猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

空を拾う毛糸屋さん

いつか

空が見たことのない赤に染まって

雨でも雪でもなく

空そのものが私たちの上に降りそそぐ

 

いつか

それはやみ

いつかまた

それは始まり

 

続いてはおさまり

おさまっては始まる

空自身が呼吸することを思いだすまで

 

猫たちの間でささやかれていたことが

ひと通りほんとうになって

しばらくたちました

 

空落ちと呼ばれる

この星特有の気象現象なのですが

あまりにも長いこと起こらなかったので

昔は

空は猫が落とすものだという噂まであったほどです

 

そんなことあるわけないのですが

 

さて

よくよく晴れた朝はやく

毛糸屋さんは散歩に出かけました

雲をよむ人らにも内緒の

お気に入りの水辺です

 

青い青い空がなみなみと映し出されていて

毛糸屋さんはしっぽをパタパタ

やがて

まあるい手でそっと青に触れました

 

一瞬だけ青がゆらゆらして

それからまた静かになりました

 

毛糸屋さんの手には

小さな小さな落ち空とも言えないほどの

本当に小さな粒がいくつかのっています

 

空を落とす方法は忘れても

空をつかまえることができてしまう

それを嬉しいとも悲しいとも感じたことはありません

 

宇宙が続く限りどこかで空は落ちるでしょうし

どこかで空は水を染め上げるでしょうから

 

毛糸屋さんは青い粒を

持ってきた布に丁寧に包むと

もと来た道を戻っていきました

 

トーザ・カロットの岬には

誰かの涙を思い出させるようなやさしい風が吹いているのです

 

 

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