佐藤春夫『田園の憂鬱』(新潮文庫)


そもそもなぜ佐藤春夫に興味を持ったのかというと、
谷崎潤一郎が最初の妻・千代を佐藤春夫に譲る、という近現代文学史上まれにみるスキャンダラスな事件の中心人物だからです。
ゴシップ好きかよ。笑


千代は谷崎との夫婦仲に悩んでいたのですが、相談相手だった佐藤春夫が千代のことを好きになってしまい、谷崎も千代に物足りなさを感じていたので「譲る」という表現でこの事件は語られています。
谷崎のクセの強さが目立ちますね……。笑


佐藤春夫は千代への同情がいつのまにか恋心に変わっていったという点では素直で純粋な心の持ち主のように感じます。
佐藤春夫の代表作とされる本作も、そうした純粋な心がよくあらわれているように感じました。


『田園の憂鬱』は著者が27歳の時に書き上げた中編小説。


もともと東京住まいであった夫婦が自然あふれる郊外に移り住むことを決め、田園での暮らしを満喫しようとする物語です。


満喫「しようとする」というところがポイントで、彼らは騒がしい都会を離れ、自然に触れて落ち着いた生活をしようと思うのですが、暮らしていくうちに思い通りにならない出来事が続き、思い描いていた理想の暮らしが整わないまま徐々に心が病んでゆくさまが描かれています。


彼らにとって田舎暮らしは念願叶った暮らしのはずでした。
夫である「彼」は心の落ち着きと深い眠りを求めて、妻は東京にいる夫の愛人から離れることで心のわずらわしさから逃れられることを期待して、2匹の犬を連れて田舎へ移り住んだのでした。


しかし彼らの期待ははじめからややくじかれます。
借りる予定の一軒家は荒れ果て、人の手が入らないまま長年放置されていた家の中はどこもかしこもすすけていて、庭には木々が乱雑に生い茂り日差しがさえぎられ、どうにも不穏な空気がたちこめているのです。


田舎暮らしの現実に彼らは圧倒されますが、不穏な気持ちをなんとかこらえて家を整えていきます。


「彼」は想像をたくましくしながら庭仕事にはげみますが、長年放置された庭の手入れはなかなかに大変で、「彼」は自然のたくましさを実感し、畏れのような気持ちも抱きます。


そして「彼」は木陰にひそむ薔薇の木をみつけます。
枝はひょろひょろと頼りなく、いまにも朽ちてしまいそうな様子をみた「彼」は、この薔薇に陽の光をあてようと苦心します。


「彼」は薔薇を「自分の花」と口にするほどに気に入っており、たよりなく植わっている姿に自分の行く末を占いたい気持ちにもなり、この薔薇の花をどうにかして開かせたいと思うようになります。


そうして「彼」は庭仕事に精を出すことでこころよい日々を過ごします。庭仕事のおかげで熟睡することもでき、田舎暮らしにようやく楽しさを見出すのでした。


しかしそんな日々はいつまでも続きません。
しばらくすると単調な日々に飽き、長雨も降りはじめ、気持ちがどんどん沈んでいきます……。


東京の暮らしに嫌気がさして移住したものの、田舎暮らしに慣れれば刺激が欲しくなり、もともと派手なこと好きな妻も東京を恋しがります。


さらに近所の住民から2匹の犬を放し飼いにしていることで苦情があったり、お風呂を貸してもらう家で同じ話を延々と聞かされたりと田舎暮らしでも気を揉む場面があり、安住の地を求めて移住したはずの「彼」は次第に追い詰められ、眠れぬ日が増えていくのでした……。


この物語を読んでまず思ったことは……田舎暮らしの上手くいかなさ、“洗礼”とも言えそうな描写がとことんリアルだなということです。笑


ふるさとが田舎のわたしは、この物語の田園風景の描写に懐かしい気持ちになりながら、都会に嫌気がさして移住したものの田舎にだんだん飽きてくる登場人物の心情にも共感しながらこの物語を読みました。


この物語で見えてくるのは、田舎への憧れ、都会での気を揉む日々から逃れたいという一心で移住した夫婦の浅はかさです。
彼らの移住理由はそれなりに切実なものですが、田舎で暮らすということの現実をあまり見ようとせず、実際に移住してからも「彼」は詩や空想に逃げ、現実の生活に向き合おうとしないのです。


一緒についてきた妻も同じく、田舎暮らしに腰を据えるどころか東京が恋しくなり一時的に「帰省」してしまう始末で、夫婦の若さ・未熟さも垣間見えます。退屈さにこらえ切れないところに特に「若さ」を感じます。わたしも刺激的な都会に強く憧れていたので、よくわかるわぁ……笑


田舎暮らしにあこがれる人にとっては打ちのめされるような物語内容ですが、田舎の寂しさが克明に描かれていると思いますし、「憂鬱を晴らす」目的だけでなく、どう暮らすのか、現実的で具体的な計画を立てないと都会で暮らしているのと変わらなくなってしまうよ、というような教訓譚として読むことのできる力作ではないかと思います。


そして、「憂鬱」というものはその場から逃げたところで晴れないんですよね。
場所を変えても、自分の心の向き合い方が変わらなければ「憂鬱」はいつまでもついてくる、ということもこの物語では示唆的に描かれていて、自分の心の鍛錬の大切さが改めて身に染みた作品でもありました。
最後の薔薇の描写が痛ましかったなぁ……。


ちなみに、佐藤春夫が谷崎潤一郎と出会うのは『田園の憂鬱』から数年後のこと。
デリケートな心が谷崎によってどれだけ揺さぶられたか……と思うとさらに痛ましい気持ちと野次馬的な気持ちの両方が湧くのでした。。笑


佐藤春夫は『田園の憂鬱』のスピンオフ?作品として『都会の憂鬱』という作品も出しているのでこちらも読んでみます!
あらすじはだいたい想像できますが笑、どのような物語なのか楽しみです!
それではまた更新します!


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