では最後に、ライトアームの矢田さんとお話させていただいたなかで、整備ブログに記載されていないが、とても感銘を受けたお話をひとつふたつ。

◆並行輸入された旧型Vmax

おさーんの車輛も含め、旧型Vmaxは各ショップから並行輸入されたものが多いのだが、実際に届いた車両は、大げさに言えば仮組みのような状態で送られてきていたそう。点検調整は各ショップがやるべきもので、工場出荷時点では組んだだけといった状態だったらしい。だから、届いた車両は、お店で車体の増し締めや各部の点検調整が絶対に欠かせなかったそうだ。もちろんきちんと点検整備の上、ユーザーに納車していたそうだが、そのままエンドユーザーへ渡したショップもあるようで、たまにそういうのが整備に入ってくると各部めちゃくちゃだったそう。

◆スペクトロの油脂類

ライトアームでは基本的に油脂類はスペクトロ製を用いている。
お店にも所狭しとエンジンオイル他が箱で山積みされていた。これはなぜなのか、そんなに良いのか。

油脂類については、メーカー指定のモノより攻撃性が少ないもの、すなわち、ゴムや各種部品に劣化影響を与える可能性が少ないものを使っているそうだ。
つまり、多くのユーザーで起こりがちな、多少整備が遅れ交換時期が長くなったとしても、各部に影響が少しでも出にくい物を選んでいるらしい。
選定は、VMG時代からの長期利用とその後の整備結果による経験からきているそうで、実際に各部のゴムや樹脂の劣化が、純正より傷む可能性が経験的に低いそうである。
ベイカーズ・ストリートのサイト内記事を見ると、燃料はどちらかというとハイオクをお勧めしている記載が見受けられる気がする。これもハイオクには洗浄剤による洗浄効果が見込めるのが主な理由と思われる。多少の汚れや詰まりが洗浄剤で流れる可能性を考慮してのハイオク推奨ということだ。つまり性能向上だけでなく状態の維持に配慮し、キャブの詰まり等が起こりにくいであろうモノをお勧めしているのかと思う。

◆デモ車両についているウオタニは実際のところどうなのか?

ライトアームには、2台のデモ車両があり、1台目は国内モデルベースでVブーストなどを組み込んだもの、2台目は逆車にRSウオタニの点火システムを組み込んだものとなっている。Vmaxは点火系を含む電気系全体が鬼門であり、プラグの選定を初めとし、多様な対策が試みられているのは周知のとおり。ウオタニはお値段高いが効果もあるとのことで、国内イグナイターによる点火強化と比べ実際のところどうなのかという部分は知りたいところであった。

答えはあっけないもので、マップを突き詰めて改良したりもできるが、そうしたことはまだ着手しておらず、ノーマルマップを使い様子を見ているそうだ。そうした状況だと、逆車に国内イグナイター装着&キャブセッティングと、今のところさほど大きな差は感じられないといったものだった。

正直なところ、なぜマップの調整を突き詰め、キャブの調整も緻密に行い、性能を突き詰めないのかとおさーんは思った。これについて多くは語られなかったが、おさーんの推測も加味すると、どうやらこういう事らしい。
普通のユーザーは、キャブを含め常に全てを最適な状態にしておくことすらなかなか大変。さらにそれを維持し続けるのはもっと困難というかまぁ無理だろう。そうしようと思ったら、最低でも年に数回スクリュー弄ったり、同調を取るといった事とこれもうほぼ同義だ。
矢田さんは当然キャブもマップも常に詰めた調整はできるが、一般ユーザーは調整は最初の取り付けタイミングでできたとしても、常に状態を維持し続けるのは大変だろうと。
ウオタニのノーマルマップは、そうした状況も踏まえ、余裕を持たせ設定してあるはずなので、まずは一般ユーザーが最も多く使うであろう、ノーマルマップを使った状態で様子を見ているらしい。

◆性能向上より性能維持を

さて、こうした話にはちょっと感銘を受けた。
普通は、エンジンが軽く回るとか、パワーが出るとか、プラス効果を最優先で何もかも選ぶのが常で、どこのお店もそんな理由だろうと思っていた。
ところがライトアームでは、単なる性能向上というより、性能を落とさず、車両が長持ちすものを優先し、ユーザーの実際の使い方を考慮し選定されているらしい。
油脂類や消耗品は定期的に交換し続けることが当たり前と言うのはたやすい。だが、実際に実施し続けるのはなかなか大変なことだ。
少なくともおさーんはやらかしたし、数ヶ月乗らないなんてことは、冬場や夏場なら普通に誰でも起こりうる。まぁちょっとお金ないから今回は少し油脂類先送りでとか、オイルなんか1年くらい交換せんでもなんとかなるやろとか。まぁどこにでもあるふつうのお話だ。

こうした普通のユーザーの、ごくごく普通の利用状況の実態を鑑み、たとえそうなったとしても、少しでも車両が長持ちするものを、そして性能が維持できるものを。先にあるのはこんなユーザー目線の視点。まずこれがなかなか凄いなと。

そして、極め付きは質問コーナー。客にもならないユーザーに対してもあの対応だ。ありえんよあんなの、聞いたことないもの。
貴重な時間を割いてどれだけ大変なことか。そしてそのおかげでどれだけのユーザーが救われたことか。

うーん、どこまでいってもユーザー目線なんだよな。ホントすごいわ頭が下がる。

おさーんはバイクを買う前からライトアームのサイトで知識を学び、整備をある程度自分で行うことを決意したのもこのサイト。ここまで語りつくせない程本当にお世話になっているが、プロのこうした一貫した愚直な姿勢は本当に頭が下がる思いだ。

なお、残念なことに、ここ最近の質問コーナーに書かれる内容は、過去出てきたものか、マニュアル見ればわかる話ばかり。プロに教えを乞う前に、最低限マニュアルを熟読し、過去記事と質問コーナーを見るのは最低限の礼儀だと思う。ちゃんと過去履歴やサービスマニュアルを熟読すれば、殆どの内容は解決するか、己の知識に対し、いかに無謀なことをしようとしているかのいずれかが分かるだろうと思う。

◆基本性能に立ち返る

性能改善や整備に対する考え方はいろいろあり、純正ノーマルを求める人や各所をどんどん改良していく人など考え方も人ぞれぞれ。どれが良いとか悪いとかという話ではないのは承知のうえで、それでも今回の貴重な経験から思う事。
まずは、車両の基本的な性能を取り戻すための整備が最も重要で、最初に手を付けるべきものかとおさーんは思う。まずは各部の基本性能が元通りに発揮される状態にしたうえで、あとはお好きになんでもどうぞといった感じか。

だが、最終モデルでも既に15年、何もしなくても経年劣化が進むVmaxでは、全てを正常に戻すのは並々ならぬ意志とお金が必要だ。矢田さんは、配線を触ったり曲げたりする際、最近は少し温めてから行うのだそう。いきなり曲げたりすると、劣化し硬化した配線被膜がポキっと折れたりするのだそうな。
そこまで気を配って作業するのかと思ったが、それと同時に、こいつもいよいよそうした旧車になったのかと。既にハーネスやホース類、ゴムものや稼働部の樹脂部品は既に対応年数をとっくに超えているはずだ。おさーんは燃料系、駆動系、制動系のホース類は全て交換済みなのでまだ気が楽だが、それもで残りは沢山ある。これらを全て交換し、元通りに修復するだけでも途方もないことだ。

まだまだ道は遠いよね。