生産緑地の相続税納税猶予は利用しない方が良いって本当? | 株式会社鎌倉鑑定ブログ

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生産緑地のメリット

農家である実家の父親が亡くなり、相続財産の中に生産緑地があった場合、どのように対処すべきであろうか。

生産緑地を活かした農業継続を前提に考察してみる。

 

固定資産税について

生産緑地の利点は何と言っても毎年の固定資産税が低額であることである。

三大都市圏特定市で生産緑地の指定を受けていない市街化区域農地(宅地化農地)と比較すると、固定資産税は何百分の一という低さである。

農業後継者がいれば、迷わず継続することになる。

 

相続税について

問題は相続税である。

相続税法上生産緑地は市街地農地に分類され、宅地比準方式(又は倍率方式)で評価し、評価額は、(宅地であるとした場合の価格/㎡-宅地造成費額/)×地積 で求める。

被相続人の多くが主たる従事者であることから買取申出可能地として5%の減額があるとは言え、三大都市圏の市街化区域に所在しているので評価額はかなり高額になりがちである。

現金等で即納できる農家はほとんどないであろう。

 

現金化できそうな宅地や農地があれば売却して納税資金に充当することも考えられる。

しかし仮に立地条件に恵まれた土地があっても面積や地形等からすぐに売却できる保証もない。

申告期限までに売買が成立しそうにない場合には、とりあえず物納を申請し、取引が成立したら物納申請を取り下げて売却代金で納税するという手もある。

但しこの場合年7.3%という高い利子税を覚悟しておく必要がある。

 

相続税の納税猶予制度

そこで考えられるのは、相続税の納税猶予制度の利用である。

この制度は、通常評価による相続税額から農業投資価格で計算した相続税額を控除した残額について納税を猶予するものである。

つまり申告期限までに低い農業投資価格で計算した相続税額を収めれば済むことになる。

 

利用開始時の条件

もちろん制度を利用するにあたっては条件がある。

①被相続人が死亡の日まで農業を営んでいた個人であること(小作農地の所有者は除かれる)

②申告期限までに円満に農地を取得して営農を開始し、農業委員会から「相続税の納税猶予に関する適格者証明書」が交付されること。

③遺言書又は遺産分割協議書を添えて申告期限内に相続税申告書と担保を提供すること。

 

利用継続の条件

このような条件を充たしたとしても、納税猶予については留意すべき点がいくつかある。

①3年毎に、継続して農業経営を行っている旨の証明書(農業委員会発行)と農業経営に関する明細書を添えて、相続税納税猶予の継続届出書を所轄税務署長宛て提出しなければならない。

②猶予額を免除(納めなくて済む)してもらうためには、終生営農が条件である。この終生営農を達成するためには、更に次世代の後継者がスタンバイしていないと難しい。

 

営農を止めた場合のペナルティ

万一何らかの事情で亡くなる前に営農を止めた場合には、原則として猶予税額全額にそれまでの利子税を加え一括して2ヶ月以内に納付しなければならない。

仮に10年経過して営農を廃止し、土地の売却収入によって一括納付する場合、譲渡所得税分も考慮すると猶予額の1.6倍程度の価値がある土地を用意する必要がある。

30年間の営農により生産緑地は解除できるが、相続税納税猶予額が免除される訳では無いことに注意しなければならない。

農地貸付による納税猶予の継続適用

厳しいことばかり書いたが、人口減少時代に入った今日、農業に限らず事業の承継が困難になっている。

生産緑地で納税猶予を受けた後継者にも、営農を継続し易いように道が広げられている。

 

特定農地貸付法に加えて都市農地貸借円滑化法が制定され、これらの規定に基づいて貸付られた農地にも納税猶予の継続適用が認められることとなった。

つまり、生産緑地の相続人が市民農園やNPO法人, 民間企業等に貸し出しても納税猶予が打ち切られず、生産緑地の保持が図られることになった。

 

これとは別に、納税猶予を受けた生産緑地で営農が困難になった場合、貸付が認められる制度があるが、身体障害者手帳(1級, 2級)の交付を受けていることなどハードルは高い。

 

納税猶予制度って利用した方が良いの?

貸借の円滑化が図られたとは言え、終生営農の条件そのものは緩和されていない。

目先の相続税を避けるために納税猶予を受けてしまい、途中で営農を続けられなくなると、雪だるま式に膨れ上がった利子税を支払う羽目になる。

それならば、最初から営農を諦めて、相続税を支払ってしまった方が良いことになる。

相続発生時には、相続税のことだけではなく、家族の状況などを考えて、先を見通した判断を下さなければならないのである。

よく考えずに納税猶予を受けるのは結局、先祖伝来の土地を守ることには繋がらないと思われる。

 

不動産鑑定士 林愛州

 

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