カシーフ
カシーフ
SMJ
2009-12-23


カシーフ say somethin'love 1983

今月のミュージックマガジンが、最近のローファイヒップホップ的な、日本の宅録完結した若いミュージシャンたちの特集やってて、ブーガルー特集はさておいて、10年以上ぶりくらいに購入して読んでみた。ZEレーベルを思い出すとかは、まさにどうでもいいのだが、この本をindexに、spotifyで色々と物色してみて、藤井風も初めて聴いてみた。
 ガースー泣き寝入り的な米津なにがしよりかは、はるかにまっとうだが、声が田島貴男が最高に上手くなった感があって、面白い。楽曲も、転調がなかなかで、やっぱり大衆性のあるR&B調である。だったら、同世代のT grooveあたりにミックスしてもらえば、もっとカッコよくなるだろう。monologも、改めて聴いたがやっぱり良いもの。

玉名ラーメンは、以前から知っていたが、他ではskishaや、浦上想起が、良かった。ただこの世代の音楽は、スクリーミン以降ゆえに音源接触度は豊富なため、音楽の構造自体のこなれ感は高いんだけど、その影響された音楽の時系列的な脈絡の無さが、どうしても気になる。多分楽曲のなかに情報量が多すぎるのかもしれない。彼らにとっては、無意識の創作だとしても。

やはりキューバ音楽のヨーロッパのスパニッシュミュージックと、アフリカンビートの融合など、民族自体のミクスチュアと共に、相応の時間をかけて成り立つ、偶然と成熟が生み出す音楽の力強さが、本来の大衆音楽だろう。

とレモンツィッグスやモノノアワレも、新曲を出していた。彼らもそのアップトウデイトな豊かなミクスチュアを、自から演奏することで身体性を獲得しようとしている


で、今回は、私がまだ若かった40年近く前、伝統的なR&Bや、ソウルミュージックに、当時先端だったエレクトロニックマシーンを導入して、見事に魂を失わない、いやむしろそのブラックネスを深化させたような音楽を作り出した男、カシーフを取り上げたい。ハッシュ系、ホイットニーのデビュー、ディスコの後にエレクトリック化は増しながら、そのブラックネスを際立たせた80年代初めのクワイエット ストームを生み出した最重要人物の一人だ。

80年代当時、日本のソウル、ブルースの第一人者の
評論家、鈴木啓志氏が、ほぼたった一人で大評価していた記憶がある。私も嫌いじゃ決してないけど、グレン ジョーンズや、ララなど他にもっと好きなシンガーがいたりして、カシーフは地味な印象だった。

 しかしその後しばらく手に入れにくくなるカシーフのセカンドのCDを持っていたので、その端正とまで言える80'sR&Bは、渋くて素晴らしいと知っていたが、折に触れカシーフを評価する鈴木氏にはちょっと苦笑していた。シュリックやグレンやアリオリに比べればカシーフは普通じゃん。と。

今でもそうしたストロングなシンガーと比べればたら、カシーフのシンガーとしての魅力は小粒かもしれないが、このsay somethin'loveという1983年の1stからの曲を聞いて、そのアナログシンセ主体のバックに秘めたアバンギャルドなフラジリティが、80年代に生まれたこうしたマシーンミュージックにクリエイティブな豊かさを生み出していた事に気づいたのだ。

その後 相棒のポール ローレンスやバリー イーストモンドが作ったメリハリのありすぎる、スッキリとしたプロダクションが主流となり、ヒットも多かった80年代R&Bだが、フィラデルフィアやニュージャージでもいい、70年代のソウルにあった不確かさこそがリアルなソウル音楽に通じる、その味わいがカシーフの音楽にはあるのだ。


そしてそのアナログシンセの音色の不確かさこそが、今のvaporwaveの基本感覚なのだ。カシーフの生み出したキーボードサウンドこそが、vaporwave。日本の林哲司や、萩田光雄や大村雅朗は、その柔らかさも理解して自分たちの音楽をアレンジしたのだろう

カシーフの80年代初めに生まれた、繊細でナイーブなブラックミュージック!初めて聴いた時は、オーバープロデュースにも思えた、カシーフの1983年のデビュー作の素晴らしさに今頃やっと気がついた。
 このsay somethin'loveのさりげなさに通じる、センシティブなブラックミュージックは、やはりなかなか最近の宅録系には敵わない魅力かも。
 まあ大きなお世話なんだけど。

しかしT grooveがプロデュースした、本気でカッコいい藤井風のジャパニーズR&Bは、ぜひ聞いてみたい。実は最近は、80年代半ばのドミニカのメレンゲ、ベルキス コンセプシオンばかり聴いている

中村とうようがやけにリアルタイムでプッシュしていた当時のメレンゲ、私はキューバや60年代のファニアのサルサに比べて、軽くチープなメレンゲは、NYの香りもするロス ベシーノスを除けば、私はイマイチだったのだが、spotifyで聴くとやけに気持ちいい。
マーク ボランのブギに通じる、虚心のひたむきさが心地よいのだ。チカス デル カンよりも、私は単体のベルキス コンセプシオン。
現在の彼女の姿も見えてしまうのは、ネット社会の良し悪しだが、当時は紛れもなくキュートだった彼女の音楽は、素晴らしい。という歳相応の私なのであった。

他4曲も、親父が安らげたナイスチューンで。

ハーブ アルパート   senor mouse
ベルキス コンセプシオン llorero
カシーフ the mood
sukisha    Cherry


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