子猫のおはなし 1 | おばあちゃんになった、わんこさんのおはなし。                    ~高齢柴犬の闘病・介護記録~

おばあちゃんになった、わんこさんのおはなし。                    ~高齢柴犬の闘病・介護記録~

ハイシニア柴犬介護記録です。
1年3カ月の闘病期間を含め、いつでも家族みんなで笑いながら過ごした、柴犬「わんこさん」との16年と8カ月の生活。
悲喜こもごもあったけど、トータルしてとっても幸せだった日々のおはなしです。

犬と一緒に過ごす生活って、いいね。

夕方、あたりが薄暗くなったころに。母が困惑しきった顔で、二階の部屋をノックした。

「庭に何か生き物がいる、ものすごく小さくて赤くて、モゾモゾ動いてる、どうしよう。」

 

慌てて庭に駆けつけると、黒い被毛に覆われているそれは、体長10センチくらい。自力移動は不可能。被毛が薄い手足や鼻先は、真っ赤。赤ちゃんとはよく言ったものだと、この緊急事態に似遣わしくないことを考えながら。

人間が触ったら匂いが移って親が迎えに来ないって生き物はなんだっけ?ネコ?鳥?とにかく今はこの生き物を触らないように。と母に伝え。市役所や頼りになりそうな機関は軒並み閉まっている時間。さてどうする?

 

私が頼ったのは、わんこさんの時にさんざんお世話になった獣医の先生。

「先生、緊急事態です!庭にたぶんネコの子どもなんですけど、倒れています。むやみに触ったら親が来ないってホントですか?自力で何もできなそうです、なにかしてあげられることはないですか?」

 

先生は「ネコなんだな?」と確認してくれますが。小さな小さなそれは、ネコと呼ぶには小さすぎ。全体的なフォルムがネコらしくなく、細長いように思えます。耳も立ち上がっていない。目も空いていない。モゾモゾうごめくだけで鳴き声も上げない。子猫経験値の乏しい私に判断できる情報は限りなく少ない。

「正直、なんだかわかりません」

そんな頼りにならない私の電話から状況をくみ取り、ネコの子供だろうと判断をした先生は、

「人間が触ったら、親猫は確実に連れ帰らない。飼うつもりがないのなら一切手出しするな。放っておけ。」

生き物の自然な生き方を大切にする先生の、予想通りの指示でした。

市役所にも連絡をすると、奇跡的に時間外受付につながりましたが「死骸の回収しかしていなくて…そもそも生きている猫の引き取りは行っていないんです」と、私の説明に感情移入して半泣きの女性係員が、何度も謝りながら伝えてくれました。

 

親が迎えに来ることだけを願いながら、何にもできません。どうするのが正解か考えてうつむくと、コロナ禍で手洗いや消毒をしすぎて皮膚が荒れ破れて、赤くジュクジュクしている部分さえもある汚い自分の手が目に入ります。昔からのアトピーで、家の中で動物と一緒に暮らすことはやめなさいとお医者さんに厳しく言われ続けています。ほんのちょっとの刺激で鼻や喉もすぐにおかしくなります。家族もこの状況をどうしたものかと思案し、眉間にしわを寄せうんうんうなりながら夕食を食べています。何度もそっと懐中電灯の明かりで様子を確認にいっています。翌日は金曜日。夏季休暇の前の時期です。しかも私の職場メンバーの一人が急病で入院後、人員不足から十分に療養もせずに初出勤予定の日でした。他のメンバーも一人抜けた穴を埋めるためお休みを返上し、疲弊しています。お休みをもらったりネコを連れて出勤するのは不可能。小さな命を救う前に、組織の中で働く社会人としての責任を果たさなければなりません。

 

夜のうちに、子ネコは動くことさえやめてしまいました。もう亡くなってしまったと早とちりをした私が翌朝、せめてタオルに包んであげようとすると、ネコはビクンと大きく反り返りました。まだ生きてる。必死でがんばってる。母猫、早く迎えに来てあげて。

仕事の休憩時間は、保護した後の子猫のお世話方法を検索しまくり。猫を飼っているという人を探して状況を伝え、指示を仰いで。でも、「目も開いていないのなら、母猫以外にお世話できる人はいないんだよ」と、打つ手はないから諦めな、というアドバイスばかりでした。猫に詳しい人ほど、生きる望みは薄いと言っていました。

 

帰ってもまだネコが動いているなら、できるだけの手を尽くそう。炎天下に一日放置してしまっているから状況はさらに悪くなっているだろうけど、倒れていたのが以前犬小屋のあった場所、わんこさんのテリトリーなのだから、なおさらに見捨てておけない。まだヨロヨロしている体調の病み上がりの職場仲間も、子猫を応援して声をかけてくれます。間に合うことを願いながら、一目散に家まで帰りました。

 

 


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