「フラットワーク」考 | 馬術稽古研究会

馬術稽古研究会

従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

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  障害や馬場など、馬術競技の規定の経路を繰り返し練習するような運動ではなく、

馬場内を自由に走り回りながら、一つ一つの扶助操作に対する反応を確認し、馬の身体の使い方の質や運動へのモチベーションを高めていくためのトレーニングとしての運動を、

平地での運動、というような意味で  
『フラットワーク』と呼ぶことがあります。


  ある意味では、一般的なレッスンの運動のほとんどはフラットワークである、ということも出来そうですが、

いざ、「自由にやっておいて下さい」などと言われても、
普段部班レッスン中心で各個運動の機会もあまりないような方にとっては、何をどうやったら良いのかわからない、ということも多いのではないかと思います。


  ということで、ここでは、馬の「調子」を良くして気持ちの良い騎乗に繋げることが出来るような「フラットワーク」の方法について、考えてみたいと思います。




・馬に「暖機運転」は必要?

  フラットワークは、本格的な経路練習などの前の「ウォーミングアップ」として行われることも多いと思いますが、


私個人的には、「ウォーミングアップ」というのは、自然の中で暮らす生き物にとっては本来必要のないものなのではないかとも思っています。

  野生の動物が天敵に襲われた場合に、「ちょっと待って、今から準備運動するから」というようなわけにはいかないからです。

  私たち人間がスポーツや仕事などでちょっと力を入れて動いたような場合に怪我をしてしまうのは、
「身体が温まっていない」から、というよりも、

普段あまり身体を動かしていなかったり、
あるいはただ筋肉をつけるための特殊なトレーニングに慣れることで本来の身体の動かし方を忘れてしまっていることによって、
「おかしな身体の使い方をしてしまう」ことが原因であることが多いのではないかと思います。



  同じように馬の場合も、精神的に緊張しやすかったり、休み明けでテンションが上がっているような馬が、変なところに力が入った状態のまま強い運動をしてしまうことで身体を傷めてしまうようなパターンが多い気がします。


  ですから、準備運動として「フラットワーク」を行う際には、

馬の身体が「温まったかどうか」というようなことよりも
「『いい感じ』の時の動き方を思い出してきたかな?」というような観点で、
馬の動きの「質」に着目するようにした方が良いのだろうと思います。



・何を目指すか

   馬を「『いい感じ』の時の状態」に持っていくのがフラットワークの目的だと言っても

やみくもに良かれと思うことをひたすらやれば良いというわけでもありません。

  例えば、頭を下げさせて低伸運動ばかりをやった結果、馬が伸びきってまとまらなくなったり、逆に詰めた運動ばかりをやり過ぎて前に出なくなったり、柔軟性や横方向の動きを軽くした結果、真直性がなくなったり、というように、

あまりに特定の内容を求め過ぎても、かえって全体のバランスを崩して、乗りにくくなってしまうこともあるからです。
 

  特定の動きの練習ではなく、あくまでウォーミングアップとして行うならば、あまり個別の動きの「良さ」を求め過ぎるよりも、その時の、その馬なりのベストなバランスに近づける、というような感じの方が良いのだろうと思います。




  とはいえ、そうした「いい感じ」の状態で運動した経験自体があまりなければ、なかなかイメージも湧きづらいだろうと思います。


  そこでとりあえず、目指す「ゴール」として設定しやすそうなポイントをいくつか挙げてみると、

まずは推進扶助に対して、元気よく軽快に歩いてくれること、

ハミに対する、馬の顎とか首、背中などの緊張や抵抗感がないこと、

背骨や肩甲骨、後肢の可動域が大きくなった感じで、滑らかに動くこと、

側対扶助や脚の単独扶助に対して、スムーズに肩や腰を横方向に転移させてくれて、
旋回や斜め横歩などが楽に出来ること、

ハミにのめらずに、「前の軽い」バランスで停止や下方移行ができ、駈歩発進や継続が楽に出来ること、

といったところになるかと思います。



  こうしたことを、前肢旋回や巻き乗り、低伸運動、下方移行や停止・後退、斜め横歩といった運動を行いながら、一つ一つの動きの質を高めていくようにしていくと良いのではないでしょうか。




・運動時間

  フラットワークにどのくらいの時間が必要か、というのは、始めに跨ったときのその馬の状態とか、何をどこまで求めるのか、といったことによって違ってくるのでしょうが、

上記のような項目を順番に確認しながら馬をほぐしていくだけでも、30~40分くらいはかかるのではないかと思います。


  犬の訓練などでも、あまり長い時間をかけても色々なことを教えようとしてもかえって飽きてしまって、トレーニングの効果下がってしまうと言います。

  馬も動物ですから、集中力が持続するのはやはり、せいぜい一時間くらいではないでしょうか。

  ですから、そのくらいの時間を目安に、短い時間で高い効果を得られるように、運動の内容や順序をある程度頭の中に組み立ておく必要がありそうです。


  

  馬が途中で嫌気をさしてしまわないようにするためには、

騎手のプレッシャーに対し、馬が譲ったら即座に楽になるように工夫して、馬の「気づき」を促すようにすること、

全ての扶助(特に推進)をなるべく短く、軽い力で行うようにして、
馬が痛みでやる気を失ったり、麻痺して鈍くなったりしないようにしてやること、

良い形で終われるように、と頑張り過ぎてかえってマイナスになってしまうこともあるので、あまり求め過ぎないこと、

といったことを心がけると良いのではないかと思います。




 ・「自由常歩」で確認

  フラットワークの途中や最後に「自由常歩」(手綱を伸ばした常歩)をすることは、馬の気分をリラックスさせるとともに、「仕上がり具合」をみるのにも役立ちます。


  普段のレッスンの途中や終わりの自由常歩も、ダラ〜ンとただ「休憩」する感じではなく、

鐙に載ってお尻を軽くして座りながら、なるべく長い手綱でコンタクトを保てるようにして馬に身体を進展させ、目一杯大きな歩幅で歩かせるようなつもりで行ってみると、
騎手にとっても良い練習になると思います。


  練習後の常歩の動きを、馬が気持ち良く動けていたかどうかの「バロメーター」として考えてみると、レッスンでの乗り方も変わってくるかもしれません。


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  普段のレッスンも、馬の調子を整える「フラットワーク」と考えて、こういう馬に対してこういう運動をすると、こんな感じになる、というようなことを、一つずつ覚えていくのもまた面白いものではないかと思います。