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BL小説・風のゆくえには~あの頃の君に会えたら

2018年08月17日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

新作準備間に合わなかったので、慶&浩介の短い読切をお送りします💦




2018年8月14日(火)


【慶視点】


 夏休み中の浩介と一緒に実家に顔を出したところ、妹の南とその娘の西子ちゃんもいた。二人は昨日から泊っているらしい。それで、

「見て見て~! かわいいでしょ~?」
「浩兄、どうどう? これ!」

 二人してニヤニヤしながら見せてきたのは3冊のポケットアルバム……

「なんだこれ?」
「お兄ちゃんの中学のバスケ部時代の写真♥」
「は!?」

 なんでこんなにたくさん!?
 撮られていることに気がついていないのか、目線はまったくカメラを向いていない。どうやら試合の日の写真のようだけれども、試合中よりも、試合後、仲間に囲まれているものばかりだ。

「こんなの初めて見た……」
「そりゃそうよ。初めて見せたんだもん」
「は?」
「いや~昨日の夜、部屋の片付けしてたら出てきたんだよ。コッソリ撮りためてた作品の数々が!」
「はああ?」

 こんな写真いつ撮ったんだよ! って言うか、何のために撮ったんだよ! 我妹ながら、いつもながら意味がまったく分からない!

「わ~、慶、可愛い………」
「何だと!」

 ポヤンと言う浩介の脇腹をガシガシ小突いてやる。

「どうせチビだよ!どーせ!チビだよ!バスケ部の中だと余計に断トツ小さいからスゲー嫌なのに!」
「痛い痛い痛い」

 あはは、と笑いながら、浩介がアルバムをめくっていき、ふ、と手を止めた。

「あ、でも、この子、慶と同じくらいじゃない?」
「これは上岡武史だ!」

 浩介も知っている、おれ達と同じ高校だった武史。

「こいつ中2から急にでかくなるんだよっ」
「あ、確かに面影ある……。へえ、本当に小さかったんだね。今、180以上あるよ?」
「うっせーよ!」

 あー、嫌だ嫌だ。客観的に見ると、本当にチビだおれ……

「南!だから何なんだよ?この写真はっ!」
「私達的に美味しい写真。ね~?」
「ね~?」

 母子でうなずきあっている南と西子ちゃん。意味が分からない……。

 でも、浩介はウンウンと深くうなずくと、

「確かにね……。おれ的には面白くないなあ、正直……」
「あら、浩介さん、嫉妬? 中学生に?」
「そりゃあね……」

 浩介はジーっと写真を見ている。試合に勝ったあとらしく、仲間達に揉みくちゃにされて笑っているおれが写っている写真……

「この写真……おれも一緒に写ってればいいのにって思うよ」
「…………浩介」

 浩介は辛い中学時代を送っていたらしいので、思い出させたくない……

 さりげなく座り直して、浩介の膝に膝をくっつけると、気がついた浩介が、何かホッしたような顔になっておれに笑いかけてきた。

「でもおれ、中3の時の慶、見たことあるんだよ。ねー?」
「ああ……そうだな」

 おれもホッとして、3冊目のアルバムに手を伸ばした。

「これ、順番通りに入ってんのか?」
「あ、うん」

 南はうなずいてから、ポン、と手を打った。

「そっか。浩介さん、中学生の時、試合中のお兄ちゃん見てファンになったとか言ってたもんね」
「え、それ、どの試合?」

 西子ちゃんも一緒になってアルバムをのぞきこんできた。

「おれが怪我した日の試合だから、一番最後なはず。おれそのまま引退したから」
「じゃあ……ここからかな?」

 ペラペラとめくられていく。懐かしい光景。正直、記憶は断片的過ぎて、チームメイトの名前も正確には思い出せない……

「この年の3年生、みんな背高いんだよね。お兄ちゃん以外」
「悪かったな!」

 ああ、ホント、チビ過ぎて嫌になる……
 あらためて、ドップリ落ち込んでいたところ、浩介がホウッとため息をついた。

「慶……キラキラしてるね」
「なんだそりゃ」

 前にも言われたな。キラキラしてたって……

「おれねえ、本当に感動したんだよ。こんなに眩しい光、見たことないって」
「………………」

 なんて返事をしたらいいのか分からない……。

 南と西子ちゃんはなぜかニヤニヤと肘でつつきあっている。何なんだよこいつら。

「あー……………」

 何だかいたたたまれなくて、わざと写真を丁寧に見ていて……見ていて……見て……………………………、

「あああああああ!!!」

 思わず、大声で叫んで、アルバムを持って立ち上がってしまった。

 だって………だって、この写真!!

「な、何、慶……」
「どうしたのお兄ちゃん」
「慶兄?」

 ハテナの顔をした3人の目の前のテーブルに、バンっとアルバムを叩きつけてやる。

「これ、見ろ!」

 指でさしてやる。試合終了の挨拶をした直後らしいその写真の一番端。体育館のドア横の人だかりの中に………

「浩介! お前、写ってる!」





【浩介視点】


「浩介! お前、写ってる!」

 そう、慶に叫ばれ、あらためて写真を見て……

「うそ…………」

 ビックリしすぎて、息をするのも忘れてしまった。思い出す。あの時……確かに、おれが立っていたのはこのドアの横だ。この角度から慶を見ていた。おれだ……本当に、おれだ。真面目な顔をして、慶のことを見ている………

「おれだ……これ」
「だよな?だよな!」
「うわ。うそ、すごい!」
「わ~~私、天才!」

 慶、西子ちゃん、南ちゃんがそれぞれわあわあ言う中、おれはひたすら、呆然としてしまって……………


「浩介? どうした?」

 トントン、と肩を叩かれて、ハッとした。いつの間に南ちゃんと西子ちゃんはいなくなっている。

「二人とも飯の準備に呼ばれてあっちいったけど、お前どうする?」
「………………」

 慶………、慶が、いる。

「慶……………」
「どうし………、わ、お前、なに……っ」

 我慢できなくて、慶の温かい手をぎゅっと握りしめる。

「慶………」
「何だよ?」
「………慶」

 おれ………本当に、慶と同じ時間を過ごしていたんだね。この写真が、その証拠。

 笑顔の慶を、ただ見ていただけだったおれが、今はこうして、その手を握っている。

「慶……おれ、この頃の慶に会えたら……」
「……………」
「こうして触れたいな」

 ぎゅっぎゅっとすると、慶は、ふっと笑って、

「そうだな。おれもこの頃のお前に出会えたら……」

 ぎゅっと握り返してくれた温かい手。

「すぐに友達になって、親友になる」
「慶………」

 慶……。キラキラしてるところ、変わらないね。

「うん。それから……恋人になろうね?」
「………だな」

 くすくすと笑いあう。

「嬉しい。こんな風に一緒の写真に写ってるなんて奇跡」
「だな」
「しかも!」

 あらためてその写真を見て思う。

「ちょうど、慶が誰にも触られてない写真だから、余計に嬉しい!」
「なんだそりゃ」

 触られるのはチームメイト同士のコミュニケーションであって、そういうことじゃねーだろ。

と、ちょっと呆れたように言った慶。分かってないなあ。

「いやいや。設定的に美味しすぎだよ。小柄美少年総受けとか」
「は?」

 ピクリと頬をあげた慶。

「なんか意味わかんねえけど、『小柄』だけは分かったぞ? 悪かったな!小柄で!」
「わー、ごめんごめんっ」

 蹴ってくる足を何とか止める。本気で気を悪くしている慶が可愛い。


 あの日、おれの人生は変わった。変えてくれた慶と共に、今を生きている。

 写真の中のおれに伝えてやりたい。お前の人生はこれからだと。だから、大丈夫だと。

「慶、大好きー」
「あほか!」

 我慢できずにキスをすると、慶が更に真っ赤になって怒って……それから笑いだした。おれも一緒に笑ってしまう。


 その光と共に生きる人生がやってくる。
 だから、君は大丈夫。

 
 

---


お読みくださりありがとうございました!
本当は新作の人物紹介を、と思っていたのですが、間に合わず、浩介と慶の小話をお送りいたしました。

新作は、上記話の写真が撮られた頃……慶が中3の時からはじまります。この写真にも一緒に写っている村上君という男の子が主人公です。

お時間ありましたら、お付き合いいただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。


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今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

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