なかなかまとめきれずに日にちが経ってしまいました。申し訳ありません。

Ⅳ.代理権濫用規定の新設-無権代理へ
ⅰ)代理権濫用と新設規定
 代理人の権限濫用というのは、代理人が持つ代理権の範囲内の行為でありながら、本に人のためではなく自己または第三者のために代理人が代理権を行使した場合に、本人はその効果帰属を否定できるかという問題です。すなわち、
A 本人


| 代理権の範囲内  相手方
B ―――――――― C
代理人  権限濫用

 前回も書いたように代理とは、

他人(代理人)がしたことを自分(本人)自身がしたのと同じに扱うこと

であり、代理人が代理権の範囲内で相手方とした行為の効果は本人に及ぶはずです。しかし、代理人は本人の利益ためではなく自己または第三者の利益のために行為をしているのですから、本人に効果を帰属させると本人にとって不利益になる場合や本人が効果帰属を望まない場合、どういう根拠で本人への効果帰属を否定するかということになります。これについて改正法は無権代理だとする規定を創設しました。

(代理権の濫用)
107条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす

 相手方が悪意又は善意でも過失がある場合(「その目的を知り、又は知ることができたとき」)は、無権代理(「代理権を有しない者がした行為」)と「みなす」ことにしたのです。

 試験用には条文を頭に入れれば足りるものですが、例によって以下に説明を書きます。

ⅱ)従来の判例と学説
 代理人の権限濫用については従来3つの考え方があったと思います。

α.無権代理説-恐らく多数説
 濫用となる範囲で代理権は存在しないため無権代理になる。

批判:
・善意の第三者を害する  →無権代理は無効(本人に効果帰属しない)ので相手方から取得した第三者は権利を取得できない
・濫用は代理人の主観の問題であり、客観的な代理権の範囲の行為を無効とするのは論理的に無理

β.権利濫用又は信義則違反説
 権限濫用は代理権の範囲内なので有効(本人に効果帰属する)だが、悪意者がこれによって取得した権利を主張するのは権利の濫用又は信義則違反である。
→ 善意の第三者は保護される。

γ.93条ただし書類推適用説-判例
 93条ただし書を類推適用して代理行為の効力を否認する。
→ 相手方が知り又は知ることができた場合に本人は無効(効果帰属を否定)できる。一応、改正前の93条を入れます。

改正前民法
(心裡留保)
93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする

 権限濫用の事例というのは特に「代表」で問題になるため、最高裁判例も会社の代表取締役の事例でした。恐らく最初と思われる最高裁判例(最判昭38.9.5)の裁判要旨を入れます。

裁判要旨
 株式会社の代表取締役が自己の利益のため会社の代表者名義でなした法律行為は、相手方が右代表取締役の真意を知り、または、知りうべきものであつたときは、その効力を生じない

 民法関連だと親子の利益相反に関する最高裁判例(平成元.12.10)があります。これも裁判要旨だけ。

裁判要旨
1 親権者が子を代理する権限を濫用して法律行為をした場合において、その行為の相手方が権限濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは、民法九三条ただし書の規定の類推適用により、その行為の効果は子には及ばない
2 親権者が子を代理してその所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、代理権の濫用には当たらない。

 このように判例は代理人(代表者)の権限濫用を93条ただし書の類推適用によって妥当な結論を出そうとしていました。
 これに対して今回の改正でα.の無権代理説で条文化したことになります。

ⅲ)代理人の権限濫用の場合の効果
 無権代理と「みなす」ことになったので、無権代理の規定が適用されることになります。具体的にいくつか入れます。

ア.追認の余地
 本人による追認の余地が生まれました。

民法
(無権代理)
113条 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2項 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

 判例の93条ただし書の類推適用では本人が効果帰属を望まない場合に主張するのであって、それがなければ本人に効果が帰属するのが原則でした。

イ.無権代理人への責任追及が容易
 93条ただし書の類推適用の場合、本人への効果帰属を否定された相手方は代理人に対して不法行為(709条)によって損害賠償を請求する余地がありましたが、今回の改正で代理人への請求が明確になりました。

民法
(無権代理人の責任)
117条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う
2項 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
1号 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
2号 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
3号 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

ⅳ)第三者保護の問題
 93条ただし書の類推適用の場合は94条2項類推によって第三者を保護する余地があると言われていました。無権代理にはなったものの第三者保護に関する規定は設けられていませんので、考え方としては、

・94条2項類推
・表見代理 がある得る

と拙ブログは考えます。しかし、新しい最高裁判決が出るまではどうなるか分からないと言うのが現時点なのだと思います。

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