ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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超紫光線の恐怖、あるいはブラック・ラグーン・フィフティー日記。

テキーラを炭酸で割って、日記を書き始める。

 

この数日の特筆するべき事柄、体重が50キロを切った。

 

体重を落とそうと思っているわけではないのだけれど、この一ヶ月ほど、たぶん毎日10キロはランニングをしている。けれど、梅雨が明けて日差しが強くなり、気温も上昇し、日陰のまったくない炎天下の湖沿いを走ることがしんどくなってきたので、ある日走るコースを変えた。

 

太陽の光を避けることが出来る森の中のコースを走ることにした。

 

距離は数キロほど減ったと思うが、やけに坂があったり階段があったりする起伏の激しいコースのためか、体感としてものすごくハードに感じるようになった。気温の上昇もあるのかもしれないが、森の中コースに変更してから、家に帰り着く頃には、最後に邪悪な沼地でも横断したかのように、全身がずぶ濡れで、もう様々な箇所から地面に水分が滴っている。森の中だから湿度も半端ないのかもしれないけれど、客観的にみたら、たぶん異様な姿だと思う。人とも結構すれ違うからさ、「あっ、なにか濡れた人影がこっちに来るっ、逃げなきゃ!!!」と思われているに違いない。

 

上下真っ黒の濡れるとテカテカするスポーツウェアで走っている。ビショビショなので、水中からあがってきた感は否めないと思う。ブラック・ラグーンから来た怪物系である。

 

さて。

 

太陽の光を避けようと思った理由は、単純に日差しがしんどいということもあったのだが、もうひとつ、今の今まで何十年も、太陽に肌が焼かれることに何の頓着もなく生きてきたおかげで、一年ほど前から、顔がとんでもなくシミだらけになっていることに気が付いたからだった。

 

いまさらもう、どうしようもないくらい、もうシミしかない顔になっていた。目とか鼻とかではなく、シミしか認識できない。

 

いつだって、おれは気付くのが大いに遅い。

 

そこまで来て、この期に及んでどうしようもないのに、UVを少し恐れだし、日中の移動時に傘をさすようにさえなった。雨を避ける以外に傘をさしたことなど、ほんとうにない。

 

けれど詰めが甘く、その傘はまったく対UV仕様ではない単なる雨傘のため、普通に日に焼けている自分に、ある日暮れに気が付き、空を見上げた。

 

ウルトラヴァイオレットなんて強そうな名前なのに、おれはなぜもっと前に、それを恐れなかったのか。

 

どこぞの原住民族の入れ墨みたいなシミが両頬を覆い尽くした今、まあそれはそれで、ええやん、なんだったらその波に乗じて顔にタトゥーでも入れてしまえ、な〜んて風にも思っているが、いやいや早まるな、おれよ。

 

体重の増減とか、顔のシミとか、白髪とかシワとか、この日記を書いていたら、もうどうでもいいわ、と今思えてきた。体重が50キロを切ったからって、それがいったい・・・。

 

おれは、いったい何のために毎日走ってるんだろう・・・。

 

ヴァンパイアのように太陽の光を恐れながら、陰でブラック・ラグーンの怪物呼ばわりをされながら、何を求めて森の中を彷徨い走っているのだろうか。

 

日記の中の一人称が、きょうは「おれ」だった、たぶん。

 

おれが、「おれ」を使う時は、大抵はクリーチャー・モードの時である。つまり、自分を偽らずにいる時のこと。

 

眠たくなってきたから、もう眠ろうかな。

 

今の気温、31度もあるじゃないのさ・・・、おかしいだろ。熱帯夜とかそんなレベルじゃないじゃん。周囲が暗いだけで、昼の温度じゃん。

 

「先生、ここは・・・、ここは一体どこですかっ・・・?」

 

「私にもわからないよ、アーサー、しかし、あれを見たまえっ!」

 

「あっ、あれは・・・、あれはまさか・・・、」

 

「ああ、そうだアーサー、あれは、ブラック・ラグーンだよ。」

 

「先生、何かがっ!水の中から、何かがっ!!!」

 

「ああ、なんてことだ・・・、神よ、お助けくださいっ、走るんだっ、アーサーっ、走れっ!!!」