垣根涼介『午前三時のルースター』(文春文庫)を読みました。
やざまん@小説好きサラリーマン@yazaman_book
以前、ささかわまりなさん@mrn123mrn がオススメされていたのをキッカケに読みました！ドンピシャで好きなジャンルでした。#note #読書の秋2020 https://t.co/P5IWEpv3VD
2020年11月25日 20:42
（ワイルド・ソウルもおすすめ！ぜひチェックしてみてください）
『午前三時のルースター』は、垣根涼介さんのデビュー作。
ベトナムの首都・サイゴン（現ホーチミン）を舞台に繰り広げられるエンタメミステリー作品です。
主人公は旅行代理店に勤める長瀬。
彼は大口顧客である宝飾メーカーの社長から、16歳の孫のベトナム旅行の添乗員として頼まれます。
なぜ行き先がベトナムなのかというと、4年前にそこで父親が行方をくらましてしまったから。
決死の捜索も手がかりは見つからず、父親は亡くなってしまったのだろうとされているのですが、孫の慎一郎だけはどうしても諦めきれないのでした。
長瀬は旅行前に慎一郎と顔合わせをし、旅行の真意について改めて問いかけます。
社長からは「父親の面影を追う感傷旅行だ」と聞かされていましたが、慎一郎はビデオテープを取り出し、父親は生きており、ビデオにその証拠が映っていると言うのです。
気楽な家族旅行のつきそいと思いきや、きな臭い方向に進んでゆくベトナム旅行。
ひょんなことから長瀬の友人・源内も仲間に加わり、いざ「父親捜し」の旅へ出かけるのですが、到着直後から長瀬の手配した予約が誰かによってすべてキャンセルされており、そこから数々の波乱が幕を開けるのです……。
映画のようなスリル満点のミステリ展開にベトナムという別世界の雰囲気が重なり、物語世界にグンと引き込まれました。
やたら車の描写に凝っていたりカーチェイスのシーンがあったりするのは車好きな垣根さんらしいなと思いつつ(笑)、登場人物たちの物語だけでなく、国の情勢に振り回される現地の人々の暮らしぶりにもフォーカスし、彼らの想像以上の労苦を垣間見させる筆力に唸らされました（これがデビュー作だなんて……！！）。
この物語は「父親捜し」というミステリーの大筋がありながら、登場人物たちに自分の人生の在り方を問わせる物語展開をたどっており、ミステリーのジェットコースターに楽しく乗っていたところに「あなたはどう思う？」と読者にいきなり突きつけてくるような鋭さもありました。
こうして垣根作品をいくつか手に取ってみると、作品に共通するものがうっすらと浮かんできます。
それは「エンタメ性」と「人生の見つめ直し」です。
垣根作品に欠かせないのは、まず読むものの心をつかんで離さないエンタメ性。
スピード感あふれるミステリー描写や登場人物たちの人情劇・恋物語などのわかりやすい物語展開が必ずどこかに仕掛けられていて、世界観に簡単に引き込まれてしまいます。
そして物語世界に深みを持たせる「人生の見つめ直し」というテーマを投げ込むことで、物語から簡単に抜け出せなくなります。
「登場人物たちのような勇気があれば」
「彼らみたいに自由でありたい」
そんな願望を見透かすように、垣根作品は「あなたの生き方はこのままで良いのか？」というような問いかけをしてくるのです。
『午前三時のルースター』も、最終部で「人生の見つめ直し」を突きつけられる場面が描かれます。
16歳にして自分の人生の見つめ直しを迫られる少年・慎一郎の決断には胸を打たれ、彼の年齢以上に成熟した心を痛ましく感じたのでした……。
また、垣根作品の特徴としてもうひとつ挙げられるのは「きれいごと」が描かれないことです。
理不尽な環境下に歯を食いしばって生き抜く人、周りに振り回されボロボロになりながらも自分の人生を貫こうとする人など、垣根作品には泥臭く生きる人々の息遣いが克明に描かれています。
そうした人々の懸命な努力の描写に惹かれるから、決して明るい話でなくてもわたしは何度でも垣根作品を手に取るのだろうと思いました。
久しぶりの垣根作品はやっぱりとても素晴らしい読みごたえでした。
他の作品もどんどん手にしていこうと思います。
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