徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:エラリイ・クイーン著、青田勝訳『十日間の不思議』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

2019年08月24日 | 書評ー小説:作者カ行

『十日間の不思議』(1948)はライツヴィルシリーズの第3弾で、エラリイがパリにいた時にしばらく一緒に過ごしたことのあるハワードの依頼でライツヴィルに赴くことになります。ハワードは一時的な記憶の脱落に悩んでおり、その間に自分が何をしでかすか不安であり、医者では解決できなかったのでエラリイに相談し、彼の実家に来て彼を監視してくれるように頼んだのでした。

この作品は解決すべき殺人事件が話の終わりに近づいてから起こるという点で毛色が変わっています。エラリイはハワードの不倫やその不倫をネタにした脅迫問題に深く巻き込まれていき、まんまと陰謀にはまって殺人を未然に防ぐことができなかったという「エラリイ・クイーンの破滅」を描いた物語でもあります。最後に「もう事件には関わらない」と宣言してライツヴィルを後にしますが、もちろん引退などできるわけもなく『九尾の猫』で復活します。

それはそれとして、ハワードの自殺で事件は一件落着であったかのように見えたのに、1年ほど経過した後にエラリイが行き着く真実は大きなどんでん返しでした。

ライツヴィルシリーズは興味深いシリーズですね。第1・2弾ではエラリイ・クイーンは事件を解決したものの、諸事情から公表を避けたために世間的には「失敗」と見なされており、第3弾では世間的には「大成功」と評価されているにもかかわらず、実際には彼はもっと大きなビッグピクチャーを描いたものの手のひらで踊らされていただけでした。

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