前回の記事に引き続き 『日本のための日本語文法入門』原沢伊都夫著の内容を紹介していきます。
格助詞の重要性
前回の記事で、日本語の文章は「述語」が文章の中心であり、主語を含めてその他の言葉は述語を修飾する成文である、と紹介しました。
その成文が、「述語」と、どの様な関係なのかを指定する言葉が格助詞です。「~が」とか「~で」とか「~に」という言葉です。これらの格助詞があれば、ある言葉の意味を知らずとも、述語とどの様な関係なのか(場所のことなのか、それとも対象のことなのか、等)ということが分かります。
実例を見ていただいた方が分かり易いでしょう。以下の文章が、格助詞がない文章です。
ティジュカ ジョアキン フェジョン シキンニョ 食べた
(本書19頁)
一つ一つの成文(述語を修飾する言葉)の意味を知っていれば大体の意味を理解することができますが、格助詞がない状態では、これらの未知の言葉が場所を示しているのか、主体なのかが分かりません。それでは、格助詞を補うとどうでしょうか。
ティジュカで ジョアキンが フェジョンを シキンニョと 食べた
(本書19頁)
格助詞を補うだけで、意味が分からない言葉であったとしても、述語との関係が分かるのではないでしょうか。
成文 | 格助詞 | 熟語との関係 |
ティジュカ | で | 場所 |
ジョアキン | が | 主格 |
フェジョン | を | 対象 |
シキンニョ | と | 相手 |
ちなみに、この例文で用いられた言葉は以下の内容です。
成文 | 意味 |
ティジュカ | リオデジャネイロ市内の地区名 |
ジョアキン | ブラジル人によくある名前 |
フェジョン | ブラジル人が毎日食べる料理 |
シキンニョ | ブラジル意図によくある名前 |
「~が」と「~は」の違い
二つの層から構成される日本語文
日本語の文章は、大きく二つの層によって構成されていると言います。一つは客観的な事実であり、もう一つはその事実に対する話者の態度です。例えば、次の文章です。
きっと今晩雨が降るにちがいない。
太字の出来事を表すパーツと、マーカーで記された、話者の推量を表すパーツで構成されています。本書では、出来事の部分を「コト」、推量の部分をムードという言葉で表しています。
円高で輸入品が安くなっていると思う。
内閣が総辞職するそうだ。
もしかしたら今の会社を辞めるかもしれない。
父親が台所でカレーライスを作ったなんて信じられない(以上、
本書37-38頁)。
「~が」と「~は」の違い
本書に述べられる所によると、「~は」とは、ムードの主題(話者が特に話題の中心として相手に伝えたいこと)を表す言葉であり、必ずしも主格につくことが限定されるわけではありません。
父親が台所でカレーを作った
上記の文章は、特に主題が定められいない文章ですが、父親にスポットライトを当てるとどうなるでしょうか。
父親は台所でカレーを作った。
上記の文章は、「父親が 台所で カレーを 作った」という文章の中、「父親が」という言葉が主題として選ばれ提示された文章であると言えます。「父親について言えば、台所でカレーライスを作った」という意味合いの文章です。先ほど、「~は」という言葉は主格につくことに限定されない、と言いましたが、他の成文にスポットライト(主題)をあてると以下の様になります。
父親は(父親が)台所でカレーを作った
台所では父親が(台所で)カレーライスを作った
カレーライスは父親が台所で(カレーライスを)作った
太字が主題で、マーカー部分がその他の成分です。次回の記事では、いよいよ日本語の特徴的な文法に現れる日本人の精神について紹介していこうと思います(何気なくこの文章を書いていましたが、「次回の記事」という事を主題としてあげていたことに今気づきました)。