おまえさん 待ってたよ
秋の野原で 声がする
廓の中で 病死した
おみなという名の十六歳
投げ込み寺から 抜け出して
丑三つ時に 待ち合わせ
廓に出入りの 絵草紙屋
商い上手の 色おとこ
女郎を弄う不実さに
気づかず芽生えた 一途な恋
おみなと交わす目配せは
秋の暮れ六つ 廓抜け
半殺しにされ オトコエシ
懲罰酷使の オミナエシ
いつの頃から語られし
男と女（おみな）の物語
男郎花も 女郎花も
花の風情は 幸薄く
死してなお恋う おみなえし
生きてさまよう おとこえし
逢瀬の場所は 吉原の
田んぼに続く 荒れ野原
すすきの丈に隠れ待つ
おみなが導く 絵草紙屋
おまえさん つれないねえ
毎夜抜け出し 待つ身には
たまの逢瀬も 怨み節
だけど嬉しい おまえさん
白装束が風に舞い
しなだれかかる 妖しさよ
丑三つ時の 新開地
不夜城にうごめく人の群れ
時は移れど 変わらぬは
人を狂わす情念と
振袖火事のような悲話
ゆめ忘れまじ 花の秘話
（『男と女の物語』2012/12/11 より再掲）
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