「肩から逃げられる」理由と、トレーラーの運転 | 馬術稽古研究会

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従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

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  自動車の運転技術の中でも特に難しいと言われるものの一つに、牽引自動車(トレーラー)での「バック走行」があります。






  たまに街中の建築現場などで、資材を積んだ大型トレーラーが出入りする様子を見かけますが、

普通の大型トラックでも進入が難しいような場所に、長いトレーラーを巧みなハンドル操作で進入させていくドライバーの技術には、感動すら覚えてしまいます。


  トレーラーでのバック走行が難しいのは、普通のトラックなどとは「逆に」ハンドルを切るような操作になるために、混乱してしまいやすいからです。

  普通の乗用車やトラックでバックする場合は、ハンドルを曲がりたい方向へと切ってやれば、後部を行きたい方向へ向けることが出来ます。


  しかしトレーラーの場合、台車の後端を行きたい方向へ進ませるためには、
自分が運転しているトレーラーヘッドと台車との「継ぎ目」の部分を折り曲げて台車の向きを変えてやる必要があり、



その際、トレーラーヘッドの後端を台車を進ませたい方向とは逆方向へ向けるために、一旦、台車の後端を向けたい方向とは「逆の方向」にハンドルを切ることになるのです。




 さらに、そのままでは「継ぎ目」の部分の折れ角が大きくなり過ぎて転倒してしまったりすることになるので、

ある程度台車の向きが変わったところでまたハンドルを反対方向に切り、トレーラーヘッドの向きを台車の向きに揃えていく必要があります。

  このあたりの、継ぎ目部分の折れ具合の調整や操作のタイミングの感覚を身につけるには、やはりたくさんの経験と「慣れ」が必要になるのだろうと思います。





  このような、「曲がりたい方向とは反対方向にハンドルを切る」ような操作を求められることで混乱してしまう状況というのは、

乗馬の騎乗中においてもしばしば起こるものではないかと思います。

  たとえば、蹄跡から内側へ方向転換して巻き乗りをしようとしたり、障害飛越の際、次の障害に向かって馬を回転させようとするような場合に、

一所懸命手綱を引っ張って馬の顔を曲がりたい方向に向けても、思うように曲がってくれなかったりすることがよくあります。

そのようなとき、指導者から「外方の手綱をもっとしっかり張って!」というようなことを言われることも多いだろうと思いますが、

曲がりたい方向と反対側の手綱を引っ張る、ということの意味が感覚的に理解出来ず、悩んでしまったりした経験のある方も多いのではないでしょうか。


そんな時には、馬の身体の中で「バック走行するトレーラー」と似たような状況が起こっている、というように考えてみると理解しやすいかもしれません。


  トレーラーのバック走行では、トレーラーヘッドが台車を押していくような形で進んでいきますが、

馬が前進する時も、推進力は後肢の動きによって発生します。

 すなわち、トレーラーヘッドにあたる「馬の後ろ肢を含めた胴体部分」が、トレーラーの台車にあたる「ハミを含めた首の付け根から前の部分」を押して進むような形になっている、というように考えることが出来ます。
  

  トレーラーがバックで車庫入れする時に、継ぎ目の部分が折れ曲がり過ぎて上手く進入出来なくなってしまうのと同じように、

馬の首と肩との継ぎ目部分が折れ過ぎて、前肢の進出がハミの方向に向かわなくなってしまうと、顔を向けた方向へ進ませることが出来なくなって、「肩から逃げられて」ししまうわけです。


  馬体の「継ぎ目の折れ過ぎ」を防ぐためには、内方の手綱を使うときに無意識に上体を内向きに捻じってしまわないように意識して、外方の手綱の張りを保ちながら首の付け根に添わせ、肩が外方へ張り出すのを抑制する必要があります。

  また回転時に内方脚を使うのも、トレーラーのハンドルを切って折れ過ぎを修正するのと同じようなものとして考えると、理解しやすいかもしれません。


  これが、曲がるのに「逆の手綱を引け」とか、「内側の脚を使え」と言われて混乱してしまったりする理ではないかと考えられます。


もちろん、馬とトレーラーではその構造も異なり、「逆ハンドル」の操作の意味も、厳密には違うわけですが

何度も練習を繰り返して経験を積んで、「行きたい方向とは逆方向の操作」が直感的に自然に行えるくらいになることが大切だという意味では

共通するところがあるような気がします。