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『冬の終わり、青の匂い』百名哲

なんとなくタイトルに惹かれて買ってみた。
冒頭の「ばかねこ」はこの著者のデビュー作なのだけれども、これが実に良い。
主人公は女子大生。アパートで一人暮らしをしているがそんな彼女の部屋に友人たちが遊びに来る。その中のひとりは彼女が密かに想いをよせている青年だ。その彼が猫を拾ってくる。しかしその猫は猫なんだけれども直立歩行するし人語を理解するししゃべることもできる。まあそのあたりはファンタジーなんだけれども、登場人物たちも気にしていないので読むほうも気にしないほうがいい。
で、主人公が想いをよせている彼氏がその猫を主人公の部屋で飼おうと言い出す。そして俺が就職してお前とこの猫を養っていくことができる状態になったら引き取りに来ると言うのだ。もちろんそれはその場の勢いにすぎないけれども、猫も主人公もそれを信じることにする。それから月日が経過する。彼氏はその日以来一度も主人公の部屋にやって来ることはなかった。猫は猫でものすごく心配症なんだけれども主人公に尽くしているし、いつの日か、自分を拾ってくれた彼氏が自分と彼女を迎えに来ることを信じている。
しかし、彼女の方はといえば心のどこかではそんな日が来ることはないということを知っていても、それを受け入れるだけの勇気がない。
「接ぎ木」はミステリアスな話だ。主人公は探偵でとある女性の身元調査を依頼される。その女性は一軒家に一人で住んでいてめったに外に出ることがない。数ヶ月前までは母親と一緒に暮らしていたがその母親も亡くなってしまった。なにかが起こったのだけれどもそれは明確には語られない。最後まで読んでそしてタイトルの接ぎ木が何を意味しているのかを考えた時、何が起こったのかがわかる。
「聴こえてくる歌」は地方のラジオ局を舞台とした話だ。主人公は外注のAD。外注であるためにラジオ局の社員からは下に見られている。しかし一人の女性アナウンサーだけは彼に普通に接してくれている。だから次第に彼女のことが気になっていくのだが、一方で自分と彼女は立場が違うということを理解しているためにそれ以上先には進むことができない。そうこうしていくうちに主人公はその能力を認められラジオ番組を任せられるようになっていく。その一方で彼女の方は後輩たちに抜かれ、目が出ないまま、やがてラジオ局をやめてしまう。
切ないけれども心の揺れ動きが気持ちいい。





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