晴れ、ときどき映画三昧

「慕情」(55・米)70点

 

 ・ 香港を舞台にしたJ・ジョーンズの代表作となった悲恋ドラマ


 1949年の香港を舞台に英国人の父と中国人の母のハーフで女医とアメリカの新聞社特派員との悲恋物語。ハン・スーインの自伝的小説をもとにジョン・パトリックが脚本化、監督は「頭上の敵機」(49)、「拳銃王」(50)のヘンリー・キング。サミー・フェイン作曲ナット・キング・コールの主題歌があまりにも有名でオスカー歌曲賞を受賞、A・ウィリアムスなどによってスタンダード曲となっている。

 悲恋映画といえばマーヴィン・ルロイ監督ビビアン・リー主演「哀愁」(40)、<ラフマニノフピアノ協奏曲>が流れるデヴィッド・リーン監督「逢いびき」(45)、邦画では菊田一夫原作・岸惠子主演「君の名は」三部作(53/54)などが思い浮かぶ。

 何れも時代背景とその地域、テーマ曲が印象的なものだが、本作では政情不安な香港が舞台に繰り広げられる。マッカーシズム(’50年代前半)の余韻が残っていたハリウッドでは、国民政府が中国共産党に敗れ香港に逃亡してきた難民の悲惨な姿を描き、終盤朝鮮戦争をさりげなく取り入れた反共映画のテイストとなっている。

 ヒロインのハン・スーインを演じたのは聖処女(43)でオスカー・主演女優賞を受賞したジェニファー・ジョーンズ。その後「黄昏」(51)、「終着駅」(53)などメロドラマのヒロインとして着実にスターの地位を築いていく。
 本作では中国人の夫が戦死して香港へ逃れ、医療へ献身しているヒロイン役。チャイナドレス、水着、ドレスを見事に着こなしファッション・モデル並みのスタイルを披露。妻帯者の米国人特派員との恋に身を捧げ戦争で引き離される悲恋物語のヒロインを魅力たっぷりに演じている。

 アメリカの特派員マーク・エリオットに扮したのは「第十七捕虜収容所」(53)のオスカー俳優ウィリアム・ホールデン。大スターだが本作では受けの演技に徹している。

 ふたりは同世代で初共演、ラブシーンが多い悲恋ドラマなのに仲が悪かったとのこと。W・ホールデンが撮影終了後白バラの花束を贈ったが、J・ジョーンズは受け取らなかったとか。
晩年共演した「タワーリング・インフェルノ」(74)でも口を聞かなかった程なので、真実は藪の中だが相当根が深そう。
だが本作では微塵も感じさせないのは流石大スター同士の競演だ。

 古典的で陳腐な不倫ドラマという評価もあるが、ビクトリア・ピーク、レパレス・ベイなど情緒溢れる香港の美しい風景、小高い丘に立つ一本の木、占い・迷信などの因習、手紙・翡翠などの小道具などがふたりの悲恋を引立て盛り上げる描写はその後のお手本にもなっている。

 現在、一国二制度の香港が揺れている。 改めて本作を観ると政治に翻弄される人々を思わずにはいられない。
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