乗馬を習いはじめた頃、軽速歩の動作を馬の動きのリズムになかなか合わせることが出来ずに苦労した、
というような方もいらっしゃるのではないかと思います。
そんな時にはちょっと落ち込んで、
「自分は音痴で」「どうもリズム感がなくて」というように仰る方も多いのですが、
確かに、ピアノやダンスなど、音楽的なことをある程度経験されているような方というのは、乗馬の上達もなんとなく早いような気がしますし、
初心者と上級者で、身体の使い方の「細かさ」に明らかな違いが見られる、という点でも、楽器の演奏に似たような所があるように思います。
例えば、乗馬のごく初心者の方などに拳や腰を随伴させる練習をしてもらうと、馬の常歩の一歩一歩のリズムに身体の動きが追いつかず、「二歩に一回」になってしまったり、手と腰の動きが同時になってしまったりすることがよくあります。
これは音楽で言えば、例えば小さな子どもとプロの演奏家とで、一小節の間に入れることの出来る音符の数が大きく異なる、というのと同じようなものだと言えるかもしれません。
カラオケで歌うような場合にも、不慣れな人は歌詞を追うだけでやっとなのに対して、
上手な人では、「コブシ」や「ビブラート」といった高度なテクニックを駆使して歌詞の一つ一つの文字の中にも細かな抑揚や音階の変化をつけながら、繊細なメロディラインを完成させることできます。
最近気づいたことですが、声を出して歌うような時、頭の中でピアノを弾いているようなつもりで指を動かしたりしながら楽譜の一つ一つの音符を追うような感じで音を出していくと、ちょっと難しい感じの歌でもなんとなく上手く歌えるような気がします。
これは、短い音を出しやすい特徴をもつピアノという楽器を弾く時の動きをイメージすることで、
ただなんとなく歌詞の文字をなぞった場合よりも、一文字の中にも音階の変化をつけるような細かな身体の働きが出やすくなるからではないかと考えられます。
乗馬でも、初心者の方では出来る動きの種類が少なく、単調な前後の動きや上体の回転だけなのに対して、
上手な人では、身体を割る(各部を分離独立させる)ことで、身体の各パーツを前後、上下、左右といった多方向に同時並列で動かすことで、一歩一歩の馬の動きの大きさや方向の変化に柔軟に対応し、馬の動きに一致した随伴を実現しています。
初めに習った「基本の」動きのまま、馬に言うこと聞かせることばかりに執着するのではなく、
音楽家が一小節の中にたくさんの音符を入れて複雑なメロディを表現するように、
一つ一つの動きの中に精緻な調整を加えられるようになることで、馬の複雑な動きと真に調和した気持ちの良い運動を実現する、
そんなことを目指して、身体の動きを工夫すること自体を楽しんでみるというのも、
ある意味で最も豊かな乗馬の楽しみ方だと言えるのではないか、というように思います。