連載小説『ぽとぽとはらはら』24

ぽとぽとはらはら 24
伊神 権太

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24


(新型コロナウイルスのまん延は、御歳神の天照大御神・日本武命にとっても初の大事件かもしれない=江南市古知野神社内、御祭神御由緒の碑 撮影・たかのぶ)

 

 見えない敵・新型コロナウイルスが突如、この世界の一角に出現して以降というもの、世の中、いや社会全ての様変わりときたら、尋常でない。昨秋の段階では想像すらできなかった悲劇が現実のものとなって迫り、今の世はまるで明かりが次々と消えていくようで満たちの人間社会を暗く、かつ苦しく、痛めつけてくるのである。
 日常生活に彩りを与えてくれ、結構楽しく大切なコーラスや俳句、絵画など各講座はじめ、フォークダンス・社交ダンス・合唱の練習など市民にとって何よりの生きがいの場にもなっていた公民館での社会教育活動そのものも多くの施設で突然、人びとの首でも切るごとく休講となった。そればかりか、海外主要都市を結ぶ空の便は相次いで飛ばなくなり国際線の大半がシャットダウン、空港では飛行機が駐機したままだ。羽田にせよ中部国際空港(セントレア)にせよ本来、空の玄関として賑わうはずが閑古鳥が鳴くありさまである。
 それどころか、お祭りや入学式、入社式といった類の春の決まりごとの多くが次々に中止となり、これまでの日常生活が変わってしまい、それこそ、社会そのものが壊れかけのレイディオ―そのものになってしまった。いや、もはや壊れている。ほかにも催し、イベント、会合の類は大半が中止、中止、中止の連続で、よくても延期だ。以前なら平凡だった、人々の日常生活が見えない手で完全に奪い取られてしまった。そんな気がするのだ。

 


(春ならでは。ことしも桜たちは美しい花々を咲かせた 撮影・たかのぶ)

 

 そして。満が梢と住む、木曽川河畔のこの町・江南とてこの先、どうなってしまうのか。それは誰にも分からない。今や、町をさすらい歩きながら【かつては賑々しく華やかだったあのころに比べれば、町の風情そのものがなくなってしまった】なぞと感慨にふける場合でもあるまい。いや、このままだと町そのものがひとつ、また一つと崩壊し、消えていってしまうことだってありうる。満たち人間は、「こわいな」と思い、ただ家族はじめ友人、知人の無事安泰を願うばかりだ。
 デ、真剣に思う。町そのものが消えてしまうかもしれない。人それぞれに若かった日々を思い起こさせるふるさと・江南。この町が現に存在するというのに、である。だが、現実はそんなわが町も今やコロナウイルスに四方を包囲されているようで満たち人間はもはや逃げ場を失った籠の鳥同然なのかもしれない。実際、いまの世界の現状を見るとき、この町のありとあらゆるものが消え入ってしまったとしても何ら不思議でない…。満はそう思って、かつて栄えたこの町の愛栄通り、新町商店街の順になおも歩く。世も末、とはこのことか。
 と、突然スマホがブ―、ブーッ、ブ―と鳴り響き、ポッケに手を入れ取り出して画面を見ると、そこには「118人中、81人は感染経路不明 小池都知事『お一人お一人の行動が感染拡大を防止します』 国内で新たに225人が感染 岐阜で1人死亡」の文字が飛び込んできた。思わず、嘆息する満。この感情、心理は誰だって同じだろう。

 でも、負けてなるものか。俺は人間なのだ。満はじっと前方を見て半ば放心しながらも歯を食いしばって歩き続ける。1歩、2歩、3歩と前に進みながら、かつて40年近くに及んだ記者生活の後、〝新しい春〟を夢見てこの町で老体にむち打ち、再び住み始め生まれてこのかた幾多の艱難辛苦を乗り越えここまで辿り着いた自身への思いを新たにしたのだった。
 実際、満は定年退職後にここに来て高校時代のクラスメートだった〝和尚〟らと再会し、クラス会・二石会の級友にも会え、この町に来てから随分とおせわになった梢の店「れもん」の多くのお客さんたち、ほかに社交ダンスの仲間たちとも知り合えたのである。そして。それよりも何よりも満はこれまでの人生経験も踏まえ、このところは、かつて母校でロケが行われた青春歌謡〈高校三年生〉そのものの【夢ひろば】をいつの日か、この町で実現させねばといった熱い思いがますます高まり、胸のなかでパチパチと火音となって弾けて高まってくるのを感じていたのである。

 

 あゝ、それなのにだ。
 そんな折も折、新型コロナウイルスなる見えない敵が突然の妨害者となって人類を襲いきた。目の前が真っ暗になったのは令和2年に入り、まもなくだった。満らは意表をつかれた形でうろたえるばかりで、スッカリ定着してきたはずの社交ダンスのレッスンも中止となったのである。
 それでも、4月に入った最初の土曜日。社交ダンスのレッスンは再開された。満は踊りながら瀧文庫の再生に情熱を燃やす最近知り合ったばかりの菊美らに教えられた母校の遺産・瀧文庫で【夢ひろば】が実現したなら―と改めて胸を弾ませるのだった。そうだ。瀧文庫にみんなで集まって、高校3年生を歌い、それぞれの夢を語り合うのはどうか。会場は来るもの拒まずとし、舟木一夫さんの〝追っかけさん〟にも来てもらったらいい。
 コロナショックは、きっと、この世から消える。消さなければ。

 


(一刻も早い新型コロナウイルスの撲滅が望まれる 古知野平和神社の「平和」は何も戦争ばかりではない 撮影・たかのぶ)

 

【25へ続く(不定期で連載していきます)】

著者・伊神権太さん経歴
元新聞記者。現在は日本ペンクラブ、日本文藝家協会会員。
脱原発社会をめざす文学者の会会員など。ウエブ文学同人誌「熱砂」主宰。
主な著作は「泣かんとこ 風記者ごん!」「一宮銀ながし」「懺悔の滴」
「マンサニージョの恋」「町の扉 一匹記者現場を生きる」
ピース・イズ・ラブ 君がいるから」など。

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