【浩介視点】
慶のお父さんが大腸癌の手術をした……らしい。
慶のお父さんが大腸癌の手術をした……らしい。
らしい、というのは、おれの知らない間に検査で発覚していて、手術も無事に終わっていて、もう退院してきた、ということを、おれの誕生日祝をしてくれた席で聞いて知ったからだ。
お父さんが癌になったということも、とてもショックだけれども、
(やっぱり本当の息子じゃないから教えてもらえなかったんだ。慶もおれに黙ってたんだ……)
と、図々しいながらも、そんなことも思って、ショックを受けた。
けれども。
慶も知らなかった、というから、驚いた。
「何で教えてくれなかったのかな」
マンションに帰ってきて、二人並んでソファに座ったところで、慶に言ってみると、慶は軽く肩をすくめて、
「面倒くさいからじゃね?」
「面倒って……」
なんだそれ。
「でも慶なんてお医者さんなんだから、色々話を……」
「専門じゃねえから、通り一遍のことしか知らねーよ」
「でも……って、」
なおも言い募ろうとしたら、ゴンとおでこを拳骨で押されて止められてしまった。慶が呆れたように言ってくる。
「そうやって心配されんのが面倒だから、終わってからの報告でいいって判断だったんだろ」
「…………」
「なんだその口」
「んん」
思わず口を尖らせていたら、きゅっと口を摘ままれた。
「だって……」
「もう歳なんだから、あちこちガタがくるのは当然なんだよ。むしろ今まで何もなかったのが奇跡。うちの父親、渋谷家の男にしては長生きなんだよな」
「は!?」
慶のセリフに叫んでしまった。
「お父さんまだ78だよ!?」
何言ってんの!?と、いうと、慶は「いやいや」と手を振った。
「じいちゃんも伯父さん達も、みんな70前後だったからさ。父さんも覚悟はできてるだろ」
「そんな覚悟しないでよっ」
慶が普通のことのように言うので、グラグラしてしまう。
「そんな……」
おれは両親とも長寿家系、なんだと思う。父方の祖父は事故で亡くなってるから除外として、最期の数年をうちで過ごした父方の祖母は、百歳近かった。今、父は86だけど相変わらず矍鑠としているし、父の兄姉も、そして母の兄姉も、みんな存命で、しかも元気だ………
「慶……そんな話、初めてきいたよ……」
「そうだっけ?」
「うん……」
同年代のいとこが女の子しかいない、とか、お正月に京都のおばあちゃんのうちに行った、とかは、学生の頃に聞いた記憶はあるけれど、それ以外、親戚の話なんてほとんどしたことがない。数回、誰かのお葬式に行くとか聞いたくらいで……
おれは親戚といえば、嫌な印象しかない。親戚と会った後は必ず母の機嫌が恐ろしく悪くなるので、なるべく関わりたくない、としか思えない存在だった。
おれは親戚といえば、嫌な印象しかない。親戚と会った後は必ず母の機嫌が恐ろしく悪くなるので、なるべく関わりたくない、としか思えない存在だった。
(だからかな……)
おれが親戚の話を避けていた、のかもしれない。
おれが親戚の話を避けていた、のかもしれない。
あらためて、考えてみる。
例えば本当に、渋谷家の寿命が70で、桜井家が90だったとしたら……
例えば本当に、渋谷家の寿命が70で、桜井家が90だったとしたら……
(20年……)
血の気が引いてしまう。
慶がいない世界で、おれはそんなにも長い時間を生きなくてはならないのか……?
「慶……どうしよう」
「あ?」
テレビのリモコンに手を伸ばしていた慶が、その姿勢のまま振り返った。
「何がどうしよう?」
「桜井家は長寿家系なんだよ」
「おーそりゃいいな」
お父さんも元気だもんなーと慶が呑気に言うので、たまらなくなって、後ろからだきしめた。
「だから、どうした?」
「どうした、じゃないよ」
その柔らかい髪に顔を埋める。優しい感触。昔から変わらない……
「慶がいなくなったらおれ、生きていく自信ない」
「何言ってんだよ」
ぽんぽんと抱きしめている腕を叩かれた。
「お前は大丈夫だよ。お父さんだってあんなに元気に老後を過ごしてるんだから、お前も元気に」
「過ごせないよ! 慶がいない世界なんて……」
そんなの……そんなの……
耐えられない。耐えられるわけがない。
慶がいない世界……
「慶……どうしよう」
「あ?」
テレビのリモコンに手を伸ばしていた慶が、その姿勢のまま振り返った。
「何がどうしよう?」
「桜井家は長寿家系なんだよ」
「おーそりゃいいな」
お父さんも元気だもんなーと慶が呑気に言うので、たまらなくなって、後ろからだきしめた。
「だから、どうした?」
「どうした、じゃないよ」
その柔らかい髪に顔を埋める。優しい感触。昔から変わらない……
「慶がいなくなったらおれ、生きていく自信ない」
「何言ってんだよ」
ぽんぽんと抱きしめている腕を叩かれた。
「お前は大丈夫だよ。お父さんだってあんなに元気に老後を過ごしてるんだから、お前も元気に」
「過ごせないよ! 慶がいない世界なんて……」
そんなの……そんなの……
耐えられない。耐えられるわけがない。
慶がいない世界……
また、ブラウン管の中に閉じ込められる。また、死ねないから生きているだけの世界がはじまる。
そんなことになるなら、いっそ、慶が旅立った時に……
してはいけない想像をしてしまった、その時。
「だから大丈夫だって」
振り返った慶が、いたずらそうに、笑った。
「おれ、いなくならないから」
「でも」
渋谷家は短命って……
いいかけたけれど、また口を摘ままれた。そして。
「おれ、成仏しねーから」
湖みたいな瞳をキラキラさせながら、慶がいった。
「お前がこの世にいる間は、絶対成仏しねえで、お前のそばにいるから」
「え」
「だから安心しろ」
そんなことになるなら、いっそ、慶が旅立った時に……
してはいけない想像をしてしまった、その時。
「だから大丈夫だって」
振り返った慶が、いたずらそうに、笑った。
「おれ、いなくならないから」
「でも」
渋谷家は短命って……
いいかけたけれど、また口を摘ままれた。そして。
「おれ、成仏しねーから」
湖みたいな瞳をキラキラさせながら、慶がいった。
「お前がこの世にいる間は、絶対成仏しねえで、お前のそばにいるから」
「え」
「だから安心しろ」
………。
………。
………。
え?
「成仏?」
「おお。絶対しねーぞ。おれは絶対負けねえ。ずっとお前のそばにい続ける」
「………」
「だから安心しろ」
「………」
「………」
「………」
ドッと、体の力が抜けてしまった。慶の肩口に頭をのせる。
「慶……」
「なんだ」
ゆっくり頭を撫でてくれる優しい手……
(ああ、本当に……)
敵わないな……と思う。
(慶ならやりかねない……)
想像すると、ちょっと可笑しい。
「慶……ずっとずっと一緒にいてね」
「おお」
「ずっとずっとだよ?」
「おお。まかせとけ」
慶。慶。愛しい愛しい慶……
「あ、何かテレビ見ようとしてた?」
「ああ、ニュースと天気予報」
「うん。どうぞ。何か飲み物入れるけど、コーヒー?お茶?紅茶?」
体を離して立ち上がる。と、
「浩介」
「ん」
引き寄せられ、ちゅっとキスされて、体中に幸せが充満してくる。
「お茶がいいなー」
にこにこと言う慶の頭を軽くなでる。
「わかった。待ってて」
お揃いの湯飲み。
「おお。絶対しねーぞ。おれは絶対負けねえ。ずっとお前のそばにい続ける」
「………」
「だから安心しろ」
「………」
「………」
「………」
ドッと、体の力が抜けてしまった。慶の肩口に頭をのせる。
「慶……」
「なんだ」
ゆっくり頭を撫でてくれる優しい手……
(ああ、本当に……)
敵わないな……と思う。
(慶ならやりかねない……)
想像すると、ちょっと可笑しい。
「慶……ずっとずっと一緒にいてね」
「おお」
「ずっとずっとだよ?」
「おお。まかせとけ」
慶。慶。愛しい愛しい慶……
「あ、何かテレビ見ようとしてた?」
「ああ、ニュースと天気予報」
「うん。どうぞ。何か飲み物入れるけど、コーヒー?お茶?紅茶?」
体を離して立ち上がる。と、
「浩介」
「ん」
引き寄せられ、ちゅっとキスされて、体中に幸せが充満してくる。
「お茶がいいなー」
にこにこと言う慶の頭を軽くなでる。
「わかった。待ってて」
お揃いの湯飲み。
聞こえてくるテレビの音。
「明日も暑くなるってさ」
「えー嫌だねえ」
たわいない会話。
ずっと続く幸せな日々。永遠に、永遠に続く幸せ。
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ずっと続く幸せな日々。永遠に、永遠に続く幸せ。
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お読みくださりありがとうございました。
これを持ちまして、長期休載に入らせていただきます。
この「風のゆくえには」シリーズの最終回は頭の中では書きあがっています。
が、2041年12月23日のお話なので、あと22年経たないと書けません^^;
私がまだ高校生の時に、「~翼を広げて」という29歳からの3年間のお話をノートに書いて、あとからエライ苦労したので(書いた当初は携帯電話なんてなかったけど、29歳の時に携帯ないわけないから、辻褄合わせが大変だった。あと天気も)、未来の話は二度と書かない、と決意しているのです。
きっと、2041年も今とは違う色々なことがあるはず。だから、2041年12月が来るまで、最終回は書けません。
このブログが22年後まで残っているかどうかは分かりませんが……もし残っていたら、最終回を書きたいと思っています。
が、2041年12月23日のお話なので、あと22年経たないと書けません^^;
私がまだ高校生の時に、「~翼を広げて」という29歳からの3年間のお話をノートに書いて、あとからエライ苦労したので(書いた当初は携帯電話なんてなかったけど、29歳の時に携帯ないわけないから、辻褄合わせが大変だった。あと天気も)、未来の話は二度と書かない、と決意しているのです。
きっと、2041年も今とは違う色々なことがあるはず。だから、2041年12月が来るまで、最終回は書けません。
このブログが22年後まで残っているかどうかは分かりませんが……もし残っていたら、最終回を書きたいと思っています。
でも、その前に、生活が落ち着いたら、また書きたいなあーとは思ってます。それに、ちゃんと時系列順に読めるように、どこか良いサイトに写したいなあーとも思っていたりして……。
今までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。ランキングクリックもとっても励みになりました。本当にありがとうございました。
彼らは今もこれからもずっと幸せに暮らしています。
今の気持ちの伝え方が全然わかりません 泣
(悲しい+寂しい+残念)÷3みたいな感じでしょうか
それにしても22年は長過ぎます
恥ずかしながら私は生きているかどうかわからない年令です
せめて5年に一度
できたら3年に一度
わがままでいいなら年に一度
お会いしたいなあ
ダメですか?
プレッシャーになったり
ストレスになったりしたら困るので
やはり5年に一度でいいです
お願いします
お元気で
あんまりがんばらないで
ボチボチやって下さい
See you someday!
有り難うございました
火曜日と金曜日になるのが待ち遠しく楽しんでいました
尚様のブログは私のBLブログの初めての出会いでした
読みはじめて5年近くになります
もう高齢者の仲間になってしまってますので22年後は
少し厳しいかな?
でも、慶君と浩介君に会いに来ようとボケないように
がんばりますね
尚様もお身体にきおつけてお仕事頑張って下さい
でも頑張り過ぎないように
これからも毎日ブログを覗きにきますね
ありがとう😃ございました
お幸せに過ごせますように
本当に本当にありがとうございます。
今、電車の中で読ませていただいて、叫びだしそうになるのを口押さえてこらえております。
ブログ主の尚でごさいます。(スマホアプリからだと名前も題名も入力するところがないので、たぶん名前はIDででるのかも?です)
こんなお言葉をいただけるなんてこんな幸せなことがあるなんて。生きてて良かった書いてて良かった、と今、心の底から、もう、今、叫びたい……
終日外出のため、帰宅後、あらためてお返事書かせていただきます。本当に本当にありがとうございます。
取り急ぎお礼のみで失礼いたします。
本当に本当にありがとうございます!
うん 生きてる 大丈夫(笑)
いや、22年後と言わず、いつでも、ちょいちょい、短編を
お願いしまーす ♡
書くことが 一番のストレス発散! ですよね? 、
21日に 『清洲会議』 ありますよん (o・ω´・b)b グッ☆
で、で、
土曜夜の 水泳のレッスン
来てましたー
例の 男子2人組み♡
今日も仲良く 横並びで歩いてました ← 横並びはアカン!
プールは 右側通行がルールざます ( ー`дー´)キリッ!!
そんな風に言っていただき本当に本当にありがとうございます。
22年。長いですよね……過ぎてしまえば、というやつなのかもしれませんが……
なぜに22年後の12月23日なのかといいますと、慶と浩介、「付き合って50年記念」だからなのでした。
付き合って50年。思い出の川べりに行く二人……
そのころって川べりも変わってたりするんですかねえ。下りられなくなってたりするのかなあ……
嬉しいお言葉本当にありがとうございます。
5年に一度!
5年に一度といえば慶達のクラスの同窓会。
次は来年なんです。
オリンピックもあるし、妄想は膨らむばかりです。
5年に一度、とのお心遣いのお言葉、本当に本当にありがとうございます。
是非、是非、戻ってきたいと思っております。
aiさんとの出会いは忘れもしないインフルエンザの真っ最中……
GL小説にコメントをいただき、本気で幻覚かと思った……
あれから3年半。お付き合いくださり本当に本当にありがとうございました。
あんまりがんばらないでボチボチ。頑張ります。
挫けた時はいただいたコメント読み返します。
嬉しいコメントくださり本当にありがとうございました。
そうなんです。いよいよ今日までなのです……
なるようになるさぁ~で。そうですよね。ありがとうございます!なるようになるなる。
夫の症状は日々良かったり悪かったりで……「続々・2つの円の位置関係」の歌子さんもこんな感じだったのかなあと思ったりしております。
22年長いですよね💦すみません💦浩介(←アニバーサリー男)が50周年だというもので……💦
愚痴なんぞ書きなぐる!いいですね!!
そうなんですよね。絶対書いたらストレス発散になりますよね。
この際だからTwitterとかはじめたらいいのかしら…とか今さら思ったり……
きよ様には先日も、ブログ残しておいて、の有り難いお言葉をくださり本当にありがとうございます。
おかげでこのまま残す勇気をいただけました。
待っててくださるとの嬉しいお言葉も本当に本当にありがとうございます。
また是非、よろしくお願いいたします。
嬉しいコメント本当にありがとうございました。
ご、5年近くって!それは本当に本当にBLを投稿しはじめた初期も初期ではないでしょうか。
うわ……うわ、現実にそんな方がいてくださったなんて!夢のようです。
お付き合いくださって本当にありがとうございます。
すだち様には、4444日の時に、「1日でも長くブログを続けて下さいね」との有り難いお言葉をいただいていたのに、休業することになってしまい申し訳ないです……
あの時はまさか休業することになるなんて思いもしてませんでした……
本当に人生何が起こるか分からない…
今日はブログ開設から4784日だそうです。
すだち様から初めてコメントをいただいてから340日も経ってたんですね……
なんだかあっと言う間でした。
こうして読んでくださる方とお話しできて本当に幸せでした。
毎日覗きに来てくださるなんて、有り難いお言葉も本当にありがとうございます!!
そのお言葉を心の支えにして日々乗り切っていきます。
どうぞすだち様もお幸せに過ごせますように。
嬉しいコメント本当にありがとうございました。
何度読んでるいることかって!!!大切な小説って!!!
あ、ありがとうございますっ。有難すぎるお言葉にアワアワしております。本当にありがとうございます!
引っ越しする時には必ず!連絡させていただきます。ありがとうございますっ。
読み返すたびに、次に行くのが面倒くさいなあ……と思ってまして……
次の記事ーで送っても、時々読切挟んでたりするので、素直に行ってくれなかったりして……
何とかしたいと思い、目次をつけたのですが、うーん……
時間をみつけて、どこか読みやすいところに移すか、ホームページ作るとか?どうにかしたいと思っております。
本当に。人生いろいろ、ですね……
この5年、継続できたのが奇跡的に運が良かったということなのかもしれません。
でも、人生いろいろってことは、また良い方に転がるかもしれないですものね……
大切な小説、読み返してくださってるなんて、有り難いお言葉、本当に本当にありがとうございます。
90年代前半、ノートに書き書きするだけで、私の中にしかいなかった慶たちをこうして皆様に知っていただけることができて、どんなにどんなに嬉しいことか。
あの頃の私に教えてあげても絶対信じないことでしょう……本当にありがとうございます。
夢は叶うのだなあとしみじみ感動しております。
またお目にかかれるのを楽しみに、との有り難いお言葉もありがとうございます!
また是非、どうぞよろしくお願いいたします。
嬉しいコメント本当にありがとうございました!