私は以前、コンサート制作の仕事をしてました。
ロックコンサートです。
なのでライブ中のお客さんはバラード曲以外は立ちっぱなしの歌いっぱなし。
そこにウイルスがいようものなら、飛沫どころか噴射くらいの勢いで会場中に蔓延しちゃいそうな状況です。
あれは2002年か03年ごろ、海外でSARSがじわじわと流行り始めた頃の話しです。
そろそろ日本でも公演等での感染拡大が懸念されるようになってきたある日、私は当時勤めていた会社の社長室のドアを叩き、こう言いました。
「社長、あの、マスクを30,000枚買わせてください!」
コンサートの性質上、まさかお客さんに「席から立たないで!声を出さないで!」とはお願いできないし、でもどうしても公演を催行するならば最低限必要な対策を取らなければならない。
それには、お客さん全員にマスクを配布して着用をお願いし、入場口の各所にアルコール消毒のスプレーを設置して除菌を徹底してもらう必要があるなと。
社長は私の話しを理解してくれ、「で、費用はいくらかかるんだ?」と。
私「100万くらいです!」
社長「よし、わかった。進めてくれ」
で、実際マスクを買おうとしたのですが。
よくよく考えたら入場口でマスクを配布するには、一つずつ個別包装してなきゃ衛生上困るわけで。
しかしそんな商品30,000枚がどうしても見つからない。
ならば中国の工場で最初っから作っちゃえ!っと指示を出し、公演までに間に合わせたのでした。
だが結果、その私の心配は取り越し苦労に終わり、SARSは日本で大流行することもなく無事に公演は催行できたのです。
その後、私が発注した大量のマスクは会社の倉庫に積んであったのですが、マスクと言えど30,000枚はかなりのガサで、それはそれはもうすっかり邪魔者扱いとなり。
「けいさん、あれ、マジで邪魔なんですけど!」って度々社員から文句を言われ、私はその都度「でもさ、いつまたどんなことが起こるかわからないのだから、持っておくに越した事はないよ」と言い続けたのです。
嫌な上司からは「あのマスク代はお前の給料とボーナスから天引きしちゃっていいよな」と言われたりと、まぁいろんな嫌味を言われたものでした。
その後、私は2013年にその会社を退職しちゃったのです。
そして去年の秋、当時勤めていた会社の後輩がウチに遊びに来た時にこんなことを言いました。
「あっ、そうそう、けいさんの置き土産のマスク、あれ、あまりに邪魔だったので、この間ついに全部捨てちゃいましたよ!おかげで倉庫はスッキリです!!」と実に明るく言われ。
私も「そりゃ、ごくろうさん!」と返したのですが。
それがまさか今、こんな事態になるとは。
あー、もったない。