指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『示談屋』

2019年12月03日 | 映画
1963年の日活作品、監督は井田探、脚本は安藤日出夫、病室で女性がぐるぐる巻きの包帯が解かれていて、顔がアップされると大きな傷が残っている。
誰かと思うと松本典子で、石原裕次郎・浅丘ルリ子3部作の「テンコ」の松本典子である。これは、脚本家の山田信夫が何かの作品で松本典子と知り合い、気に入り、テンコと呼んだことに由来する。
彼女は人気ファッションモデルで、事故を起こした車の事故係の川地民夫は係長の佐野浅夫と彼女のマンションに行き謝罪するが、佐野は松本が不注意で道路に飛出したのが事故の原因だと主張する。


また、交通事故で被害者の土方弘が病院に運ばれると、交通事故協会の小池朝雄が駆けつけるが、そこには同業の小沢栄太郎がいて、土方と話している。
小沢は、病院の事務長の下元勉とぐるで、事故を通報してもらい、事故の交渉人を引き受けている。
小池も小沢も、示談屋で、交通事故の加害者と被害者の交渉を引き受けているのだ。
小沢の息子は川地民夫であり、これが最後の悲劇になる。
元は、関西テレビのドラマで、細部があって面白いのは意外というのは、この時期の井田探の監督作品はつまらないものが多かったからだ。
早稲田の映研の同期生の金子裕君とは「日活の井田、東映の鷹森立一は見る必要はない」と言い合ったものだ。

川地は気の弱い男で、松本を見舞いに行くと病院は退院していて自宅にいるという。
自宅は、南千住で、木造住宅の密集地区であり、隅田川には船が繋がれている。
南千住は、まだ当時は、戦前の小津安二郎映画のような下町で、今の高層マンションエリアではない。
彼女は、貧困の中でモデルで家に金を入れていたのである。妹は、進千賀子だった。
顔の傷でモデル事務所を首になり、松本は自殺してしまう。



土方の事故交渉をめぐって小沢と小池の争いも面白いが、この辺はさすがに名優たちである。
最後、事務長の下元とのもめ事から小沢の家に来た看護婦の久里千春と川地はできてしまう。
この頃、久里は、お色気担当女優だった。
家から逃げ出した久里を追って道路に飛出した川地は、トラックに跳ねられて死んでしまう。
死体置き場に、小沢と別れた母親が現れるが、なんと杉村春子!
ここで、小沢と杉村の怒鳴りあいがさすがに凄い。
事故を起こした車は、なんと川地が勤める会社で、小沢は強硬に主張するが、会社の弁護士大森義夫は「裁判にしたら」とはねのける。
最後、絶対に勝ってやるぞと小沢は決意する。

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