小金井書房ブログ

孤独、哀愁、静けさ

承認欲求の時代と、SNSの「いいね」の虚しさ

 

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目次

 

 

①自意識と承認欲求の時代

 現代では、大多数の人がスマートフォンを利用しています。外に出れば、スマートフォンを利用している人を見かけない日はありません。

それでは、世の中の人々は、スマートフォンでそんなに何をしているのでしょうか。

もちろんそれは人それぞれでしょうが、中でもとりわけ多いのはSNSソーシャル・ネットワーキング・サービス)の利用です。<参照: 総務省|平成29年版 情報通信白書

特に、若い世代では、SNSの利用者が非常に多いという状態になっています。

 そのSNSですが、大きな特徴として、二つのことが挙げられるように思います。

一つは、自分が他者からどう見られているかという「自意識」に関わる刺激と快感。そしてもう一つは、自分が発信したことに対して他者から反応を得たい、承認されたいという「承認欲求」です。

有名人から一般人まで、SNSが世界中で利用されている現代の特徴を一言でいうなら、自意識と承認欲求の時代と言えるのかもしれません。

 スマートフォンの普及とともに、SNSの利用者は爆発的に増加しました。そんな時代に生きる人たちの一番の関心事は何かというと、自分という商品の価値です。

いいね。動画の再生回数。自撮り。インスタ映え

みんな、自分が他人にどう見られるか、どれだけ評価されるかを気にしています。どれだけ反応があって、どれだけ多くの「いいね」が得られるか。そのことで頭が一杯のようにも見えます。

 たくさん「いいね」がもらえれば、他人から承認された気分になり、いい気持ちになれる。ですから、とにかく他者から「承認されたい」し「ウケたい」。それが、SNS全盛の現代に生きる多くの人たちが、一番に求めていることなのではないでしょうか。

 

 当書房は、『刺激から離れる生活』という本(電子書籍)を出版しています。本の中でも述べていますが、人は刺激が大好物であり、世の中には様々な種類の刺激が存在しますが、中でもとりわけ「自意識」に関わることは刺激が強いという特徴があります。

 SNSというサービスを提供している企業は、その刺激という快感を提供することで、世界中の人々の精神を悪魔的なまでに巧妙に支配していると言えるでしょう。

 「承認欲求」というものは、多かれ少なかれ、ほとんどの人が持っているものだと思います。しかし、現代はインターネットの発達とSNS等の存在によって、人々の自意識と承認欲が肥大し過ぎた、かなり異常な事態になっているように思います。

そして、そのことが精神の病や問題を引き起こしたり、本質的には私たちを生きにくくさせる原因になっているという側面があるのです。

 

②承認欲求の強い現代人が引き起こす問題

 先述のように、ウケたい、人から注目されたい、というのがSNS時代の基本ですので、そのために現代では過激なことをする人が多くいます。それが、他者に迷惑をかけたり不快な思いをさせるなどして、社会で問題となっています。

例えば、飲食店のアルバイトの店員が、店の商品や備品を使って悪ふざけをしている自分の写真や動画をSNSに投稿したり。一部のYouTuberが迷惑行為や逮捕されるような犯罪を行ったり。

ウケたいあまり、新聞記事や本や漫画の一部をネット上に投稿してしまうという、著作権を無視した行為もかなり横行しています。

 また、ネット上では、過激で攻撃的な発言をする人もとても多くいます。そのような言動は刺激的で見る人の感情を煽りますので、手っ取り早く反応を得やすく、発言の当事者は病みつきになりがちです。

しかし、そのような言動は反発も招きやすく、見る人の怒りの感情も誘発します。ですから、そういった過激な発言が元で、喧嘩や争いが毎日あちこちで起きています。

 世界では自撮りによる死亡事故も増えています。SNSで大きな反応を得ようと、危険な場所で自分が写った写真を撮ろうとして人が死ぬという事故が度々起きているのです。

 今ここで取り上げた行為。そのどれもが、他者から「いいね」や承認が欲しい、反応を得たい、という気持ちが動機となっています。

承認欲求という欲望の感情が、現代の多くの問題言動の引き金となっているのです。

 

③人間関係で成立している「いいね」と「いいね返し」

 それらの強烈な承認欲求は、SNSにおいては基本的に「いいね」という他者からの承認によって満たされる仕組みとなっています。

ところが、私がSNSをこれまでそれなりに長く眺めてきて分かったのは、人が誰かに付ける「いいね」というのは、その多くは本当に「いいね」と思って他者に付けているわけではない、ということです。

 人が誰かに「いいね」を付けるほとんどの理由。それは、自分が「いいね」を欲しいからなのです。

自分が他者に「いいね」を付けて、そのお返しとして自分もその相手から「いいね」が欲しい。

つまり、多くの人は、見返りを求めて他者に「いいね」を付けているということなのです。逆に言えば、見返りのない人に対して、ほとんどの人は「いいね」を付けません。

嘘だと思うならば、実際に試してみればわかるでしょう。

あなたにいつも「いいね」をくれる人。その人に対してあなたが一切「いいね」を付けるのをやめると、たちまちその人は「いいね」をくれなくなるでしょう。それが、ほとんどの「いいね」の実態です。

つまり、SNS上の「いいね」等の評価というのは、その多くはコンテンツの質ではなく、人間関係によって成立しているのです。

 

 そんな見返りの「いいね」を求めて、ネット上には、互いに頻繁に「いいね」を入れ合うグループが無数に存在します。SNSでもブログでも、そういったものは大抵どこにでも存在します(互助会などと呼ばれていたりする所もあります)。

そのようなグループに自分が属していれば、たしかに周囲から多くの「いいね」やそれに類するものが得られるでしょう。

 しかし、先述のように、どれだけ多くの「いいね」を得ようが、それらは本当の承認ではありません。自分も「いいね」が欲しいから、相手も単にほとんど義務的に「いいね」を返してくれているだけ。

そう考えると、人から沢山「いいね」をもらって、「自分は皆から承認されている」と勘違いして悦に入ったり喜ぶことが、空しくはないでしょうか?

 SNSで人が付ける「いいね」の裏側には、何らかの見返りを求めているか、有名人や影響力のある人等と関わりたい、といった欲望や魂胆が裏に潜んでいることが多いもの。

そんな、本心の承認ではない「いいね」を他者からもらったところで、本当に満足でしょうか。

 

④承認欲求が強い人ほど嫌われる

 一般的に、人の欲望や怒りといったネガティブな感情は、他者を不愉快にさせるという特徴があります。

承認欲求も欲望の感情の一つですから、当然、人を不愉快にさせる側面があります。

 例えば、「かまってちゃん」と呼ばれる人は、世間で良く思われていません。かまってちゃんは、他者から相手にされたいという強い承認欲や、一人ぼっちを過剰に恐れる不安という、ネガティブな感情を強く持っていますから嫌悪されやすいのです。

同様に、昨今人気のあるYouTuberといった人たちをよく思わない人も、世間には少なくありません。それは、彼らの多くが人から注目を集めたい、それで金を稼ぎたいという強い欲望の感情を放っているからです。

昨今では、自撮り画像をネットに投稿する人も多いですが、人が自分の姿に陶酔して他者に見せびらかすような行為というのは、傍から見てあまり美しいものではありません。ですから、自撮りに嫌悪感を抱く人も多くいます。

 皮肉なことに、自分が他者から承認されたいという気持ちが強過ぎる人ほど、その欲望の感情が人を不愉快にさせるので、上記の例のように嫌われやすくなってしまいます。承認されたいのに嫌われてしまうという、本来の願望と真逆の事態に陥ってしまうのです。

 過剰な承認欲求に突き動かされた過激な言動によって一見反応を得られているよう思えても、そのようなものに反応するのは自分と同種の欲望や刺激の中毒の人たちだけで、まともな人からは承認されなくなってしまいます。

 

⑤承認されたい反動で精神が不安定に

 承認欲求の最大の問題点は、人の精神を不安定にさせることにあります。

他者から承認されることがすべてという価値観で生きている人は、自分の言動に対して「いいね」等の反応が少ないと、他者から承認されていないとか、自分が嫌われているのだと感じて、気持ちが落ち込んでしまいます。人からちょっと批判されたり悪く言われただけでも、激しくダメージを受けることになります。

 そして、SNSというのは、他人と自分を比較してしまいがちな世界です。その世界に浸かっていると、常に人と自分を比べる癖がついてしまいます。

自分以外の承認されている(ように見える)人を妬んだり、それらの人に対して攻撃的になったり…。

そうしていつも他人と自分を比べていれば、喜んだり落ち込んだり、おだやかな精神状態でいることはかないません。

 このように、承認欲求が強い状態というのは、私たちの精神を非常に不安定にさせてしまいますので、いつもイライラや不安、落ち込みといった感情を抱えることになってしまうのです。

 

SNSも承認欲求もほどほどにした方が生きやすくなる

 さて、ここまで、承認欲求やSNSの負の側面について見てきました。

 SNSの利用には、様々なメリットがあります。自分の考えや思っていることを手軽に発信できますし、人とつながるためのツールにもなります。ですから、世界中でこれだけ普及しているのです。

 その一方で、SNSやネットの閲覧に私たちの日常はどれだけ時間を取られていることでしょうか。

メリットとデメリットを客観的に天秤にかけてみたら、実はデメリットの方が大きいということに気づく人も多いはずです。

私たちはもっと、本当に自分のやりたいことや自分にとって重要性の高いことに、限られた時間とエネルギーを使った方がいいのではないでしょうか。

 

 そもそも、なぜ私たちは、そこまで他者から承認されたいのでしょう?

それは、自分に自信がないからです。だからこそ、他者からの評価を得ることでそれを埋めようとしているのではないでしょうか。

本当に自分に自信のある人は、他者からの承認などなくても、自分で自分を承認して生きていけるものです。

世の中にはSNSなど一切利用しないという人もいますし、利用していてものめり込まず、他者からの評価も気にせず、自分のペースで利用している人も存在します。そういう人は見ていて気持ちがいいものですし、私の場合はそういう人にこそ「いいね」と感じます。

 承認欲求は人間なら多かれ少なかれほとんどの人が持っているもの。それを完全に無くすことは非現実的でしょう。 

しかし、SNSの利用も承認欲求も、ほどほどの状態まで減らすことはできます。

自意識も承認欲求も、少ないほど精神の安定と快適さに繋がりますし、格段に生きやすくなるという絶大なメリットが得られます。

また、そのような人物ほど、まともな人達からは本当の承認が得られることでしょう。

 他者からの表面的で空虚な承認など求めず、清々しく軽やかに参りたいものです。

 

 

 

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