人がいかに多いかがうかがえます。

 さて、こうした状況を踏まえ、8月7日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」では、「GoToより直接支援を」と題する一文により当該キャンペーンの手法の無理筋さを改めて問うています。

 新型コロナが蔓延し、旅行や外食、イベントなどへの自粛が呼びかけられ消費が冷え込んでいることに対し、費用の大幅な割引を行い消費を喚起しようとしている政府の「GoToキャンペーン」。その財政負担は、(平時には考えられない)1.7兆円にも上ると筆者は指摘しています。

 感染が再び拡大しつつある現状で人の移動や密集を促せば、感染爆発の引き金にもなりかねない。そのため、感染が沈静化するまで開始を遅らせるべきだとの意見も広がったが、政府の対応は(直前になって)感染拡大が進む東京都を対象から外すことにしたり、若者や高齢者の団体旅行は控えるよう指示を出すなど、混乱を極めているということです。

 しかし、この政策の本当の問題点は、時期や限定条件などということころにはない。そもそもこの事業は、(建付けから言って)莫大な費用がかかるばかりで効果があまり期待できない、非常に効率の悪い政策だというのが筆者の認識です。

 消費の減少は消費者にお金がないから起こったのではない。本来使いたいのに、自粛圧力や不安で消費が強制的に抑えられているだけだとコラムは記しています。

 不安が無くなりさえすれば、わざわざお金を渡したり割引したりしなくても、これまでたまった欲求不満の反動で需要はすぐに戻ってくる。(逆に言えば)自粛圧力や不安が残ったままでは、いくら料金を割り引いても旅行者が本格的に増えるとは思えないというのがこのコラムの指摘するところです。

 そのうえ、感染対策は当事者任せであるから、無理に移動を促せば地方の感染拡大リスクは(嫌が応にも)高まることになる。結局、これらの業種の消費不足に対処するには、原因を軽減するしかないということです。

 一方、少なくとも目下のところ、困っているのは消費者ではなく当該産業の従事者だと筆者は言います。なのであれば、その解決には消費者への補助ではなく、事業者への所得補償が効果的なのは言うまでもない。

 あえて業務改題を通じた所得の回復を目指すなら、消費者への金銭的便益ではなく、政府が予算を直接投じて旅館やイベント会場の徹底的な感染対策をすべきで、1.7兆円も使うつもりなら十分おつりも来ようと筆者は指摘しています。

 原因となっている感染への不安は拡大させながら、お金に困っている当事者には渡さず、なぜお金に困っていない消費者に回すのか。消費者は旅行回数を増やさずに1回の支出を減らし、余った分を貯金に回すこともできるということです、

 10万円の一律給付と同様、国民には受け入れられるかもしれないが、このやり方では経済対策にはならない。それどころか、(こうした無理筋な政策は)無駄に財政危機を深刻化させるだけだというのが筆者の見解です。

 さて、(この1年余り)安倍政権が打ち出す官邸主導の政策には、(例えばコロナ対策で言えば「学校の一斉休業」といい「アベノマスク」といい)どうにも「個人の思い付き」としが思えないような、思慮に欠けるものが多い気がするのは私だけでしょうか。

 後先や効率を考えず国民におもねる(官邸を動かす人々の)発想の端々に、ある意味(「所詮、国民はモノをもらってなんぼ」といった)国民を馬鹿にした視点が感じられると、今回のGoToキャンペーンの経緯から私も改めて感じているところです。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿