徒然草紙

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『ラデツキ―行進曲』 ヨーゼフ・ロート

2020-11-28 12:41:53 | 読書
ヨーゼフ・ロートの『ラデツキ―行進曲』。
 
ソルフェリーノの戦いで時の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の危急を身を挺して救った功績により、貴族となったトロッタ家3代にわたる人生を通してハプスブルグ帝国の滅亡を語る長編小説。これがこの作品の梗概になります。
 
トロッタ家3代の人々は長命だったフランツ・ヨーゼフ1世とともにハプスブルグ帝国の運命と関わります。初代は皇帝の命を救い、貴族となり、2代目は地方官吏、3代目は軍人といった形で帝国につかえていきます。
 
主な主人公は3代目のカール・ヨーゼフです。彼には軍人としての才能も世の中を押しわたっていくだけの勇気もありません。状況に流されていくだけの存在です。平和な時代であれば無難に人生を歩んでいくことができたかもしれません。しかし時は第1次世界大戦前夜の騒然とした時期。やがて大戦が勃発するとともに戦場におもむいた彼はあっけなく戦死してしまうのです。
 
第1次世界大戦の終結とともにハプスブルグ帝国は解体しますが、私にはカール・ヨーゼフの死はハプスブルグ帝国のそれと重なるように思えました。
 
ソルフェリーノの戦い以降、帝国は連戦連敗。坂を転げ落ちるようにして滅亡への道をたどっていきます。それは皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の人生であり、彼によって貴族に列せられたトロッタ家の人々の人生でもありました。初代、2代は世間に伍して生きていきますが、3代目ともなるとただ資産を食いつぶしていくより能がないのです。
 
ハプスブルグ帝国の滅亡もこれと同じで、先祖が戦い取ってきた遺産を食いつぶしてしまった結果というのは言いすぎでしょうか。もっとも他民族国家であったハプスブルグ帝国はこの時期に高まった民族主義の嵐に押しつぶされたという見方もできます。
 
しかし、この作品からはハプスブルグ帝国の問題解決への勢いといったものを感じることはできません。というよりも帝国をめぐる情勢がなんら描かれていないのです。そのため、私のように歴史にうとい者にはハプスブルグ帝国がひたすら退嬰的で滅ぶべきして滅びたといった印象しか残りません。
 
その姿がトロッタ家3代目のカール・ヨーゼフに投影されて描かれていると思うわけです。
 
『ラデツキ―行進曲』はハプスブルグ帝国への挽歌といった意味合いをもつ題名であるのでしょう。軽快で明るいテンポをもつ曲であるだけに哀しい気持ちになります。

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