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【読書感想文】島本理生『ファーストラヴ』 ただ愛が欲しかった

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「ファーストラヴ」という単語は、初恋のことだと認識していた。この本を手に取って、読み始めたときもずっとそう思っていた。ファーストラヴを探しながら読んでいた。

 

読み終わって、全く違う風に言葉を捉えていた。ファーストラヴとは、人生で一番最初に受ける愛のことなのではないか、と。

 

 

 

※ネタバレを含みます。

 

あらすじ

なぜ娘は父親を殺さなければならなかったのか?多摩川沿いで血まみれの女子大生が逮捕された。彼女を凶行に駆り立てたものは何か?裁判を通じて明らかにされる家族の秘密とは? 

引用元:内容(「BOOK」データベースより)

 

感想

とめどなく止まらない小説

島本理生さんの小説を読むのは2作目。1作目を読んだのはずいぶんと前のことだったけれど、“印象”がしっかりと残っていた。

 

人の心をのぞき見ているような背徳感と、心がそのままに流れるように書かれた文章が、とても印象的だった。そういう文体なのかなと思ったけれど、それは1作目の小説だからこそで、2作目はまた違った文体で、だけどまた流れるように読めてしまうものだった。

 

そして最も印象的だったのが、読み始めたら手を止められないこと。最後まで知りたい、と思わせる何かがある小説だった。

 

今回は、少し読んで、続きはまた別の日に、そう思ってページを開いた。ただ、続きが気になって、「ここで」と止められずに、「あともう少し」とページをめくってしまう。「あともう少しでわかりそうだから」がずっと続いて、手が止まらない。

 

結局、一夜で読み切ってしまった。また、だ。島本理生さんの小説は、取り憑かせる魔力のようなものがあるのかもしれない。

 

でも、私の手が止まらなかったのは、登場人物が幸せになれるのか、なんてそんな正義感からなんかじゃない。人の暗部を知りたい、おぞましい好奇心からだ。手が止まらなかった自分を思い返して、その本性に少しぞっとしてしまう。

 

ただ愛が欲しかった

聖山環菜がどういう人物で、なぜ父親を殺してしまったのか。臨床心理士の由紀や、その義弟で環菜の弁護士となった庵野迦葉が彼女を知ろうとするように、真実を知ろうとするように、心を開こうとするように、読者の私も彼女の正体が知りたかった。

 

環菜自身でさえも、自分のことがわからないような。語る人によって姿を変えるような。そのときどきで言うことが変わってしまうような。それでも嘘をついているわけではないような。

 

そんな彼女をとても健康的な人は“メンヘラ”と呼ぶのだろうか。“正常じゃない”と言うのだろうか。それなら、私は真っ向から否定したい。

 

だって、彼女は一度でも、自分が求めた“愛”を受けたことはなかったから。だから彼女は愛を求めた。

 

彼女が“愛”を求めたその表情を、態度を、行動を、皆自分の欲求に当てはめて「そう思っていたに違いない。だって、彼女が求めたのだから」としたんじゃないか。それは全部、愛じゃなかった。ただの征服欲と性欲と自己愛だ。相手を思う愛なんかじゃない。

 

一人、環菜のことを心から思ってくれている親友の存在がいて、それは愛だなと思うし、環菜も愛を感じていたからこそ親友をとても信頼していたように思う。

 

でも、環菜の心の穴は埋められるものじゃなかった。その穴のふさぎ方を忘れてしまったみたいに。そんなの当たり前だ。本人だって「私がおかしい」と思うくらいに思い詰めてしまうくらいの仕打ちを受けてきた。

 

当たり前に与えられるはずの愛を与えられず、言うことには全部応えてきたのに、それで「足りない」と思っても、「死んでしまう」と思っても仕方ないのに。

 

愛を与えられなかった人が、 愛に飢えていて、死ぬほど愛を求めようとすることの、何も間違ってない。

 

環菜と由紀のファーストラヴ

環菜にとって、ファーストラヴはなかった。甘酸っぱくてほろ苦い初恋ではなくて、人生で初めて受ける愛という意味での、ファーストラヴ。それは何にも替えられない愛から、彼女は愛を求めて苦しんでいた。

 

だからこそ、私はこの物語のファーストラヴは初恋ではなく、人生で一番最初に受ける愛のことなのではないか、と感じた。

 

このまま愛に飢えて、自分の身を滅ぼしてしまうのではないかと思うほどだったけれど、そうはならなかった。由紀や迦葉が彼女と向き合おうとして、彼女の心に寄り添って、ときに感情的になりながら、行動して彼女の心の内を明かすことで、彼女は何かを乗り越えたように感じる。そこに由紀や迦葉、そして親友の愛もあったから。

 

一方で、由紀もまた「ファーストラヴ」を与えられなかった女性なのではないか、と感じた。彼女のクリニックにやってくる女性にかける言葉は、かつての由紀自身にかけたかった言葉なのではないか。

 

彼女もまた乗り越えて、心の内を明かして、明るい場所で服を脱ぐこともできるようになった。愛と出会ったから。この小説は、環菜と、そして由紀の物語なのだと思う。

 

ひどく予想外の結末なのに、納得してしまう

読み始めてから想像していた結末とは、全く違っていた。衝撃の結末とは、ちょっと違う。予想を裏切ってナンボ、とかそういうわけでもない。

 

その結末は真実かどうかはわからない。でも、納得はできる。閉ざされていて、もつれていた心を、やっとの思いで、勇気を持って開けたその心が、嘘だとは思わないから。

 

環菜が少しでも救われたのと同時に、どうしようもなく救われない人もまだ残されていて、その切なさもある。でも、連鎖を断ち切る手助けはできたのかもしれない。

 

読み始めと読み終わりとで、タイトルの捉え方も、思い巡っている感情もこんなに変わってしまう体験はとても不思議。ただ読み終えたときに、私は無意識に微笑んでいたから、たぶん良い結末だったのだと思う。たぶん未来はある。きっと。

 

 

aoikara

 

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