空腹時に大事な判断をしてはいけない理由

投稿者: | 2018年10月19日

 

腹が減っては戦ができぬ

 

空きっ腹では話ができません!

ということで、焼きそばを作って苛立つ生徒に食べさせたのは金八先生でした。

随分昔のテレビドラマ『3年B組金八先生』の1シーンです。

『3年B組金八先生』

あまりにお腹が空いているときって、イライラしてじっくり判断できない傾向になりますね。

じっくり考えられずに行動したり判断したりしてしまうのを「衝動性」と言います。

どうして空腹時に衝動性が高くなるのでしょうか?

ちょっと前に報告された論文によりますと、空腹時に分泌される、とあるホルモンが脳に作用して衝動性を高めるのだそうです。

 

グレリン:空腹時に分泌されるホルモン

ヒトが成長するときは、成長ホルモンが大きく関わりますが、成長ホルモン分泌ホルモン(GHRH)が、成長ホルモンの分泌を促進します。

GHRH以外にも成長ホルモンの分泌を促進する物質がありそうだったのですが、それが具体的に何であるかはしばらく謎のままでした。

それを発見したのが、児島将康 博士らで、1999年に科学雑誌 Natureに報告しました。

グレリンという、胃から分泌されるホルモンだったのです。

Kojima M, et al. (1999) Ghrelin is a novel growth hormone releasing acylated peptide from stomach, Nature 402: 656—660.

成長を意味する英語の「grow」のルーツに当たる「ghre」という言葉から、「ghrelin(グレリン)」と名付けたそうです。

グレリンは空腹時に主に胃から分泌されるホルモンですが、膵臓・視床下部・胎盤・腎臓などでも産生されます。

ちなみに、成長ホルモンは子どもから成人になる間だけに働くのではなく、成人になってからも筋肉・骨・皮膚を強くする作用などがあります。

成長ホルモンの分泌促進をするだけでなく、空腹時に食欲も増進させます。

実際、グレリンをラットやマウスに投与すると、食欲が増進して体重増加がみられたという論文が出ています(Nature, 2001)。

また、ヒトでもグレリンで食欲増進が認められたという報告もあります。

 

グレリンが衝動性を高めることがわかった実験

スウェーデンにあるヨーテルボリ大学のアンデルバリ博士らは、衝動性を調べる実験をラットで行いました。

実験では、ラットに待つとエサがたくさんもらえる課題を与えています。

レバーが2つあって、片方のレバーは押すとすぐにエサがもらえます。

もう片方のレバーは、しばらく待った後に押せるようになり、押すとすぐ出るレバーの4倍のエサがもらえます。

ただし、そのたくさんもらえるレバーは、もう一つの押すとすぐもらえるレバーを押してしまったら、もう待っても押せなくなります。

エサをたくさんもらうのは、たくさんもらえる方のレバーを押せるまで待たないといけません。

エサが欲しい衝動に駆られると、少しでも待てなくなって、目先のエサで済ませてしまいそうですが、果たしてどうなのかを実験したわけです。

そして、グレリンを脳の側脳室(脳脊髄液が詰まった袋)や腹側被蓋野(VTA)に投与して効果をみました。

すると、グレリンを投与されたラットは待てなくなってしまい、押すとすぐエサがもらえるレバーを押してしまったのでした。

グレリンの投与を止めると、ちゃんと待ってたくさんもらえる方のレバーを押せるようになりました。

つまり、

 空腹
  
 グレリン分泌
  
 グレリンが脳に作用
  
 衝動性が高まる

ということが分かったのです。

衝動性は、薬物依存・強迫障害・ADHDなどにもみられます。

それらの治療として、グレリンが分泌されても効かない、つまり、グレリンの受容体に作用させる薬の開発などが期待されます。

 
今回の実験はラットを使っていますが、ヒトでもグレリンは分泌されます。

空腹時に衝動性が高まるのはグレリンのせいのようです。

空腹時は思ったより判断が鈍って冷静な判断ができず、あらぬ判断に飛びついてしまい兼ねません。

大事な判断は空腹時には避けた方がよいですね。

 
【原論文】(open access)

Anderberg RH, et al. (2016)
The stomach-derived hormone ghrelin increases impulsive behavior.
Neuropsychopharmacology 41(5):1199-209.
doi: 10.1038/npp.2015.297.

 
脳科学で生活にうるおいを!

では、また!

 

(了)

 

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