(2020年6月3日 加筆修正)

今回紹介するのは、2000年に発売された小松未歩の3rd album「小松未歩 3rd ~everywhere~(wikipediaに飛びます)」。

1. 最短距離で
「氷の上に立つように」がヒットしたものの、その次のシングル「さよならのかけら」が(売り上げ的に)ずっこけた、さらにその後のニューシングル。この曲もそこまで売れてなかった記憶があります。

しかし、小松未歩は「謎」~「氷の上に立つように」までのヒットシングル作も素晴らしいんだけど、小松未歩の音楽性が面白くなってきたのは、この「最短距離で」の前後だったのではと思う。この時期から、耳心地の良い音楽を心掛けつつ、自分自身が表現したい世界感により重点を当て始めている気がします。

小松のシングルには珍しくアップテンポで、曲の流れは比較的シンプルだが、2番サビ終わりの間奏の音の流れが複雑かつ軽快で楽しいです。

ちなみにこの曲には、小松自身の性格でもある「素直に気持ちを伝えたいけど実際は言えない」という現状が描かれているそうです。

2. BEAUTIFUL LIFE
小松の楽曲の中で五本指に入るほどの名曲。アルバム曲ながらテレビ番組のテーマソングにも用いられていました。

シンプルな音の運びの中に個性を入れ込むというスタンスで挑む小松の真骨頂ともいえる楽曲。

全体としてウエディングソングのような幸せな調子がある中で、「生きていればあきらめることとかあるから」というリアルな言葉をはめ込むセンスが素晴らしい。

そして「朝日に輝く街は 愛や笑顔をたくさん齎してる」という希望で終わる曲の流れも好きです。
ハッピーな曲はハッピーに、悲しい曲はとことん悲しく、という小松のスタンスが表われている一曲。

3. As
未だに、この曲のタイトルがAsである意味がよくわからないのだが、曲のタイトル同様、歌詞も簡単には紐解けない内容となっている。

曲の内容を簡潔にまとめると、「自分探しをしてみたんだけれども、よくわからなくて、でもそういう概念に縛られなくなった時に自由になれたよ。人の言うことじゃなくて、自分の目標を持って生きていこうね」という感じ。

このまとめをある意味さらに簡潔に表しているのが「主流から逸れる孤独と痛手は正直つらいけど夢があるから」という言葉。

「自分の生き方変えてみたくて飛び出したけれどもつれただけで」という言葉は、当時小学生だった自分にもひどく沁みた記憶がある。本当の存在として生きることって何なんだろう、と切々と考えた時期を思い出す。

ちなみにこの曲はピアノカバーをしていて、記事の中でAsという言葉に関して改めて考察しています。

4. 風がそよぐ場所
この曲はいつ聞いても、小学生時代の、あの頃にしか感じられないような鋭敏な感覚を刺激された記憶を、断片的に思い出させられる。「この曲の中の世界は一体なんなんだろう」とわくわくした記憶を、その感覚じたいは全く想起できないんだけれど、思い出すことができる。

それにしても、「辞書にはない幸せの意味選べば 明日はきっと流れが変わる 笑顔に戻れる」という歌詞を、その意味がわからない小学生ながら聞いていたんだなあと思うと、今よりもあの頃の方が素敵な芸術体験をしていたんだなあと思ったりする。

当時から思っていたのだけれど、1番の「都会はいやだ、緑が生き生きとした素晴らしい星が素晴らしい」というような、京都議定書を意識したようなエコな歌詞と裏腹に、2番の印象が驚くほど現実的なところが、今になって特に、彼女が優れた感性を持っていたのだなあと思わされるポイントでもある。

「生まれたままで褒められるくらいなら 悩みなんかないわ バラ色ね人生は 頭がまわりすぎて つい口を閉ざしちゃう こんな暗い顔じゃ自滅するだけね 辞書にはない幸せの意味選べば 明日はきっと流れが変わる 笑顔に戻れる 向き合うことほんの少し勇気だせれば呼応する いつか滅びゆく日がきても じたばたしない」。

そういえばこの曲がつくられた1999年はノストラダムスの大予言で賑わっていたのを思い出します。

5. sickness
Billy JoelのDon't Ask Me Whyに酷似しているという楽曲だが、原曲と比べると明らかにオマージュとなっている。

Billy Joelで遊んでしまうところに、彼女の音楽が好きな気持ちを強く感じる。

6. No time to fall
変な曲だし、すごい暗い。でもそこが、なんというか、すごい癖があるんだけど時々食べたくなるおつまみみたいな感じ。

割と平坦な彼女の声が「こんなに苦しいならいっそ殺して ねぇ」と言うインパクトが結構衝撃だった。

7. Holding, Holding on
隠れた名曲。言葉遣いと、ポップな曲なのに深みがある歌詞がすごく好き。

「神様って子ども その日の気分次第 乗せたり落としたり いくつも試練お与えになる」
「君は君の最大の敵でもあると知ってる 栄華と衰退は制御不可能だけど 新しい時代の幕は今切って落とされた」
「ノイジーな噂は子守歌にかわる」
「生まれ落ちた理由など もう気にせず 先を急ごう」
「みぐるみ剥がされたって ハートは熱いから」

ありそうなんだけど、こんな言葉他では聞いたことないよ、という歌詞感が、彼女が今でも自分に影響を与えている理由の一つだと思う。

8. BOY FRIEND
初期の勢いを感じつつも、どこか迷いを感じる一曲。

9. さよならのかけら
隠れた名曲の一つ。

過去の楽曲と比べてインパクトは少ないものの、「さよならのかけら」というタイトルの唯一無二のセンスや、他の楽曲同様、比類ない歌詞のセンスは、脱帽と言えば言い過ぎであるが、彼女の芸術家としての意思の強さを感じさせられる。

「何故君は行くの ひずんだ僕の声」
「この町の出会いと別れは コインで決めるほど簡単なの」
「ドアの外で 凍えそうで 何も感じなくして」

正直、テレサ・テンが歌うのであれば「そうだろうなあ」と感じるような歌を、小松未歩が歌うというところがまた面白い。

最後の最後にもう一度「何故君は行くの ひずんだ僕の声」と体言止めで繰り返すのも良い。

10. 夢と現実の狭間
今でもそうであるが、当時も夜眠ることが苦手だった自分の子守歌として、この曲を聴きながら寝ていた記憶がある。

当時の自分としては単純にこの曲の優しいメロディーを享受していたのだけれど、この曲は小松未歩の根底に流れている、人生における絶望と、それがいつだって克服できるという希望が特に強く歌われている。

「息が詰まりそうな闇がこの世を覆い隠しても 怖くないよ 明けない夜なんてないこと 気づけたから」

11. 雨が降る度に
この曲は、単純と言えばとても単純な曲で、聴く人が聴けば「つまらない」と感じるであろう。自分もはじめて聴いた時に、「なんでこの曲がアルバムの最後なんだろう」と思っていた。

しかし、この曲のメロディーの面白さと、歌詞の非現実的な世界観を理解した時に、やはり小松未歩が、彼女の音楽的な技量は別として、芸術をいつだって求めていたのではないかと考えるようになった。

この曲では彼女の桃源郷が表現されているのだろう。しかもその桃源郷は、決して非現実的な桃源郷ではない。

この我々が生きる世界で、ふつうに生きていれば手に入れられるような桃源郷である。

「4/4の季節はゆっくり過ぎてく スクリーンに映る影は 時に私だったり」

いつか、そんな風に生きていたいな、という理想がこの曲にはあるなあと、しみじみ感じている。


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