徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:佐藤優著、『知性とは何か』(祥伝社新書)

2020年08月11日 | 書評ーその他


audiobook.jp で聴き放題対象になっていたので、商品説明の「反知性主義に対抗するための知性」に惹かれて聴いてみました。

【商品説明】
ナショナリズム、歴史修正主義、国語力低下……日本を蝕む「反知性主義」に負けない強靭な「知性」を身につけるには? いま、日本には「反知性主義」が蔓延している。反知性主義とは、「実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」だ。政治エリートに反知性主義者がいると、日本の国益を損なう恐れがあると、著者は主張する。実際、その動きは安倍政権下で顕著だ。麻生副総理の「ナチスの手口に学べ」発言や、沖縄の基地問題を巡る対応などに、それは現われているといえるだろう。本書では、この反知性主義が日本に与える影響を検証し、反知性主義者に対抗するための「知性」とは何かを考える。あわせて、本当の知性を私たちが身につけるための方法も紹介する。

目次
はじめに 
第1章 日本を席捲する「反知性主義」――安倍政権の漂流 
第2章 歴史と反知性主義――ナショナリズムをどうとらえるか 
第3章 反知性主義に対抗する「知性」とは? (1)言葉の重要性 
第4章 反知性主義に対抗する「知性」とは? (2)反知性主義の存在論と現象論 
第5章 どうすれば反知性主義を克服できるか? 
第6章 知性を身につけるための実践的読書術 
あとがき

基本的に反知性主義者とは事実や論理に基づく議論などできない。なぜなら反知性主義者はまさに実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する者たちだからだ。---というのは納得する以外にはありませんね。しかし、対抗策として学校教育、社会人教育、官僚教育などの場で知性の重要性を説き、考える力を養わせ、知性派を増やして反知性主義者たちをいわば力づくて権力の座から引きずり下ろすというのはおよそ現実的ではないでしょうね。
理由は簡単で、それは人間の本性に反しているから。人間は理性では行動しない。基本的に感情で行動する生き物で、あとから自分の行動を正当化するために理屈を付けたりするものです。
確かに広い視野は重要ですし、思考力を身につけるために外国語を習得するというのももっともなのですが、それなのに、「語学にはお金と時間が必要」と断言してしまっては自ずとその知性にアクセスできる層を限定してしまいます。
本書で紹介されていた語学学習の方法について「単語と文法」を重視するところも違和感を抱かざるを得ません。
興味深い考察でしたが、結局知性を広めたいのか、エリートの特権にとどめておきたいのかよく分からない内容でした。
この本を読んで(聴いて)、少なくとも私は「よし、頑張ろう」という気にはなれませんでした。本来読書好きの私がそう思うのですから、活字離れして、本書でも批判の対象となっているSNS口語短文しか読まない層の心には到底届かないだろうと思いますね。メンタリズム文章術的に言えば、「読者に行動を起こさせる」という文章の目的はまったく達成されていないと言えるでしょう。