創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには〜何千日の日常(ブログ開設5000日記念)

2020年04月17日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

2006年8月10日

↑このブログを開設した日にちです。
あっという間に明日で5000日です。
お付き合いくださいました皆々様、本当に本当にありがとうございます。

せっかくなので、5000日前の主役二人の話を書こうと思い、確認しましたら……

この日ちょうど、浩介が「発作を起こして嘔吐した」頃なのでした…

せっかくのブログ開設記念日だというのに、間が悪い浩介らしいというかなんというか!!

でも、せっかくなので、書きます。
「風のゆくえには〜翼を広げて」のネタバレになります。
   
2006年8月
場所はミャンマーのとある町
作中、翼を広げて・後日談4.1 あたりになります。



【浩介視点】

 気がつくと、医務室のベッドで寝ていた。ここまでどうやって来たのかまったく記憶がない。誰かに運ばれたのだろうか……

(あの時……)

 校門の前での子供達の見送りが終わって、校舎に戻ろうとした時。
 通りの先に、母に似ている人を見かけて……。でも、

(……違う)

 一瞬、ゾワッとしたものの、すぐに母ではない、と気がついた。気がついたのに……

(どうしよう)

 もし、万が一、母に見つかったらどうしよう、という考えに支配されてしまった。

 せっかくあと2ヶ月後には、慶と一緒に暮らせるのに、もし、万が一、見つかったら………

(いや、大丈夫)

 大丈夫。大丈夫だ。そのために、おれはまだケニアにいるっていう小細工までしたんだ。だから大丈夫。大丈夫。大丈夫……

(……っ)

 瞬間、一気に周りから空気が消えた。
 身体が圧縮されていくような感覚に陥って、胃が押されて吐きそうになって、苦しくて、苦しくて……

(慶……慶)

 ひたすらに、慶を、おれの光を、温かいぬくもりを思い出して、ただ、ひたすらに、慶の瞳を、慶の腕を……

 それで……

 記憶が定かではないけれど、おそらく嘔吐したのだろう。口の中が気持ち悪い。起き出して、置いてあったコップの水をもらう。少しすっきりする。

 コップの中で揺蕩う水に、慶の瞳が重なる。美しい湖みたいな瞳。

「慶……」

 声に出して呼んでみる。慶……

 ただそれだけで、空気が清涼になる。ただそれだけで、身体中に愛しさが溢れる。ただそれだけで…………

「『ケイ』って何?」
「!?」

 いきなりの背後からの声に飛び上がってしまった。
 振り返ると、金髪美女が小首を傾げて立っている。精神科医のイザベラだ。

「浩介、倒れた時にもずっと言ってたけど、それ、呪文か何か?」

 グレーの瞳が観察するようにこちらを見ている。

「……迷惑かけて申し訳ない」

 質問には答えず、頭を下げると、イザベラはちょっと笑って肩をすくめた。イザベラに親近感を覚えるのは、そういう表情が友人のあかねに似ているせいだろう。

「別に迷惑なんかじゃないけど……浩介の発作、聞いていた話より、重症なことが心配」
「……大丈夫だよ」

 それはたぶん、2ヶ月後から始まる慶との生活が楽しみ過ぎて、それが奪われることへの恐怖が倍増しているせいだろう…という自己分析はしている。

 でも、それも、慶が来てくれたら、大丈夫になる。

「あと2ヶ月したら落ち着くから、大丈夫」
「ふーん?」

 イザベラはまた肩をすくめると、

「それじゃ、あと2ヶ月、頑張って?」

と、軽く、なんでもないことのように言った。その適当さが有り難い。そんなところもあかねに似てる。

 明日はちょうど、夏休み中のあかねがこちらに遊びに来ることになっている。イザベラとあかねは気が合いそうなので、引き合わせるのが楽しみだ。

 慶とイザベラを会わせることも楽しみだ。きっとイザベラは、慶のあまりもの美しさにビックリするに違いない。他の職員達もおれの生徒達も、すぐに慶のことを好きになるだろう。

 そんなことを思えることが、少しくすぐったい。友人も作れず学校生活もまともに送れず、母に叱られ続け、父に冷たい視線を向けられ続けていたこのおれが、友人を紹介する。学校の先生をしている。

(全部、全部、慶のおかげだ)

 慶。

 ケイ。おれの、呪文。

***

 慶から電話があったのは、それから5日後のことだった。余計な心配をかけたくないから、発作のことは、あかねにも事務局長にも口止めしてある。だから、その件ではないとは思うけど、タイミングが良すぎて焦ってしまった。

「なんかあったか?」

 勘良く、慶に言われてますます焦ったけれど、何とか普通に返す。

「うん。慶ともうすぐ一緒に暮らせると思ったら嬉し過ぎて頭おかしくなってる」
「なんだそりゃ」

 アホか。と、昔と変わらない口調で言ってくれる慶が愛しくて愛しくて、たまらない。

「まあでも、ホント、もうすぐだな」
「うん」
「あともう少し、待ってろ」
「うん」

 心地良い慶の声に包まれる。

「それから先は、ずっと一緒だからな」
「うん」

 ずっと一緒。
 これから先、何日も何百日も何千日も。
 一緒にいることが当然の日々が、続いていく。


---

お読みくださりありがとうございました!
これから約5000日後の現在も、二人は一緒にいます。当然のように。

コメントで教えていただいた、4月8日の「ピンクムーン」の夜も、浩介が慶を駅で待ち伏せ(?!)して、月の光の下を一緒に歩いて帰ってきたのでした。

今世の中は、当然だった日常からかけ離れておりますが…
今できる最良の道を選んで、また日常が戻ってくることを信じて、慶と浩介も、二人で一緒に、乗り越えようとしております。
そうそう、裁縫上手な浩介ママが二人分のマスクを5セット作って送ってくれましたよ!
浩介とお母さんとの関係が前とはまったく違うことが嬉しいです。

更新のない間もクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!心より感謝申し上げます。

こんな不定期更新にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
皆様もどうぞご自愛ください。


BLランキング

ランキングに参加しています。よろしければ上二つのバナーのクリックお願いいたします。してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「翼を広げて」目次 → こちら


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« BL小説・風のゆくえには~須藤友と友達の... | トップ | BL小説・風のゆくえには〜お... »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
5000日おめでとうございます! (TAKA)
2020-04-18 09:46:38
尚さま

前回の私のコメントの返信に 予告してくれていたので、そろそろかしら? とここ数日ヤキモキしてました。

5000日、日数イマイチ期間がピンとこないのですが 年数に換算すると スゴイ としか言いようがありません。また 更新いただいてありがとうございます。「このあたりです」とも書いてくださったので そのあたりから4作くらいを読んでました。二人の未来が見えたところ・タイトルにつながるところ で再度 グッと心に響いてきましたよー。

また更新していただいたので、世間を騒がせている影響を身体には受けていない ということもわかり安心しました。これからもご自愛ください
TAKA様 (尚)
2020-04-18 22:59:03
お祝いのお言葉ありがとうございます!!
しかも数日ヤキモキしていてくださったなんて!
しかもしかも読み返してくださったなんて~~!
その上、グッと心に響いてきたなんて!!
最高のお言葉本当に本当にありがとうございます!!
ホント、5000日って結構年数あるんですよね^^;

今回書くにあたり「翼を広げて」を一から読み返して……
あらためて、やっぱり、実は、慶の方が浩介に対する依存度高いんじゃないの?なんて思ったりして……
あー、そうか。元々、この「翼を広げて」は私が高校生の時に、慶視点のみで書いていたので、余計にそう思うのかもしれません。
高校生の時、慶は一年以上、健気に片思いしてたしー
なんというか……浩介の慶に対する依存は、もはや恋愛というより、人間として、というか……
「恋愛」という意味では、慶の方が浩介に依存してるというか……

そんなことを思ったのは、こないだまで、
「一回目のバレンタインの話を書こうかなー」
とか思っていたせいもあるのかもしれません。
慶君にとっての「一回目のバレンタイン」。
片想い中のバレンタイン。
でも、慶君は、自分があげるという発想はまったくない。

……なんて、過去話に現実逃避をしている今日この頃でした。

TAKAさんもコメントくださったということは、お元気でいらっしゃるんですね。安心いたしました!
先の見えない不安な日々ではございますが、明けない夜はない、と信じて。
どうぞご自愛くださいませ。

嬉しいコメント本当に本当にありがとうございます。
書いてて良かった・・・としみじみと、感動に浸っております。
本当にありがとうございました。

コメントを投稿