ナピとニップ/オクスフォード 世界の民話と伝説3 アメリカ編/渡辺 茂雄・訳/講談社/1973年改訂
大平原のバッファローがとつぜん姿を消してしまいました。
酋長がみんなにバッファローを探させますが、一ぴきも見つかりません。
バッファローは食料になるばかりでなく、皮で きものとテントを作り、食事に使う器や矢じり、針などをつくる大切なもの。
酋長の息子ナピは、酋長に一生懸命たのみこんで一人でバッファローを捜しに出かけます。
大平原のはしで、ニップはひとりの男にであいます。男のなまえはナビといいましたが、器の水にうつる様子でバッファローの群れが走っていったのを知っていました。
ナビは、バッファローの群れをさらっていったのは魔法の力を持ったオニで、力が強いだけでなく、矢もナイフも役にたたないといいます。しかし知恵でバファローを取り戻すことができるかもしれないと、ナビは白い子イヌ、ニップは一本の杖にかわってバッファローの群れをさがしにいきます。
やがて白イヌはバッファロー泥棒のおかみさんと男の子の家につきます。子どもが犬を飼いたいといいだし、杖は木の根っこを掘り出すのに便利だと、おかみさんが家に入れると、バッファロー泥棒は、犬を追い出せと怒鳴ります。
しかし、おかみさんはイヌの毛で帽子を作るまでといい、ほっぽりださせません。
バッファローの肉で晩ごはんをたべはじめると、子どもは白イヌにも肉を食べさせました。するとバッファロー泥棒は杖を白イヌをふりおろし、追い出そうとします。ここでも、おかみさんは毛を切ってからにしておくれと、とりなしました。
次の日、おかみさんは木の根っこを掘って、グツグツにようと、杖をもって森のなかにでかけていきました。子どもも白イヌといっしょについていきました。
山の中腹にあるほら穴にさしかかると、白イヌはバッファローの角がでているのに気がつきます。おかみさんと子どもが野イチゴを摘むのに夢中になっているとき、白イヌと杖は、元の姿になりほら穴にはいってみました。そこには何百頭、何千頭というバッファローがいました。ナビは今度は大イヌにすがたをかえ、バッファローの群れをほら穴のおくに誘導します。ほら穴をすすむと、反対側の出口にやってきました。そこは大平原の真ん中でした。
バッファロー泥棒の大男が、バッファローと白い小イヌを追いかけますが、暴れまわったバッファローの角につっかけられて、気が遠くなってしまいます。
もどってきたバッファローを見たニップの村の人が盛大なお祭りをしているところに、大きな灰色の鳥にすがたをかえたバッファロー泥棒が復讐にやってきます。灰色の鳥が翼をばたつかせ、気味の悪い声でなくと、バッファローたちは、囲いにはいろうとせず、さらにインディアンたちに向かってきました。インディアンたちが灰色の鳥に矢を射かけてもナイフで切りつけても、はがたちません。
ナビはカワウソにすがたをかえ、おなかをすかした灰色の鳥がカワウソをつつくと、ナビは灰色の鳥の足を捕まえ、酋長のテントのけむりあなに逆さにつりさげます。
けむりが、バッファロー泥棒の目に、遠慮なくしみこむと、のどがむせ、羽は黒くなりさんざんなめにあいます。ののしり声がだんだん小さくなり、しまいには泣き声にかわって「はなしてくれ、おねがいだ。おねがいです。はなしてください。うちのおかみさん、むすこが飢え死にしてしまう。」と、大声でなきだしました。
ナビは、おかみさんのために灰色の鳥の足を縛ったつなをとき、二度とバッファロー泥棒をしないように約束させて、解放します。
この話では誰も死ぬことはありません。
「いったい、どこへ行って、なにをしてきたんだい?」とおかみさんからきかれ「べつに、なんていうこともないさ」と、つまらなそうにこたえるバッファロー泥棒が気の毒になりました。
ところで、このバッファロー泥棒は、はじめオニとされていますが、そのごオニという表現は出てきません。魔法の力をもっているのに、灰色の鳥に姿を変えるため、わざわざ魔法使いのおばさんに頼むところがでてきたりするので、つかみどころがありません。
酋長の息子ニップが、杖になって泥棒を追いかけるというのは、これまであまりないパターンです。