2番歌 持統天皇

 春過ぎて

 夏来にけらし 白妙(しろたえ)の

 衣干(ころもほ)すてふ

 天の香具山(あまのかぐやま) 





「春過ぎて夏来にけらし」、ここまではわかり易いです。

この当時の日本はとても寒かった時期です。

けれど、「干す」というくらいですから、お洗濯のことを詠んでいるわけですが、当時は全自動洗濯機などありません。

ぜんぶ、川で手洗いです。

ですから冬、氷の張った川でお洗濯をするのは、とても辛かったことでしょう。

それが春となり、そして初夏ともなると、逆にこんどは、冷たい川の水が心地よい。

だから、おもわず一所懸命洗っちゃって、だからお洗濯物が、ほら、こんなに真っ白になっちゃったわ。

青い空、白い夏雲。ひんやりして心地よい川の水、真っ白に洗い上がった洗濯物。


「白妙(しろたえ)の衣(ころも)」というのは、真っ白にきれいに洗った洗濯物です。

そこで、せっせと洗濯をし、真っ白に洗い上がった着物を、青空のもとで「干し」ているわけです。

まぶしい太陽。

初夏の緑の香り。

額から流れる汗が気持ちいいことでしょう。

ふとみれば、向こうには天の香具山が、凛々しい山姿を見せています。

その山の姿は、若くして亡くなった夫、天武天皇の勇姿にも似ています。


「あなた。私はいまもこうして頑張ってるわよ!」

真っ白な洗い立ての洗濯物を大空のもとで干されている持統天皇のお姿、お亡くなりになった夫を愛し続けながら、元気に生きておいでの持統天皇のお姿がここに描かれています。


持統天皇は、天智天皇の第2皇女です。

後に、天智天皇の弟の天武天皇の皇后陛下となられ、天武天皇の施政を継いで、わが国最初の体系的な法典「飛鳥浄御原令(あすかきよみはらりょう)」を制定、施行された第41代の女性天皇です。


その持統天皇ご自身が、天皇となられたいまも、ご自身のお手で洗濯をし、凛々しい香具山に、亡き夫を感じられている。

愛する夫を失うことは、とても辛く悲しいことです。

けれど、どんなに悲しいことや辛いことがあっても、精一杯笑顔で元気に生きて行く女性たち。

そんな姿を、亡き夫もきっと見ていてくれているわ。

そういう御製が、

「春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山」なのです。


そこには、男は男として、女は女として、互いに助け合い、それぞれの役割(仕事)をきちんと果たすことの大切さ、そして亡くなった夫ということから、死者とともに一体となって生きる日本人の原点が明瞭に描かれています。


最近でこそ、各ご家庭の墓所に行くには、電車で何時間も揺られなければならないような状態になりましたが、昔は、どのご家庭でも、家から歩いて行けるところに、墓所がありました。

これが縄文時代の遺跡などを見ると、集落の真ん中にご先祖の墓所があったりするわけです。

つまり日本は、何千年も前から、死者と共存し、死者とともに生きて来た。


そして純白の衣を干すという洗濯は、そのまま命を洗濯して純白になっていくことをも想起させます。

この世は修行の場で、正しく生きることで魂を浄化し、そして死んで神となる。

洗濯は、汚れた命の洗濯でもあるわけです。


そうやって、いまも俗世間に生きている私(持統天皇)を、亡くなった夫(天武天皇)が、天の香具山となって、いまもずっと見守ってくれている。

そこにあるのは、究極の夫婦愛です。


これが百人一首の2番歌です。


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天香具山・・・大和三山の一つ。奈良県橿原市と桜井市にまたがり,花コウ岩よりなる標高152mの小。日本神話によると,同名の山が高天原にもそびえると伝承されている。また,《伊予国風土記》逸文には,天から天降った山ともみえている。