正直言うと絶賛ネタ切れ中なので今日もpixivからの移植です。まあ更新せんよりはええやろ。

ガルパンの安藤さんと押田さんが食堂でご飯を食べるお話です。

 



 大洗女子との試合から幾日後、我がBC自由学園にも日常が戻ってきた。
 私たちエスカレーター組は試合で勝つために一時的には受験組と和解してやった。
 しかし外部生の奴らときたらいまだに私たちにちょくちょく突っかかってくる。
 その結果、学園の各所でいまだに小競り合いが起きている。
 まったく、あんな下品なやつらがこの学園になぜいるのか理解しがたい。
 私はため息をつきながらも、昼食をとるべく学食にやってきた。
 こんな日は好物のフォアグラを食べるに限る。
 意気揚々と注文し、フォアグラを載せたトレーを受け取った。
 それにしても今日はやけに学食が混んでいるな。空いている席がなかなか見つからない。
 まったく……だから学食はエスカレーター組と受験組でわけるべきだと前から言っているんだ。受験組は騒がしいうえに、食事が終わってもなかなか席を立とうとしない。人の迷惑を考えない奴らだ。
 とはいえ文句を言っていても仕方がない。
 あたりを見回すと運良くひとつだけ空いた席を見つけることができた。
 よし、あそこにしよう。
 他のものに取られないよう私は足早にその席に近づき、トレーを置いた。
 
 「げっ」
 
 すると向かいの席から嫌そうな声が聞こえてくる。
 この声はまさか……
 
 「……やあ、押田くん」
 
 案の定、受験組の筆頭、安藤だった。
 私は思わずトレーを置いた姿勢で硬直してしまった。
 彼女は特有のジトッした目でこちらを見ている。
 なんで君がそこに座るんだと言わんばかりの不満顔だ。
 ふんっ! そんな顔をするな。
 私だって君なんかと共に食事をしたくはない。
 好きでこの席に来たわけではないのだ。
 しかしどうする? 席を移るか?
 しかし、空いてる席はここだけだ。
 ……まあいい。
 マリー様やメグミさんにもエスカレーター組と受験組で仲良く協力するようにと言われている。
 仲良くは無理だが、ここらで共に食事をとることでお互い理解を深めるのもいいだろう。
 数瞬でそう判断した私は席に座ることにした。
 安藤くん。向かいの席、お邪魔しても構わないかな?
 
 「……どうぞ」
 
 安藤は相変わらず嫌そうな顔を崩さなかったが、こちらが敵意を見せないことがわかると渋々と頷いた。
 よしよし、どうやら向こうも拒絶するつもりはないらしい。
 返事まで若干の間があったが、心の広い私だ、許してやろう。
 
 よくみると安藤はこの学校の学食では見慣れないものを食べていた。
 安藤、それはなんだ? なにを食べている?
 
 「なにって、見ての通りコロッケ定食だが……?」
 
 ころっけていしょく?
 なんだそれは、そんなメニューうちの学食にあったか?
 私が首を傾げると、安藤はご飯を口に含んでモグモグしながら、ちょいちょいと学食のカウンターの横にあるお知らせ板の方を指さした。
 そこには『受験組の皆さんのご要望にお答えして庶民的なメニューが新登場!』などと言う文書と一緒に、唐揚げ定食だのうどんセットだの、そして今安藤が食べているコロッケ定食だのと、おおよそこれまでのうちの学食にはそぐわないメニュー一覧が並んでいた。
 
 なんということだ……この学校はとうとう受験組の毒牙に侵されようとしている……
 よもや高貴なこの学食にそんな下劣な食べ物が並ぶ日がくるとは……
 ショックのあまり私がそう漏らすと、安藤は聞き捨てならないとばかりに目の端を釣り上げる。
 
 「なぜ唐揚げやうどんやコロッケが下劣なんだ。そもそも学食にフォアグラだのエスカルゴしかないほうがおかしいだろう」
 
 なにをー!?
 まったくこれだから外部生は!
 フォアグラも食べたことないのか!
 
 「そういうことを言ってるんじゃない! 私だってフォアグラぐらい食べたことがある!」
 
 ふん、どうだか。
 だったらそんな庶民的なメニューをわざわざ頼む意味がわからないな。
 
 「私たちの口にはこっちの方があってるんだ! そっちこそコロッケ食べたことあるのか!?」
 
 あるわけがないだろう!
 この私がそんなものを口にするか!
 
 「嘘だろう……ホントに日本人か?」
 
 信じられないという顔で首を振る安藤。
 すると彼女はおもむろに自分の皿にのったコロッケを箸で切り分け始めた。
 そしてその一片を箸で摘むとこちらに向けてくる。
 な、なんだ? なんのつもりだ!?
 
 「食べてみろ。うまいから」
 
 はあっ!?
 さっきも言ったろう、私はそんなもの口にしない!
 
 「いいから食べろ。食わず嫌いはよくないぞ」
 
 いや、好きとか嫌いとかそういうのではなく……
 そ、そもそもなぜ君に食べさせてもらわなくてはならないのだ!
 その箸だって君が今使っていたものだろう!
 それで私が食べたら……カ、カカッカカンカンカンカンカンセッ……ごにょごにょ……になってしまうだろうが!
 
 慌てる私をよそに、安藤はなぜ早く食わないとばかりにコロッケを箸をこちらに向けたまま首を傾げている。
 
 なんだろう……
 私がおかしいのか……
 受験組の間では自分の箸で相手に食べさせることは普通のことなのか……
 まったくなんてマナーのなってない奴らなんだ……これだから外部生は……
 
 しかし向こうがなんとも思っていないことを私だけが意識していると思われるのも腹ただしい。
 それに、くれると言っているのを無下にするのもよくはないしな。
 しかたない。
 しかたないからこの私が食べてやろう。
 しかたなくだからな!
 
 「はやくしろ」
 
 わかっている!
 ええーい! ままよっ!
 
 安藤がくれたコロッケは、揚げたてだったのか、衣がサクサクとしていて中のジャガイモもホクホクと暖かかった。
 味付けの胡椒の具合も程よく味が濃すぎるということもなく……つまり……
 
 「どぉだ。うまかっただろう?」
 
 そういって勝ち誇ったような顔をする安藤。
 その顔は腹ただしいが認めざるをえない。
 私は渋々頷く。
 
 「もうやらんがな」
 
 誰ももっとくれなどと言ってないだろう!
 卑しい君たちと一緒にするな!
 
 「ほら、そっちもよこせ」
 
 そう言って安藤はちょいちょいと指を自分の方向に折り曲げる。
 なんだ?
 
 「君のオカズもよこせと言ってるんだ」
 
 な、なんだと!?
 なぜ私が君に施さねばならんのだ。
 
 「私のをやったんだからくれたっていいだろう。ケチめ」
 
 ケチだと!?
 聞き捨てならないな。
 ふんっ、いいだろう。
 私のフォアグラを食らってあまりの美味さに腰を抜かすがいい。
 
 ん? まてよ?
 いったいどうやって私のフォアグラを彼女にわたせばいいんだ?
 皿ごとか?
 いやしかし卑しい外部生の彼女だ。ぜんぶ食べられてしまうかもしれない。
 と、ということは、先程の安藤と同じく私の箸で彼女に……
 いやいやそんな恥ずかし……もとい下品な真似はできん。
 
 「どうした。はやくしろ」
 
 イライラとした様子でテーブルを指で叩く安藤。
 わかっている!
 おとなしく待ってろ!
 ええい、ここでもたついてはまたも私が先程の行為を意識してるようではないか。
 ここは私もやるしかない。
 私は自らのフォークでフォアグラを刺すと、彼女に差し出す。
 
 「なぜ手が震えているんだ」
 
 やかましい!
 黙って早く食べろ!
 彼女は訝しみながらも、口を開き、フォアグラを食べた。
 あ、安藤の唇が私のフォークに……
 ひとしきり咀嚼して飲み込んだ彼女はポツリと言う。

 「久々に食べたが、変な味だな」
 
 なんだと!?
 ふんっ! やはり外部生の下品な舌ではこの高貴な味は理解できなかったようだな!
 
 「なにを!? 君だって先程コロッケを美味いと言ったではないか! 似たような舌だろうが!」
 
 一緒にするな!
 私は懐が深いから庶民の味も理解できるというだけだ!
 
 「ふんっ、本当は君も変な味だなと考えながら食べてるんじゃないのか! エスカレーター組は見栄っ張りだからな!」
 
 そんなことはない!
 私は本当にこの味を楽しんでいる!
 嘘つきな外部生とはちがう!
 
 やいのやいのとひとしきり言い争いをした後、彼女は席を立つ。
 よくみると彼女はもうほとんど食べ終わっていたらしい。
 外部生らしい早食いだな。
 食事とはゆっくりと楽しむものなのだぞ。
 
 「エスカレーター組が一緒では満足に食事もできん。君はせいぜいガチョウの肝臓をひとりでゆっくりと楽しむがいい」
 
 そう言い捨てて背を向ける安藤。
 ああ、そうさせてもらおう。
 そう言い返して、さて食べるかとナイフとフォークを構えると、そのフォークが目に付いた。
 ……そういえばこのフォークで先程彼女に食べさせたのだったな。
 肩をいからせて去っていく安藤の後ろ姿とフォークを交互に見比べる。
 い、いや、別に変な意味はないぞ?
 ただ、人が使った食器を使うのはマナー的にどうかと思っただけで。
 交換してもらうか?
 
 ……
 
 いやしかし、無闇に洗い物を増やすのはよくない。
 私は使用人想いだからな。
 このフォークで我慢して食べてやろう。
 そうさ、安藤だって私に食べさせた箸で食べていた。
 意識することはないんだ。
 決して、意識など……
 
 
 ~
 
 
 後日。
 今日の昼食はエスカルゴにした。
 これも私の好物だ。
 足取りも自然と軽くなる。
 それにしても今日も学食は混んでいる。
 空いている席は……あった。
 ひとつだけ見つけた。
 しかしその向かいの席にはまたも安藤が座っている。
 この間も言い争いになったことだし、今日は敬遠しておくか……
 
 ……
 
 いやしかし、他に空いている席はない。
 それによくみると、安藤は性懲りも無くまたもよくわからん庶民の食べ物を食べているようだしな。
 私が食べて、変なものではないか確認してやるべきだ。
 それに今度はこのエスカルゴを食べさせ、今度こそ美味いと言わせてやろう。
 本当に美味いものの味を教えてやらんとな。
 べつにあいつと仲良くしようなどとはこれっぽっちも考えてはいない。
 ただ、外部生の彼女とも少しは理解し合っておこうというだけなのだ。
 そうさ、特別な意識など、決してありはしない。
……
? なんだその顔は!?
 ないったらない!
 ないと言ってるだろ!?